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歴博 陰陽師展2023に行ってきた。

先日、千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館(歴博)に行ってきました。
いま開催中の企画展示『陰陽師とは何者か: うらない、まじない、こよみをつくる』と、あわよくば常設展も見て回りたいな~という動機によるものでしたが…

甘かった。
三時間半ちかく企画展示室をうろうろして終わりました。興味がある人にはたまらない、見応えたっぷりの展示会ですね、はい。

本展は三部構成で、展示内容のイメージは公式サイトの参考画像で概ねつかめると思います。このnoteでは印象深かった展示物を中心に、感想をつらつら書いていきます。

※CAUTION※
これはFGOの蘆屋道満にハマって以来、今まで縁のなかった陰陽道に浸かるようになったオタクの文です。
専門家でも何でもないので多分に誤りが含まれる恐れがあります。識者の方は間違いを見付けたらコメントで優しく教えてくださると幸いです。

歴博エントランスにて。ちびキャラでゆるさを演出しようとしているけど、中身はガチガチの歴史民俗テーマの展示会だぞ!

第一部:陰陽師のあしあと

企画展示室はB1Fに位置。チケットを購入し、展示室入り口 左手のエレベーターで地下に降りたら企画展示室Aはすぐそこ。

今回の展示会の目玉は、なんと言っても陰陽道に関する貴重な一級資料が豊富に展示されていること。歴博所蔵の吉川家文書のほか、若杉家文書谷川左近家文書といった、陰陽道本に必ず現れる参考資料の実物がわんさと出展されていて、古びた和紙の風合いや紙魚に喰われた穴にときめきつつ、泰山府君祭の都状にわくわくできます。
……ここまでお読み頂ければご理解頂けるのではないでしょうか。この展示会、出典資料が地味めです。夢枕小説や漫画に出てくる華やかなゴーストバスター陰陽師は今回はお休み、陰陽道のリアルに触れよう、という試みなのです。
一応、あとで安倍晴明という実在人物が神格化されていく過程として安倍晴明物語や信田妻(しのだの森の狐と半人半狐の子供の物語)を紹介した展示はあるのですが、基本的には平安時代から江戸時代にかけての陰陽師という職業に関する総合資料展です。事前に陰陽道本に軽く目を通しておくと、より楽しめるタイプの展示だと思われます。

上に掲げたのは読みやすい個人的オススメ本。
『陰陽師 安倍晴明と蘆屋道満』(中公新書1844)は繁田伸一先生著。他にも陰陽道本多数。
『陰陽師の解剖図鑑』は図が多くて情報量もなかなか。
陰陽道本はスピリチュアル系や占い本も多いので本を探す際は注意が必要ですね。

陰陽道関連文書のメモ:若杉家文書

若杉家は京都の陰陽師の家系で、安倍晴明の子孫である土御門家の家司(現代日本人のイメージする執事みたいなもの)を務めた若杉一族が保有していた陰陽道関連の文書群。いまは京都府立総合資料館が管理しており、総数は二二八五点にも上るとか!まさに陰陽道を知る一級資料です。
その中にはみんなだいすき晴明の本『占事略決』や、No.101で陳列されていたHow to 反閇ブック『小反閇作法』が含まれています。小反閇作法は兎歩の踏み方、護持法の呪文の数々を掲載したものとして有名です。兎歩ホントにやってたんだと思わず感動。

吉川家文書

奈良の暦師・陰陽師である吉川家に伝わった江戸時代の陰陽道に関する資料九百点を歴博で所蔵しているそう。
No.72『星図歩天歌』は中国の星座を覚えるためのポエム本。中国の天文星図が美しく、ギリシャ星座とは違った趣が楽しい。
吉川家文書には書籍だけでなく物品も含まれており、No.97『筮竹』などの占い道具の実物が興味深いですね。No.109では何と実際に使われたらしき陰陽師の装束を展示。古びてはいますが、おなじみの陰陽師衣装の実物を見ることが出来るとは貴重な体験です。

谷川左近家文書

土御門家が応仁の乱を避けて疎開した福井県名田庄にて、本家が京都に戻った後も残された地所を管理していたのが吉川左近家。その家系に伝わった文書群で、各種呪術文書のほか陰陽師として活動するための免許など、江戸時代の土御門家がどのように全国を支配していたのか分かる資料が色々と出ています。

その他

No.48付近の呪符かわらけと、その図案の掲載された呪術文書が良かった。呪術の図案が示された書物が流布していて、それを実際にかわらけに記して術を行使した事例!生きた呪術、興奮しますね。

第一部についてはまだまだ面白い展示がありましたが、記事が長すぎるのもアレですのでこの辺りで切り上げます。詳細はぜひ、貴方の目で!

第二部:安倍晴明のものがたり

安倍晴明の伝説を紹介しているパートです。
第一部と比べてシンプルな印象ですが、これは本展の主役が歴史上の名もなき陰陽師たちであり、伝説上の安倍晴明でないからなのかもしれません。

しかし展示物はツボをついた良品揃い。No.135は晴明神社から貸与の安倍晴明肖像、No.133は晴明が式神を控えさせて祈祷を行う場面で有名な『泣不動縁起絵巻』、その大型フィギュアが展示エリア中央にどんとあります。けっこう大きい。異形のものたちが可愛い。縮小ジオラマセット出ないかな…

その他、玉藻の前との因縁を描いた絵巻(No.148)、伝説上で蘆屋道満に奪われた『金兎玉兎集』(No.152)、『安倍晴明ものがたり』(No.153)などなど。
海女さんが所持したというドーマンセーマン紋の手ぬぐいも展示がありました(No.156)。しっかりした刺繍に祈りを感じます…

第三部:暦とその文化

ここからは部屋を移動して企画展示室Bへ。雰囲気ががらりと変わって暦法の資料展示がメインになります。
そういえば、忘れそうになるけど陰陽師の仕事って元は呪術じゃなくて暦作成だったんですよね。
どこへ行っても太陽暦カレンダーに溢れた現代を生きる我々にとって正確な暦の重要性を想像するのは最早困難です。でも、平安時代もその後も、日時による禁忌の生きていた時代には、暦を読んで吉凶を割り出していた。そんな時代の気配を垣間見ることが出来ます。

陰陽師社会において造暦は長らく賀茂家の司るところだったそうですが、室町時代に賀茂氏が絶え、江戸時代の改暦というビッグイベントに土御門家が関わったことで、以降は幕府の天文方と安倍晴明の子孫が受け持つようになったそうです。
ここの展示の主役は改暦事業の中心人物・渋川春海と土御門泰福。この二人の関わった貞享暦のエピソードを知っていると楽しいこと間違いなし。良く知らないという貴方、まずは小説『天地明察』を読もう。図録にも読めと書いてあります。個人的には小説も良いけど、より描写が細かく絵もついた漫画版がオススメ。

原作小説版(トラウマメイカー冲方氏にしてはしっとり大人しい良質な時代小説)

当時の器材をよく描き込んでおり、理解が進む名コミカライズ

小説で出てきた渾天儀(No.192)、『天文図・世界図屏風』(No.199)は圧巻の一言。細かい…伊能忠敬の登場する以前に測量技術はここまで高まってたんだなぁ、なんて歴史ロマーンに浸ります。

その他、地方暦として知られる三嶋暦伊勢暦の展示もあり。こういう民間信仰と結びついて生き延びた暦は今でも見かけることがあり、明治維新でも一掃できなかったんだと思うと面白いですね。
太陽暦への変更は急遽決まったそうなので、当時のカレンダー職人は大変だったでしょうなぁ。

と、まだまだ語りたいところではありますが、詳細はぜひ、現地でご覧ください。
佐倉まで行けないよという方には図録があります。というかこの図録、陰陽道ファンはぜひ買いましょう。下手な陰陽道本よりも情報量があります。Amazonや全国の書店でも取り扱いありの親切設計。重いので事前に買っちゃうのも良いですよ(私は先に買いました)

おまけ:博物館へのアクセス

車で行って良し、電車で行って良し。
佐倉城址公園の一隅が歴史民俗博物館になってまして、博物館前に駐車場もありますし、バス停もあります。
最寄り駅からはバスでアクセスするんですが、JRと京成線のどちらの駅も同じバス路線上にあるので、好きな方に乗ればOK。時間によってはJRの本数が少ないので、京成線で京成上野を目指した方が都心からのアクセスは良好かもしれませんね。

更におまけ:参考資料おかわり

上では書ききれなかったオススメ陰陽道本『秘説陰陽道』
詳しく陰陽術について解説している良書。呪術のウェイトが高めですが、オカルト寄りではないので興味深く学べます。

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