つぶやき

僕は物静かな男だ。
沢山の人が集まり、騒がしいのは好きではない。かと言って自然が好きなアウトドア派でもない、自分でも面白くない男だと思っている。
そんな僕に彼女ができた。
優しくて、よく気がつく…本当によく気がつく。悪い事ではないけど。

休日の昼下がり、2人でつくろいでいた。
キッチンの彼女が急に話しだした。

「ねぇ、こうやって水を薬缶に注ぐ時ね」

いつものように唐突に彼女が話し出す。
こうやって彼女が話し出す時は決まってどうでもいいことなんだけど、僕は急に始まる彼女の話しが好きだ。

「必ず水が入るのは薬缶の下よね。
あぁやっぱ、あんまり下すぎるとしぶきが飛ぶからなんか入れにくいな。横だとそれてしまうから入らないっと。やっぱ、薬缶と水の距離って正しさがあるのかな」
コーヒーを入れるだけなのに薬缶と水の距離かぁ…
「そうだよ。僕と君の距離も、こんなに離れていたら話かけられているのか、独り言なのか分からないのと似てるね」
と、言おうとしてやめた。

人の話ってのは、距離だけじゃなくて、聞こうとしているか、していないのかによって、言葉が頭に入って来なくてただのノイズになる事もある。気持ちの距離が離れていると、何も言わないより悪くなるみたいだからね。

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