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初めてのライブハウス

初めてライブハウスに行った。ずっとずっと好きなバンドだったのだけれど、1人でライブに行くのが怖かった。今回のツアーのチケットが販売されたとき、そのバンドのLINE@からいつも通り通知が来た。いつも通りふうん、と流し読みしていると、ふと机の上の紙が目に入った。いつ終わるかもわからないけれど外出を控えざるを得なかった2年間に、いつかやりたいことをリストとして書いていた紙。そこに、ライブに行く、と書かれていた。それでもう「あ、行くなら今だ」とわかってしまって(たまに、こんな風にわかってしまうことがある)、何かにぐっと背中を押された勢いで、気づいたらチケットを取っていた。母に内緒で。私は母の言うことを聞かない、不良なのである。

ライブの直前にオンライン授業を受けなければいけなかったので、カフェに入った。Wifiとコンセントがあるカフェを事前に予習しておいたのだ。コンセントがある席はカウンターだけだということまで把握していた。私は真面目ちゃんだから。対面式のカウンター席に座ってコンセントを探したが、机の上にはそれらしきものがない。ははん、おしゃれなカフェのおしゃれなテーブルだから、コンセントが目立たないようなおしゃれ設計なのかしらん、と思ってさりげなく多角的に探してみたけれど、どこにもない。コンセントどこ…。コンセントがなければまずいのである、パソコンもスマホも充電するつもりだったのに。カフェで注文したサンドウィッチを食べながら、私は同じカウンター席に座っている人(とコンセントの関係)をくまなく観察した。カフェのおしゃれ感が私を刺す、キョロキョロしてすみません…。おや、私の隣のお姉さんは携帯を充電してるっぽい。どうやらカウンター席でもコンセントがある席とない席が存在するようだ。そうとわかれば話は早い。神経を集中させてもぐもぐしていると、斜め前のおじさまが席を立たれた。私はサンドウィッチのゴミを捨てるふりをしながらぐるっとまわっておじさまのいた席を見た。ある!!コンセントある!!どっちかというとおじさんの席の隣の、お兄さんの席寄りの位置だけど!頑張ればいける!私はそそくさと席に戻って荷物を取り、(元)おじさまの席に陣取った。ふう、これで安定的なエネルギー供給にありつけたわけだ。さて充電しようと、コンセントの位置を再び確認すると、コンセントは思ったより隣のお兄さんの席の側である。ひぃぃ!遠目で見たらコンセントはもう少しこちら側で問題なく使えると思ったのに…。お兄さんはコンセントを全く使わずに紙の本で勉強しているのだけど、とても集中しておられて、声を、かけづらい…。こんなおしゃれカフェで、見知らぬ人に話しかける度胸など持ち合わせていない私は撃沈した。迫り来る授業開始時間。どどどどどどうしよう。一周回って空を見つめてぼうっとしていると、隣のお兄さんが帰ろうとするではないか!このタイミングで!!うわあお兄さんありがとう、お勉強お疲れ様です。お兄さんが荷物をまとめて去ったあと、私はそれとなく充電器を取り出し、「コンセントどこにあるかなあ?」と探す演技を始めた。あれ、隣の席にあるじゃん、と気づいたふりをし、隣の席に移動した。おしゃれカフェで2回も席を変えると言う怪しげな行為を達成したのち、ついに辿り着いた!!サンキュー、コンセント。2つ充電できるコンセントだったから、パソコンとスマホの充電を意気揚々と始める。授業にも間に合った。ドリンクを飲んでふうと落ち着く。まったく、思ってもみない冒険だったぜ。時間通りに授業が始まってしばらく経つと、私がさっきまで座っていた席にお姉さんが座った。充電器を持って机の下を探っている。わ、お姉さん、コンセント探してる!!その席にはないねん、コンセント。私知ってるねん。考えるより先にパソコンの充電器をコンセントから抜いて、「あのう…コンセントひとつ使います?」と話しかけていた。私って、イケメンだなあ。

ライブは初めてということもあって2階席から見たのだけど、前列の人の間から、大好きで憧れでかっこいいボーカルとちょうど目が合う位置だった(ほんまやから!)。ありがとう、コンセントの神様。音が形を持って身体に響いて空気と私の境目が曖昧になった。ライトがきつくて眩しくて目がチカチカして、目を閉じないと耐えられないときもあった。メンバーみんな超かっこよくて、何曲も何曲も、手を抜かずに全曲を全力で演奏してくれて。静かに揺れている人も一緒に歌っている人も、それぞれ好きに楽しんでいて。テンションが上がると地蔵化する私がいてもおかしくない。ずっと1人でイヤホンで聴いてた歌と一緒に、人がぎゅっと集まった暗いライブハウス全体が揺れて。かっこいい、かっこいい、かっこいい。みんなの視線を全部背負って、安心して見つめさせてくれる。言って欲しかったことを言ってくれてしまう。強くて優しい。泣けるくらい歌詞がまっすぐで、でも素直に一直線にはそうならなかったでしょう。そして、やっぱりやっぱり声が良い。
もう最高だったの。

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