小海老のニンニク風味〜ヴェネツィア名物チケッティ
ヴェネツィアの酒飲み文化に燦然と輝く金字塔、それはBacaro=バーカロ
と呼ばれるヴェネツィア版居酒屋です。朝から晩までやっていて、
ちょいと軽くひっかける立ち飲みOmbra=オンブラ(ワインを一杯というヴェネツィア語)から、散歩の途中の小腹ふさぎ、アペリティーヴォはもちろん、ちょっとしたつまみに地酒、それにシメの腹ごしらえまで幅広く
カバーする実に便利な店のこと。
#ワインの肴チケッティ
バーカロでは立飲み、立食いが基本。カウンターやガラスケースに大皿に
盛られた料理が並び、注文すると少しずつ小皿に取り分けてくれます。
これがオンブラの相手、 #ヴェネツィア名物のCichetti =チケッティ 。
小魚や魚介のマリネ、干ダラのペースト(バカラ・マンテカート)、
アーティチョークに小タマネギのマリネ、茹でた白モツや牛スジ
(ネルヴェッティ)等々、前菜にもなるようなワインの肴です。
どれもある意味、地味な代物だけれど、だからこそ病みつきになるような
味わい深いものばかり。
ワインがすすむ味であることはもちろんですが、あまり食べごたえが
あってお腹がふくれるようでは具合が悪い。
つまりいつまでもいじいじと飲み続けるためのアテでなくてはならない
のです。
そこで考案されたのが、ごく小さな海老(schie=スキエ)や
つぶ貝に似た巻貝(garsoli=ガルソリ)、小指の先ほどの
小さいエスカルゴ、キオッチョリ(ヴェネツィア語ではBovoli=ボヴォリ)などのニンニク風味のマリネです。
ひたすらチマチマと殻を剥いたり(ヴェネツィア人はどんなに小さな海老
の殻も足も頭も決して食べません)、楊枝で身をつついて取りだしたり、
手間のかかるところが、お喋りしながら長々と飲むのには、
うってつけなのです。
*小さいエスカルゴ、キオッチョリ(ヴェネツィア語ではBovoli)
*ラグーナのごく小さな海老(schie=スキエ)
#食べ方もヴェネツィア流で
*ヴェネツィアの台所でマンマとガンベレッティのニンニク風味を作る
我が家でも、チケッティをずらりと並べてバーカロ風な食事会をします。
結局きちんとしたフルコースより、こういうつまみ的前菜的なものばかりをいろいろ食べるのが、気楽でおいしいのかもしれません。
それに作り置きできる料理は、一度並べてしまえば、自分もゆっくりワインが飲めるので楽ちんなのです。
キオッチョリやガルソリはヴェネツィアにいてこその食材、自宅でニンニク風味のマリネを作るなら、比較的手に入りやすい
「gamberetti con aglio e olio=小海老のニンニク風味」が定番です。
ヴェネツィアではラグーナで獲れるごく小さい海老を使いますが、
無いものねだりしても仕方ないので、そこは芝海老などで代用します。
これを茹でてマリネにするのですが、作った次の日ぐらいが味がしみて
一番美味です。
そしてたしかにこれは酒飲みヴェネツィア人の悪魔的発明の一品に
違いなく、ぴりっとニンニクのきいた味はあとをひき(uno tira altro)、
白ワインが果てしなくすすみます。
我が家に来るお客の中にもこの小海老の熱狂的ファンがいますが、
だいたい皆酒飲みです。
ただしここで大事なのは、食べ方もヴェネツィア流を守ることです。
茹でた小海老の殻や足など日本人的には丸ごと食べてしまいたいもの
ですが、ヴェネツィアでは、あのしゃりしゃりした食感を嫌い、
決して口に入れません。
「どうして?丸ごと食べたほうがおいしいのに」と、日本人たちは
皆口を揃え、そして丸ごと食べてしまいます。
実は私自身もはじめはそう思って食べていました。
でも、今はきちっと殻や足を取って食べています。
何故か?そうしないとこの料理の本当の味ではないとわかったからです。
たしかに身だけを口に入れてみると、別の食べものといっていいくらい、
やわらかな海老の甘みと旨みが繊細に味わえるのです。
*バーカロ風な「オンブラ・エ・チケッティ」の食事会のメニュ。
小海老のニンニク風味は定番です。
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¥ 150
デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。