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ヴェネツィア名物オンブラ・エ・チケッティ


ヴェネツィアにはBacaro= #バーカロ がある。
バーカロとは、いわゆるバールとトラットリアを合わせたような、
ヴェネツィア独特の店の呼び名。
ふつうのトラットリアと一線を画するのは、ここがワイン飲みを主体とした居酒屋だというところです。
入り口に(立て込んでくると立飲みテーブルにもなる)ワイン樽が
ひとつふたつ並べてあるのが目印。
中を覗くとたいがい鰻の寝床のように細長く、バンコと呼ばれるカウンターがのびています。入り口近くの立ち飲みスペースを抜けていくと奥の空間は意外と広く、食事のできるテーブル席があります。

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とあるバーカロの入り口に掲げられた言葉。
「この土地ならではの歴史的なものがある。
ヴェネツィア人であることの名誉、誇り、そして美徳。
どうぞ入ってご賞味ください。
ヴェネトの伝統と文化のひと時を」

オンブラ・エ・チケッティは居酒屋の合言葉

そのバーカロでカウンターの向こう側に「ombra=オンブラ(日陰)」
ひと言かければ、さっと一杯のワイン(伝統的には赤ワイン)が
出てきます。この隠語のような言葉はその昔、サン・マルコ広場の
カンパニーレ(鐘楼)の日陰にあったワイン売りに由来し、
ひいてはちょいと一杯ひっかけるワインのことを指すようになったとか。
さすがは筋金入りの呑んべえヴェネツィア人、日の高いうちから堂々と酒を飲んでいたというわけです。
それにしても「日陰を飲む」なんて、なんとも粋ないいまわしです。

バーカロは地酒を中心にしたワインの種類が豊富で、当然料理もワインに
合わせたバリエーション。バーカロのカウンターには作り置きした料理の皿がずらりと並び、まるでヴェネツィア料理図鑑のようです。例えば、

鰯の甘酢漬けサオール、鰯のマリネ、
干ダラのペースト(バカラ・マンテカート)、
ネルヴェッティという牛スジ、
サラミやプロシュット、
ポルペッティという揚げミンチボール、
茹でたトリッパ(白モツ)、
シャコや小海老、蛸のマリネ、
イカや小魚、魚介のフリット、
焼いたズッキーニや豆などのオイル漬け、
カルチョフィ(アーティチョーク)のオイル煮 
等々、

どれもこれも食べてみたくていつも目うつり、迷いに迷います。
注文すると少しずつ小皿に取り分け、串を添えて出してくれる。
これがヴェネツィアではcichetti=チケッティと呼ばれる、ワインの肴。
つまみぐいの要領であれこれ選べて楽しいし、目の前にあるものを指さして注文するので間違う心配もありません。
しかも、どれも一皿100円くらいからと唖然とするほどのお値段。
このワインと肴、Ombra e Cichetti= #オンブラとチケッティは、
居酒屋バーカロでの合言葉なのです。

その他これもヴェネツィア名物の具沢山のトラメッツィーニ
(サンドウィッチ)やパニーニ
もよりどりみどりで、
これで軽い食事にもなります。
オンブラとチケッティで小腹をふさいだら、さっとひき上げるのが
ヴェネツィア流らしいのですが、立ち飲みでアペリティーヴォと前菜を
楽しみ、後半は奥のテーブルに落ち着いて、パスタやリゾット、
魚介のフリットなどで本格的に腹ごしらえすることもできる。
ここには #酒飲み食文化のエッセンス がぎっしり詰まっているのです。

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#チケッティはヴェネツィア家庭料理

バーカロでチケッティとして供されるヴェネツィア料理は、どれもそのままマンマが作る家庭料理でもあります。
特に鰯の甘酢漬けサオールや干ダラのペースト(バカラ・マンテカート)はヴェネツィア名物料理の筆頭です。
昨今ヴェネツィアでも、これら手間のかかる料理はなかなかふだんの日には
食卓にのることのないご馳走になりつつあります。

家庭で前菜としてチケッティ、数種の肴をつまみながら
だらだらとおしゃべりとワインを楽しむのは、おうちならではの
至福の時間。よくヴェネツィアのマンマと鰯や小海老ののマリネや
アサリのレモン蒸しなどのチケッティを並べてバーカロ風を楽しみました。
これからひとつずつチケッティのいろいろを紹介していきたいと
思っています。

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*おうちで楽しむオンブラ・エ・チケッティ、
 時にはバーカロを再現して食事会「EL SAOR」を開きます。

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デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。