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天地人が注目する今月の宇宙ニュース~ 衛星通信 編~Vol.16

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。
地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。

今回は、
・世界最大級の通信衛星の打ち上げに成功(米国)
・中国による通信衛星コンステレーション構想 

・バイオ燃料の生産に衛星通信技術を活用
・衛星通信技術が遠隔医療の発展に貢献

について取り上げます。

それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


1.天地人が注目したニュース4選!

ニュース1:世界最大級の通信衛星の打ち上げに成功(米国)

世界最大級の通信衛星Jupitar-3の打ち上げが、2023年7月28日に行われ、無事に静止軌道へ投入された。Jupitar-3衛星は、米国の通信会社Echostarが所有する衛星で、米国の衛星製造メーカーMaxar Technologiesが製造。Echostarの子会社であるHughes Network Systemsが提供する、米国内の衛星通信網サービスに利用される予定である。Jupitar-3の重量は9.2トンで、SpaceXのFalcon Heavyロケットにより打ち上げられた。

出典:https://interestingengineering.com/culture/heavy-worlds-heaviest-commercial-communication-satellite

ニュース2:中国による通信衛星コンステレーション構想

中国のIoT向け通信衛星、Shiyan衛星(中国国家による試験衛星の名称)が今年7月上旬に打ち上げられた。中国では、「中国衛星ネットワークグループ」ビジョンを掲げ、2020年からITU(国際電気通信連合)に働きかけ、衛星通信の周波数帯、通信衛星の軌道の利用枠を確保している。中国では、低軌道周回衛星(LEO衛星)のコンステレーションによる衛星通信網の構築が、地政学的に重要だとの戦略のもと、SpaceXのStarlinkに追随する形で、通信衛星コンステレーションの構築を急いでいる。

出典:
https://www.digitimes.com/news/a20230725PD211/china-leo-satellite.html

ニュース3:バイオ燃料の生産に衛星通信技術を活用

バイオ燃料の一種である合成ガスは、よりクリーンで持続可能なエネルギー解決策を求める世界的な動きにより需要が高まっている再生可能エネルギー源の1つである。合成ガスの生成プロセスは複雑で正確な制御が必要とされており、リアルタイムで生産プロセスを監視・制御することが重要である。合成ガスの生産プラントは僻地に所在することが多く、生産プロセスの監視・制御には、衛星通信・ワイヤレスネットワーク通信の技術が必要となる。生産プラントと監視・制御センターは離れていることが多く、ガスの温度、圧力、流量等のデータをこれらの通信技術により伝送し、監視・制御することが求められている。

出典:
https://www.energyportal.eu/news/how-telecommunications-are-aiding-in-the-production-of-biofuel-from-syngas/64194/#google_vignette

ニュース4:衛星通信技術が遠隔医療の発展に貢献

現代において医療へのアクセスは個人の基本的な権利となっているが、医療施設から遠く離れ、各種インフラが整っていない場所に住む人々にとっては特別な権利となっている。衛星通信技術の発達に伴い、遠隔医療の可能性が広がっている。遠隔にいる医者が患者の病状を診断・モニタリングしたり、都市部と郊外部の医者のナレッジ共有も進んでいる。救急医療や災害時の医療においても、衛星通信が果たす役割は大きい。また、ヘルスケア教育や啓発にも衛星通信を介したプログラムが実施されている。

出典:https://fagenwasanni.com/news/bridging-the-gap-how-satellite-technology-is-improving-access-to-healthcare-in-remote-areas/56427/

2.天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した4つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人に所属する通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村の見解を記します。

ニュース1:世界最大級の通信衛星の打ち上げに成功(米国)

Hughes Network Systemsは過去25年以上に渡り、衛星通信サービスを提供してきた老舗です。一般消費者、中小企業、政府向けの衛星通信サービス提供で強みを発揮してきました。
2011年には、Hughes社と同様に衛星通信サービスを提供するEchostarにより買収されました。Echostarがメディア・放送事業者や企業、政府向けの顧客を抱えていたことを考えると、Hughes社を買収することで、Echostarの顧客層が小口にまで広がることとなりました。

Hughes社は、近年競争が激化している低軌道(LEO)を周回する通信衛星コンステレーションではなく、静止軌道(GEO)を周回する通信衛星コンステレーションを構成しています。合計で7基の通信衛星を運用しています。
GEOを周回するため、常に衛星が北米上空にあることで、少ない衛星基数で安定的に通信サービスを提供できるメリットがある一方で、衛星が巨大となるため開発コスト、開発遅延等のリスクが発生します。

2022年12月23日配信のTenchijin Tech Blogでは、COVID-19の感染拡大によりJupiter-3衛星の開発が遅れ、発注者であるEchostarが受注者であるMaxarとの契約を打ち切ろうとしたものの、Maxarが遅延金の支払いを行うことで、Maxarとの契約が継続したニュースを取り上げました。この度、Jupiter-3の打ち上げに成功し、関係者はほっとしていることでしょう。

下記に、Hughes社のGEO通信衛星コンステレーション(7基)を紹介します。

  • Spaceway 3

    • 2007年打ち上げ、通信速度10Gbps、Ka帯の周波数帯を利用

  • Jupiter-1

    • 2012年打ち上げ、通信速度120Gbps、Ka帯の周波数帯を利用

  • Jupiter-2

    • 2016年打ち上げ、通信速度200Gbps、Ka帯の周波数帯を利用

  • Jupiter-3

    • 2023年打ち上げ(今回)、通信速度500Gbps、Ka帯の周波数帯を利用

  • 他の通信衛星に衛星する相乗り衛星3基

    • 主に、ブラジル・南米に通信サービスを提供、Ka帯の周波数帯を利用

SpaceXのStarlink通信衛星が、Ku帯の周波数帯(10.7~12.75GHz)を利用していることと比較すると、Hughes社はKa帯(20/30GHz)の周波数帯を利用しているため、データ転送がより速くなります。
しかし、Ka帯は降雨による電波減衰の影響を受けることがデメリットとなります。
降雨による電波減衰に関しては是非、Tenchijn Tech blogのこちらの記事、【技術解説】宇宙からの高速インターネット接続~通信技術と気象/回線状況の予測技術の開発で需要の高まる通信衛星に対応~ をご覧ください。

Hughes社ではGEO通信衛星を活用し、新しい衛星を打ち上げるたびに通信速度を増大させてきました。今後も北米の衛星通信を支える存在として機能していくと考えられます。

参考文献
https://www.hughes.com/what-we-offer/satellite-internet
https://www.hughes.com/what-we-offer/satellite-services/jupiter-geo-satellites
https://www.echostar.com/solutions/satellite-services

(解説:プロジェクトマネージャー 木村)



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