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世界が注目する月を、誰でも分析可能に。天地人 MOON 徹底解説

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

11月2日、天地人は、天地人コンパス MOON をリリースしました。天地人コンパス MOON は、宇宙ビッグデータを活用した月の分析が可能な土地評価エンジンです。天地人コンパス MOON では、月食シミュレーションや、月面上の距離・面積計測が可能です。天地人がこれまで地球上の最適地を探索・分析するために養ってきたノウハウを活用しつつ、月開発の民主化を見越して、月の土地分析という新しい価値を提供します。

2022年の宇宙業界のトレンドは「月面探査」です。特に11月は、米航空宇宙局(NASA)月探査計画「アルテミス1」打ち上げや、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」打ち上げなど、月へ人類が進出するエポックメイキングなタイミングでもあり、皆既月食で月への関心が高まっているタイミングでもあります。

この記事では、前半部で、なぜ今「月」が注目されているのかをJAXA研究員の視点から解説。後半では、月面探査で今後必要性が増す「地形評価」で活躍する天地人コンパス MOON を詳しくご紹介します。

月面探査を知る

月面探査の歴史

月面探査の歴史のはじまりは、1950年代に遡ります。月に人を送ろうと、米国とソ連が月面探査機の開発を競い合っていました。

1959年9月、ソ連の無人探査機「ルナ2号」が月面に衝突し、地球以外の天体に届いた初めての探査機になりました。人類がはじめて月面に着陸したのは、1969年です。アポロ11号が人類初めての月面着陸に成功しました。

アポロ計画以降、しばらく月の探査は行われませんでしたが、1990年代に日本が日本初の科学衛星「ひてん」を打ち上げました。ひてんは、月の重力を利用して探査機を加速させたり方向を変えたりする技術を確かめるために作られた衛星です。日本は月の軌道に到達した3番目の国になりました。

ひてんの打ち上げを皮切りに、再び各国が月に探査機を送り出します。(クレメンタイン(アメリカ 1994年)、 スマート1 (欧州宇宙機関 2003年)、 嫦娥1(中国 2007年)、かぐや(日本 2007年)など)

近年では、月での人類の持続的な活動を目指した計画が進み、官民両方から月面探査機の打ち上げが行われています。

今年注目の月面探査計画

HAKUTO-R
民間ではispace(月面資源開発に取り組む日本の宇宙ベンチャー)が月探査計画「HAKUTO-R」を進めています。

HAKUTO-Rは、ispaceが2024年までに行う2回の月探査ミッションを統括するプログラムです。 独自のランダー(月着陸船)とローバー(月面探査車)を開発しています。
打ち上げたランダーを月面に着陸させる「月面着陸ミッション」を2022年に、同様に送り込んだランダーからローバーを月面へ降ろす「月面探査ミッション」を2024年に、それぞれ行う計画です。(HAKUTO-R の挑戦| 月への旅路, 毎日新聞社)

2022年の打ち上げ予定の月着陸船は現在打ち上げ地である米国フロリダ州ケープカナベラルへ輸送が完了しました。最短で2022年11月22日以降に打ち上げ予定です。

アルテミス計画
NASAも、アルテミス計画の最初の打ち上げを計画し、月面探査への注目が高まっています。アルテミス計画とは、NASAの月面探査プログラムです。

2024年までに月面に人類を送り、その後、ゲートウェイ(月面及び火星に向けた中継基地)計画などを通じて、月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動をめざします。2020年10月、この計画を推進するため、アメリカ、日本、カナダ、イタリア、ルクセンブルク、UAE、イギリス、オーストラリアの8か国が「すべての活動は平和目的のために行われる」ことなどをはじめとした、アルテミス合意にサインしました。(アルテミス計画 いま再びの月へ, AXA有人宇宙技術部門)
第一回の打ち上げは、2022年11月16日に行われる予定です。(NASA Twitter )

今注目される理由

ではなぜこんなにも月面探査が注目されているのでしょうか。その理由と、月面探査の未来を、天地人COO兼JAXA職員である百束が解説します。

鍵を握っているのは「近年の輸送手段のイノベーション」と「水」の2点です。輸送手段というのはつまりロケットのことです。スペースXによる再使用ロケット「ファルコン9」は、地球周辺における打ち上げコストを大きく低減させました。こうした背景をもとに、NASAによる有人月着陸システム開発企業の選定においても、スペースXが選ばれています。同社が開発するスターシップをベースにすることで開発コストの低減と、再使用化による製造コストの低減の両方ができるとされています。

輸送コストがある程度下がったとしても、やはり、月面探査をする意義はあるのか?という観点はあると思います。一つの切り口として、「水」が鍵を握っています。2018年、ハワイ大学等の研究チーム(Shuai Li et al, 2018)が月面に氷が存在するという証拠を発表しました。氷。つまり水は飲料水にもなり食糧生産にも使えます。加えて、電気分解すれば水素や酸素となりロケット燃料へも転用できます。実際に使用可能な「水」を見つける、これが月探査の直近の大きな目標となるのだと思います。

さらに先に話を進めると、水を使いこなせるようになれば、月面拠点のインフラ開発が大きく前進することが期待されており、PwCコンサルティング及びispaceによると、2036~2040年には月面産業の市場規模は1658億ドルになるとも試算されています。

こうした市場を見据えながら官民連携で月を目指そう、というのがまさに今なのだと思います。

月面探査の未来

月面探査が進むにあたり、土地評価のうち、特に【地形】の評価の重要性が増すと考えます。実際に月に水を探しに行くとしましょう。

その時、人が行くか、あるいは無人ローバーが行く。いずれにしても『着陸地点』や『拠点』の選定が必要となります。どんな条件の場所を選べば良いのでしょうか。ここで、土地評価です。拠点の選定条件を考えてみましょう。

まずは日射がどれくらいあるかが重要です。すべての活動をあらかじめ用意したバッテリーの電力だけで賄うことは難しいでしょう。日射は、つまり現地で調達できる電力であり、活動の生命線です。太陽の入射角と【地形】による影を計算に入れながら、なるべく長期に日陰にならない場所を選ばなければいけません。

他にも通信が問題なくできるか、拠点からの移動に支障がないか等の観点がありますが、どちらも【地形】評価が重要となります。

天地人は、11月2日に天地人コンパス MOON をリリースしました。天地人コンパスMOONは、この地形の分析機能を実装しています。もととなるデータは、NASAが公開しているDEM(数値標高モデル)を実装しており、第一線の科学者が使うデータと同じです。面積や距離、傾斜、標高差等を分析することで、今後の月面開発での活用も期待できます。

天地人コンパス MOONを知る

天地人コンパス MOON とは?

本記事の後半では、天地人コンパスMOONを詳しくご紹介します

天地人コンパスは、地球観測衛星のビッグデータをはじめとする様々なデータをもとに、解析、可視化、データ提供を総合的に行う土地評価サービスです。農業生産から都市開発まで、様々な目的に合わせてカスタマイズすることが可能となっており、ビジネスにおいて最適な土地を宇宙から見つけることができます。

世界中のどんな地域でも比較できるので、農業分野での栽培適地、および、栽培に適した品種をお探しの方や、再生可能エネルギーの活用をお考えの方、海外に移住を考えられている方まで、幅広くご使用いただけます。

天地人コンパス MOON は、月が大好きなエンジニアインターン生が中心となり「もっと月のことを知ってほしい」という想いから開発しました。

天地人コンパス MOON の使い方 その1 月食シミュレーション

なぜ月食が起こるのかご存知ですか?

月食とは、地球の影に月が入ることによって月が欠けて見える現象です。月の満ち欠けとは異なる現象で数時間程度で変動します。
太陽の光によってできた地球の影には「本影」とそれを取り囲む「半影」の2種類があり、月がどちらの影に入り込むかによって、月食の種類が変わります。

半影食
薄い半影に、月の一部または全部が入った状態です。目で見ただけでは月が欠けているかどうか、はっきりしません。

本影食
濃い本影に、月の一部または全部が本影に入った状態です。一般的に「月食」というと、「本影食」のことを指し、実際に月が欠けて見えます。月の一部だけが本影に入り込む現象が「部分月食」、月の全てが本影に入り込む現象が「皆既月食」です。皆既月食の月は赤っぽい普段とは全く違った色になります。

天地人コンパス MOON では、時刻を変化させて影の動きを見ることができます。11月8日の月食を見逃してしまった方も、天地人コンパス MOON で今回の月食の様子を観察することができます。

天地人コンパス MOON の使い方 その2 月の土地評価

月をもっと知りたいと感じたときには、天地人コンパス MOON で月面の距離や面積、クレーターの大きさを計測できます。面積や距離並びに地形は、着陸地点や探査目標を検討するにあたって、必要不可欠な情報です。今後は月の3D地形情報の分析機能を強化し、月面開発に貢献できるサービスを目指しています。


距離・面積機能の活用例
クレーター断面の分析例(開発イメージ)

天地人コンパス MOON の開発に関わったメンバーへインタビュー

エンジニアインターン・石田尾 豪
天地人コンパス MOON の開発全体を担当しました。
天地人コンパス MOON では、Mapbox GL JSという、ブラウザで地図を自由に触れるライブラリを主に利用しています。現在のリリースでは月面の距離・面積計測機能を実装しており、有名なクレーターやウサギの面積を計測することもできます。
3Dの球体モデルに月面の衛星データを歪みなく貼り付け、距離、面積を計測することができるアプリケーションは世に出回っていなく、前例がない挑戦でした。
今後は、月の表面の高低差を可視化する機能を加えることも想定しています。まだまだ目が離せないプロダクトです。
月の土地分析を通して、月食時以外でも楽しめるプロダクトにしたいと思っています。
アカウント登録不要なのでお手軽に試してみてください!

エンジニアインターン・井上 真
月面レイヤデータ選択と、月食時の影の動きの計算を担当しました。
天地人コンパス MOON では月食の影の動きを3Dの月に投影したことがユニークな点です。
少しずつ影が動いて、だんだんと月が赤くなっていく様子を観察してみてください。
 
月面画像には高精細なものを選んで用意しました。遠くから眺めてウサギを探してみたり、普段は見えない月の裏側を冒険してみたり。ぐっと近づいて地形を観察してみると、実はウサギだと思っていた部分は、ぼこぼこしている他の部分とは違ってなんだかツルツルとしているように見えるのではないでしょうか?
 
一足先に月面旅行に行きましょう!!

天地人COO・百束 泰俊
11月は、NASA月探査計画「アルテミス1」打ち上げや、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」打ち上げなど、月へ人類が進出するエポックメイキングなタイミングです。なかでも、HAKUTO-Rのように、いよいよ民間企業までもが月へのビジネス展開に乗り出しています。

天地人コンパス MOON は、天地人がこれまで地球上の最適地を探索・分析するために養ってきたノウハウを活用しつつ、月面開発の民主化を見越して、月の土地分析という新しい価値を提供するものです。

利用方法
『天地人コンパス MOON』
・料金:無料
・対応ブラウザ:Google Chromeを推奨
・サイトURL:https://moon.compass.tenchijin.co.jp/

まとめ

今回の記事では、世界が注目する「月」を取り上げ、なぜ月が注目されているかを解説しました。
「近年の輸送手段のイノベーション」と「水」が月面探査を加速させる理由になっており、月面探査が進むにあたり、土地評価の重要性が増すと考えられます。
後半部では、そんな月の土地をだれでも分析可能な天地人コンパスMOONを開発者のインタビューを交えてご紹介しました。

天地人は、地球だけにとどまらないデータの多さや、組み合わせの幅広さを活用し、今まで誰も思いつかなかった方法で課題解決を進めます。


参考文献
・月を探査し、地球を知る, 朝日中高生新聞, https://www.asagaku.com/chugaku/topnews/14670.html 
・宇宙ワクワク大図鑑 もっともっと身近な天体「月の探査」, 宇宙科学研究所キッズサイト, 
https://www.kids.isas.jaxa.jp/zukan/solarsystem/moon03.html 
・Russia’s first lunar mission postponed to 2023 — Roscosmos, TASS,https://tass.com/science/1504355  
・日本の国際宇宙探査シナリオ(案) 2019 Executive Summary, 国際宇宙探査センター 宇宙探査システム技術ユニット, https://www.exploration.jaxa.jp/assets/img/news/pdf/scenario/EZA-2019001_SES.pdf 
・HAKUTO-R https://ispace-inc.com/hakuto-r/jpn/about/# 
・ ispace, https://ispace-inc.com/jpn/news/?p=2384 
・HAKUTO-R の挑戦| 月への旅路, https://www.asahi.com/special/hakuto-r/ 
・JAXA https://www.exploration.jaxa.jp/news/20200225.html 
・Shuai Li et al. Direct evidence of surface exposed water ice in the lunar polar regions, Proceedings of the National Academy of Sciences (2018) 
・ispace、新たな中期ビジョン「Cislunar Digital Twin 2030 構想」を発表 , https://ispace-inc.com/wp-content/uploads/2021/09/ispace_midtermvision.pdf