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衛星を活用したカーボンクレジットの算出方法~持続可能な未来を目指すための衛星技術の応用~


天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。
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地球温暖化を改善するための取り組みのひとつである「カーボンクレジット」。近年では、SDGsや日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の流れでより広くその言葉が知られるようになりました。「カーボンクレジット」とは端的に表現すると温室効果ガスの排出削減量や吸収量を売買する仕組みを指します。

例えば日本では国がこれらを「クレジット」として認証し、企業や地方自治体、森林所有者の間での資金循環を促す「J-クレジット」の制度が存在します。

今回はカーボンクレジットを衛星データを使って算出する方法について解説します。


カーボンクレジットの定義

まず、カーボンクレジットを解説する前に「カーボンオフセット」について説明します。

環境省の定義によるとカーボンオフセットとは“日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方”のことです。
例えば、工場Aで1kg分の温室効果ガスを排出したとしましょう。そこで、1kg分の温室効果ガスを吸収できるような植林活動を行ったとすれば「カーボンオフセット」を達成したと言える訳です。このカーボンオフセットが持続的に達成された状態を「カーボンニュートラル」といいます。

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ここで、「温室効果ガスをどれだけ吸収できたか」「温室効果ガスの排出をどれだけ減らすことが出来たか」を「クレジット」として定量化することで、他者間とのクレジットのやり取りを行うことができます。先程の工場Aが、「1kg分の温室効果ガスを吸収する森林の所持者B」や「1kg分多く温室効果ガス排出削減を達成できた工場C」とクレジットをやり取りすることでオフセットが達成できるようになります。これがカーボンクレジットの仕組みです。

カーボンクレジットの市場規模

クレジットの発行元は国連や政府が主導のものと、企業やNGOが発行する「ボランタリークレジット」に大別されます。下記は世界の主要なボランタリークレジットの発行量の推移のグラフです。発行量は年々増加傾向にあります。

経済産業省「カーボンクレジット・レポートを踏まえた政策動向」資料より


さらに株式会社グローバルインフォメーションのレポートによると、カーボンクレジットの市場規模は2021年に98兆8364億円に及んだと報告されています。

日本国内では、日本政府による「J-クレジット」、東京都や埼玉県で行われる自治体主導のもの、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合が主導するJブルークレジットなどの取り組みが行われています。

カーボンクレジットの算出方法

ではどのようにして「クレジット」を算出しているのでしょうか。

一般に二酸化炭素の排気量は「排気量=活動量×排出原単位」として算定されます。
活動量とは事業者の活動の規模に関するパラメーターで、電気の使用料や貨物の輸送量、廃棄物の処理量などのことを指します。
排出原単位とは、活動量当たりの二酸化炭素排出量のことです。例えば電気を1kWh使用した際の二酸化炭素排出量といったものがあります。

J-クレジットの場合、「排出削減・吸収に資する技術ごとに、適用範囲、排出削減・吸収量を算定する方法である算定式と、その算定式に用いられる各種パラメータ等をモニタリングする方法」が定められ項目ごとに公開されています(各項目を方法論と呼ぶ)。公開されている方法論を元にプロジェクト事業者はクレジットの算出を行います。現段階で認められている技術や方法論を使用したい場合は新規で申請することも可能です。

J-クレジット方法論の一例(太陽光発電設備を導入した場合の二酸化炭素排出削減量の算出)

方法論による算出方法では、異なる手法ごとに独自の単位量が設定され、事業者は活動量に関するデータベースを作成する必要があります。さらに、この方法論による算出は、直接的な二酸化炭素の量や排出削減量を観測する手法ではありません。

ここで衛星データを利用して二酸化炭素排出量や吸収量を計測する手法があります。宇宙から画像データや光学センサ、レーザーを用いて評価したい土地を「モニタリング」することができます。衛星データを利用したカーボンクレジットの算定には以下のメリットがあります。

  • 広範囲の地域をカバーし、高頻度でデータを収集できます。これにより、森林や地球全体の二酸化炭素排出量や吸収量をより正確に測定することが可能。

  • 従来の方法論では、排出原単位と活動量の推定に不確実性が存在する場合があるが、面的に直接排出量や吸収量を測定できる。

  • 従来の方法ではデータ収集に時間を要していたが、衛星データを利用することにより、リアルタイムでの監視が可能になる。

下記では衛星データを用いた算出方法について解説します。

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