【FC東京】2023年シーズン・プレビュー(1) 総評
発射台は整った
2023年のFC東京はアルベル監督の留任を早々に発表し、2022年の取り組みを継続して行く方針を明確にした。もともとアルベル監督を招聘した時点で数年がかりのチーム作りであることは想定されていたわけであり、既定路線が確認されたのにすぎないので、おおかたのサポーターにもこれ自体は納得をもって理解されていると思う。
補強においては主力がほぼ残留した。髙萩、三田、波多野、フェリッピらがチームを離れ、また紺野の移籍という予想外の戦力流出もあったが、一方で仲川、小泉、徳元といった即戦力の獲得があり、寺山、西堂の大卒、荒井、熊田らの高卒・ユースからの昇格、またブラジルからペロッチなど、各レイヤーで的確な補強ができたと感じている。
昨季はアルベル監督初年ということで、試行錯誤を重ねながらも課題に挑戦し続け、ポジショナル・プレー、ボールを握りながら主体的にゲームを進めるスタイルにおいて一定の進歩があった。この点については昨季のレビューに書いた。監督自身も「昨シーズンの完成度という意味では60%ほどの完成度にたどり着けた1年間だった」と総括している。
悲観的な見方ではもっとバタバタしてカツカツの戦績でシーズンをなんとか乗りきり、このオフの補強で大規模な戦力の入れ替えがあるのではないかとも覚悟したが、昨季のうちに戦術の浸透が思っていた以上に進んだおかげで今季の発射台は高めに設定でき、継続性を保って戦いを始める準備ができたのではないかと思う。
積み上げるシーズン
したがって今季はその土台のうえにより実戦的な積み上げを図る年であり、そこで求められるものはおのずと昨季より高くなる。昨季はチーム作りのシーズンとして、アルベル監督自身も性急な結果を求めないよう注意深くコメントを発していたし、そのおかげで我々は試行錯誤を受け入れながら全体としては悪くない結果を残すことができた。しかし今季は結果の点でさらに上積みが必要となるのが自明である。
アルベル監督によれば、当面の目標は「常に上位3チームにいるポテンシャルを持ち続ける」「タイトルを獲り続けるのではなく、常に上位争いをし、タイトル争いに絡み続けるポテンシャルを持ち続けるようなクラブに育つこと」。しかし今季については「自分にブーメランのようにプレッシャーがかかるような、大きな目標を掲げ、そして心の底ではたどり着けないと思われる目標を掲げるということをするほど、私は愚かではありません」とも述べている。
その一方で「常に全力を出して、最高のパフォーマンスとともに、目の前の試合の勝利を目指す。そこは常に求め続けています」「彼ら(選手たち。筆者注)がタイトルを獲りたいという希望を持っていなかったとしたら、家に帰って寝てろと言いたい(笑)。そういう希望を持っていなかったらいけない」とコメントしていて、自らタイトルを口にすることはないが、実際には厳しく勝ちにこだわる姿勢はいっそう強まることが予想される。
「私はリアリスタとして、適切な形で、監督として発言しなければいけない立場にいます」「過大な期待を抱かせるような過大な目標設定というのは、やはり大きなフラストレーションにつながってしまうと、私は考えています。だからこそ、私は監督として、次の試合の勝利をめざす、それこそが目標であると認識しています」というのがアルベル監督のおそらくは偽らざる率直な心情だろう。
今季の目標は
大言壮語してそれに振りまわされる自縄自縛は周到に避けながらも、昨季以上に結果を求めて行くことは間違いなく、それはまた我々が求めていることでもある。ひとつひとつの試合、勝負にこだわることで最終的に上位争いにしっかりからむ、その先にタイトルがある、プロなのだから当然タイトルは意識するという今季の目標設定は納得感がある。選手、マネジメント、クラブ、サポーターといったステークホルダーのそれぞれにおいてそこに大きなギャップはないはずだ。
ボールを大事にし、的確なポジショニングで機動的にボールを動かしつつ、最後は個人技も含め崩してゴールを狙う、そしてなにより敵がだれであれ自分たちが主体となって試合を支配する、そういうフットボールに、我々は今季もアルベル監督のもとで挑戦して行く。もちろんそれは簡単なプロセスではなく、思った通りにことが運ばない時期は必ず何度か訪れるだろう。
我々の真価はまさにそういう局面で試される。具体的な戦術をどう落としこむかということ以上に、想定外のもたつきがあったときにどうリカバーできるか、むしろそちらの方が「常に上位争いをし、タイトル争いに絡み続けるポテンシャルを持ち続ける」うえでは重要なことだ。それができなければタイトルはおぼつかないが、アルベル監督はそれを思えばこそ無邪気に大きな目標を掲げることに慎重なのだと思う。
しかし、いつも書いていることだが、石川とともにリーグ・タイトルを獲ることができなかったのは東京サポ共通の痛恨事でありルサンチマンである。そして今、10年以上にわたってチームの中心であり続ける不世出のDFである森重にシャーレを掲げさせることができるのか、その瀬戸際に我々はいる。時間はもう長くは残されていないが、長友が戻ってきて、東も中心選手として顔つきの変わった今、機は熟したというべきではないか。
静かに、しかし強い決意で迎える新しいシーズンになると僕は感じている。
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