【FC東京】2022年シーズン・レビュー(2) アルベル監督のもたらしたもの
アルベル監督が東京にもたらしたものはなにか。監督自身は自分のスタイルについて「ボールとともに攻撃と守備をするというものです。常にボールとともに。それが私のスタイルです」と語っているし、「試合の主役になるサッカーを目指す」とも述べている。
リアクション・フットボール、カウンター・フットボールではなく、ボールを保持し、主体的に試合を進める。強度高く戦い、失ったボールは素早く奪還し、奪ったボールは最後尾からでも丁寧につなぎながらビルド・アップする。適切なポジションを取ることで敵のプレッシャーをかわしパスを通しながら前進する。
アルベル監督は現代的なポジショナル・プレーを東京に持ちこみ、臆せずリスクを取りながらボールを動かすことを選手に求めた。開幕当初はプレスに遭って長いボールに逃げたり、深いところでボールを奪われて一気に危機に陥ったりもしたし、シーズン終盤でも自陣でボールを逃がしきれずに失点につながったシーンももちろんあった。
しかしシーズンを通じてやり続けることでボールを捨てない意識、落ち着いて敵を引きつけてからはがしてフリーの味方にボールを渡す技術、さらにはここに味方がいるはずだという信頼と実際そこにだれかが走っているオートマティズムなどが少しずつチームに根づいてきたのは間違いない。
ボールホルダーを中心に、縦横のグリッドのどこに味方がいるべきかというポジショニングにはおそらく厳しい決めごとがあり、ボールが動けばその関係で周囲の選手はいるべき場所に柔軟に移動する。そうやって常に出し手と受け手が隣り合ったレーン、マスでボールを受け渡しできるように流動し続けるのが今季の東京のフットボールだった。
渡邊やシーズ途中に加入した塚川などの動きを見ていると、そうやって「人がいるべき場所」がまず決まっていて、そこにだれが入るかはそのときの位置関係である程度柔軟に判断するという約束ごとがあるのだろうと推測できる。常にこれを考え、意識しながらポジショニングを小マメに調整するのはもちろん簡単なことではないだろう。しかしこのポジショナル・プレーはシーズンを通して確実に東京のスタイルになって行った。
ファスト・ブレイクが決まったときの痛快さはなにものにも代えがたいが、首都のクラブとして常勝をねらい、毎シーズン優勝争いにからむチームをつくるためには、しっかりボールを握って主体的に攻めるアクション・フットボールへの移行自体は正しい選択だと思えたし、その意味で今季の東京のフットボールはたとえ負け試合でも意図が理解できることが多く、試合を見る楽しみはシーズンを通じて大きかった。
もちろん我々のポジショナル・プレーはまだまだ多くの課題を抱えており、決して完成したわけではない。また、そうやってボールをアタッキング・サードまで運んだとしても、最後のところはボールをゴールに流しこむだれかがいないと得点にはならない。それは必ずしもポジショナル・プレーだけでできることではないというのが一般的な理解だと思う。
だが、アルベル監督が、そのコメントとは異なり実際の試合の進め方では意外に現実的であり、そのときそのときで相応の結果を出しながら段階的に成長を求めてきたこともわかってきた。チーム作りの1年であり性急に結果を求めるなと言いつつ、チームがネガティブ・スパイラルに陥らない最低限の勝ち点は積み上げてきたし、実際には結果に対するこだわりも強いことが窺われる。
シーズン前半は敢えて裏に長いボールをけることも許容してきたが、それは森重や木本の精度の高いフィードがあったからで、アルベル監督も持っている武器を効率よく使うこと自体を否定しているわけではないのだ。アダイウトンの単騎勝負も得点につながる可能性が高いからこそ許されている。そうしたバランスは柔軟である。
アルベル監督の思慮深く言葉を選ぶコミュニケーションもまた信頼感を得る大きな要素になっていると思う。そこには監督としての立場からのポジション・トークも多分に含まれているはずだが、論理的な語り口には納得感があって、サポが目先の試合結果に一喜一憂せず2022年シーズンの戦いを我慢強く見守ることができたのは、アルベル監督のコミュニケーション・スキルに負うところが大きい。
クラブとして、チームとしての成長を求めたこのタイミングでアルベル監督を招いた選択は正しかったし、実際チームは正しい方向に進んでいると多くのサポが実感しているのではないかと思う。もちろん僕もそう思っている。チャレンジ初年として、チームを成長させつつ最低限の結果は出し、併せて来季以降への足がかりも十分築けたと評価していいだろう。
ただ、2023年はより具体的な結果を求められる年になるし、それは監督も選手もクラブも十分わかっているはずだ。そしてそれを意識しているだろう。2022年は、満足できたかどうかはともかく、納得のできるシーズンだった。
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