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ティーンエイジ・ファンクラブ ライブ・レビュー 2024.2.28 The Garden Hall

ティーンエイジ・ファンクラブの音楽を聴くときには、僕の頭のなかではいつでもオーバードライブのかかったやかましいギターのストロークが鳴っている。どんなに美しいメロディの曲でも、どんなにハッとするようなコード展開をする曲でも、どんなにすきとおったハーモニーが聞こえる曲でも、それを彼らの作品として成り立たせているのは場違いなほど遠慮会釈なくラウドでひびわれたエレキギターのラフなコードストロークだ。

それが僕にとってのティーンエイジ・ファンクラブの原像だ。おそらくそれは1992年のアルバム「Bandwagonesuque」の記憶だろう。そこではアルバム全編をとおしてやかましいギターのストロークが鳴り続けている。そしてそれはまるで彼らのギターのデフォルトがそうであるかのように例外なくアンプのキャパをこえたビリついた音で聞こえてくる。ギターというのはこう鳴らすものなのだとでもいうように、あたりまえのようにオーバードライブがかかっている。

それはギターの鳴りが彼らの音楽にとっていかに不可欠な構成要素であるかを示唆している。彼らの音楽は疑いなくギターの音が出発点であり、それを聴かせるためにこそ音楽が成立していて、ギターの音を間違いなく聴かせようと出力を上げ続けた結果、その音は必然的にリミットを突破してビリビリとひび割れて聞こえるようになったのだ。

しかし、そのビリついたギターの音は、それ以降のアルバムでは徐々に背後に退き、メロディやハーモニー、曲そのものの力で表現を構成しようとする意志が代わって前面に出てきたように感じられた。やむにやまれぬ初期衝動の表出であるひびわれたギターの音は、やがて小ぎれいにまとまったスコティッシュ・ポップにとって代わられるべきものであったのだろうかと僕はなんども考えた。ずっと聴きつづけながらも、「Bandwagonesuque」を初めとする90年代前半あたりの作品をピークとして、彼らの作品との間にすこしずつすきまが開いているように感じてきた。

彼らのステージを見るのはこの日が初めてだった。マメに来日しているようなのでもっと前に来ればよかったのだが、最近になっていろんなライブの告知を見るたびに「この機会を逃したらもう見られないかもしれない」という強迫観念がめばえるようになり、ようやく彼らのライブに足を運んだのだった。

そこで僕は見た。見たというか聴いた。彼らのステージではどの曲でもひび割れ、ビリついたギターの音が最初から最後まで曲と一緒にあった。それは寸分の違いもなく、僕の頭のなかでずっと鳴り響いていた音だった。ノーマン・ブレイクがギター・チェンジのときにスタッフからギターを受け取り、弦に触れると当然ジャラーンと音が出るが、それがもうすでにオーバードライブなのである。

それはそこにあった。彼らにとってビリついたギターはいつでもともにあった。考えたり、議論したりする以前に、それは彼らの属性として、ア・プリオリに、あらかじめそこにあり、そこにあり続けてきた。そしてこれからもそこにあり続けて行くだろう。なぜならそれこそがティーンエイジ・ファンクラブというバンドの音楽表現の本質だからだ。ビリついたギターこそが彼らの音楽の前提であるからだ。

この日のライブでは初期のレパートリーから最新作まで、バランスよく選曲されたセット・リストが披露されたが、そこではどの曲もアルバムごとのプロダクションがはぎとられ、いったん生まれたばかりの姿に巻き戻されたうえで、彼らの音楽の本質であるビリついたギターの音で再現された。それによってすべての曲は同じ地平から奏でられ、彼らがいかに水準の高い作品をきれめなく発表し続けてきたかがあらためて明らかになった。それはスゴみのある事実だった。

どの曲もきちんと耳に残っているのだが、こうやってラウドなギターの鳴りとともに演奏されると、どの年代の、どのアルバムからの曲だったのか思い出せない。そう、彼らの音楽は初めから完成していたのだ。そしてスタジオ・アルバムから次第にやかましいギターの音が消えて行った理由も今ならわかる。

それは彼らにとってあまりにも本質的であたりまえなモメントであるからこそ、もはや鳴らされる必要すらなかったのだと。それはむしろ鳴らされないことでそこにあり続けてきたのだと。

『The Concept』のスローダウンするところで涙が出てきたのは本当に意外だった。彼らの音楽を僕は聴きつづけてきたけれど、この曲を聴いたときに「そういえばこのバンドとも永いつきあいやなあ」という想いが不意に突きあげてきた。気づいてみれば彼らの音楽はずっとそこにあったのだ。

ジェラルド・ラブがいるうちにライブが見られなかったのは残念だったが、この日のライブではなにかずっと昔に抱えたままになっていた宿題の答え合わせができたような気がした。

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