映画「クリエイション・ストーリーズ」レビュー
クリエーション・レーベルを作り、つぶした男であるアラン・マッギーの半生を描いた映画。「トレイン・スポッティング」を監督したダニー・ボイルが製作総指揮、ニック・モランが監督を務めている。脚本は「トレイン・スポッティング」の作者であるアーヴィン・ウェルシュ。アラン・マッギーの役を務めるのはやはり「トレイン・スポッティング」にも出演していたユエン・ブレムナー。
個々のシーンにはもちろん創作や脚色が入っているのだろうが、マッギーがグラスゴーからロンドンに出てクリエーション・レーベルを始めたこと、ザ・ジーザス&メリー・チェイン、プライマル・スクリーム、マイ・ブラディ・ヴァレンタイン、ティーンエイジ・ファンクラブ、そしてオアシスなどイギリスのロックを語るうえで外すことのできない重要なバンドを次々と見出し世に出したこと、それにも関わらず自らのドラッグや放蕩、放漫経営などで常に金銭的には危機にあったこと、最後はマイ・ブラディ・ヴァレンタインの伝説的なアルバム「LOVELESS」の制作費が巨額にのぼってレーベルごとソニー・ミュージックに売却することを余儀なくされたことなどは歴史的事実であり、こうした背景を理解していることを前提に映画は進んで行く。
逆にいえばこうした事実やクリエーション・レーベルの主要なバンドや登場人物、時代を画したアルバムや楽曲がわからないと、おそらくは映画単体ではあまり楽しめないのではないかと思う。例えば、マイ・ブラディ・ヴァレンタインがもう何百時間もレコーディングを続けていてスタジオ代が何千万円にもなっていることを知らされたマッギーがあわててスタジオに駆けつけたのにスタジオに入れてももらえなかったエピソードなどは、そうと知っていれば腹を抱えて大笑いできるが、そうでなければ意味がわからないかもしれない。スタジオのなかでケヴィン・シールズが、ドアをドンドンたたくマッギーを無視して涼しい顔でレコーディングしているのが最高におかしいのだが、まあある種の内輪受けである。
他にもプライマル・スクリームが『Loaded』でアシッド・ロックの扉を開く歴史的なエピソードとか、オアシスを見つけたクラブでのステージとか、「それな」というシーンがたくさん出てくるのが素直に楽しい。
1991年、マイ・ブラディ・ヴァレンタインの「LOVELESS」に加え、プライマル・スクリームの「SCREAMADELICA」、ティーンエイジ・ファンクラブの「BANDWAGONESQUE」というそれぞれロック史に残る傑作をたて続けにリリースしながら、経営的に立ち行かず身売りした場面も感慨深い。この3枚のアルバムを並べたポスターがオフィスの壁に貼られているのがこの間の事情を示唆しており、またそこにマッギーがスプレーで「こんなエクスタシー・ロマンスは続けられない」と殴り書きするのも印象的だ。
このフレーズ(This Ecstasy Romance Cannot Last)は2001年に出版されたパオロ・ヒューイットの書籍のタイトルでもあり、クリエーション・レーベルの歴史はそこにかなりつまびらかに書かれている。マッギーも序文を寄せている。また映画なら2011年に「Upside Down」という実録もののレーベル・ヒストリーがある。今回、この映画がそうした先行作品に映画としてなにがしかの価値をつけくわえることができたかといえば肯定するのは正直難しいと思う。
この映画はクリエーション・レーベルというよりはマッギーの人物にフォーカスしたのかもしれず、それであればスコットランドの労働者階級の家に育ったマッギーが父親に抑圧されながらもロンドンに出て一旗揚げ、しかし一方ではドラッグとアルコールで心身をむしばまれて行くさま、労働党のトニー・ブレア政権に肩入れし政治に対する幻滅を味わうシークエンスなど興味深い描写もあるのだが、それにしては最後が父親との和解みたいな感じでしんみりしてしまうのとかちょっと紋切り型だなと感じた。
自分の知っているクリエーション・レーベル・ヒストリーをなぞりながら、「そんな話だったんだ」みたいな感じで無邪気に楽しむには悪くない作品だが、映画単体として見るには、タイトル通りのレーベル・ストーリーとしては説明不足だし、人物としてのマッギーを語るにも現在の描き方が腹落ちしない感じで中途半端だった。
最近、「ボビー・ギレスピー自伝」を読んだばかりだったので、ギレスピーとマッギーが幼なじみだということはわかっていたし、その後のレーベルの成長もすんなり理解できたのはアドバンテージがあった。クリエーション・レーベルとかあのへんの音楽が好きな人なら見て楽しめることは間違いない。
あと、McGeeの読み方で、「ギー」の方にアクセントがあるのは今回初めて気づいた。「Upside Down」見た時は気づかなかった。
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