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映画「ティーンエイジ・スーパースターズ」レビュー

1980年代から1990年代初めごろまでのグラスゴーの音楽シーンについて関係者の証言を中心に振り返るドキュメンタリー。昨年からシェーン・マクゴーワンのドキュメンタリーとかクリエイション・レーベルの実録ものとかもうそういう映画しか見てない感じがするが、本作もその流れ。映画自体は2017年の作品だが、下高井戸シネマで一週間だけ夜の一回のみ上映するというので仕事終わってから下高井戸に駆けつけた。

監督はグラント・マクフィー。なぜかキム・ディールがナレーションを担当、ソニック・ユースのサーストン・ムーアがエラそうに語るシーンがたびたび挿入されるのが微笑ましい。

この時期のグラスゴーといえば最もコマーシャルに成功したのはティーンエイジ・ファンクラブだろうと思うし、実際ノーマン・ブレイクが出てきて貴重な証言をしたりもするのだが、この映画ではパステルズのスティーヴン・パステル(スティーヴン・マクロビー)がグラスゴーの音楽シーンのオーガナイザーというかフィクサーとして描かれていて、ああなるほどそういうことかと腹に落ちる。

そこからヴァセリンズ、BMXバンディッツといった知る人ぞ知るバンドや、逆にティーンエイジ・ファンクラブ、ジーザス&ザ・メリー・チェイン、プライマル・スクリームのような「売れた」バンドにもきちんと目配りが利いていて抜かりはない。また、このへんの話をするなら言及しないわけには行かないアラン・マッギーとクリエイション・レーベルもフォローされている。

このへんの話はこれまでもエピソードとしては知っていることが多く、だからこそこの映画を見ても説明なしで楽しめるし、「その話は知らなかった」みたいなことが新鮮に入ってくるのだが、まったくなんの予備知識もなくこの映画を見てもなんのことだか、どれがだれだかちょっとわからないと思う。80年代のポスト・パンク・シーンのバンドに入れこんで聴いた経験があるという奇特な層向けの作品であることは間違いない。

面白かったのはこれらのバンドが一様に先行者としてオレンジ・ジュースのエドウィン・コリンズをリスペクトしており、ポストカード・レーベルがこうしたグラスゴーのDIY的なインディー・シーンの先駆体となったと語っていることである。そのへんごっちゃというかそういう先後関係みたいなのはあんまり意識してなかったので興味深かった。

あと、スープ・ドラゴンズが結構大きくフィーチャーされていて、彼らはアシッド・ロックに行っちゃってから知った感じだったので意外だった。初期の音源とか探さないといかんなと思った。それからユージニアスがユージン・ケリーのバンドだというのを不覚にもこの映画で知り、さっそく今日小金井のレコファンでアルバム二枚買ってきた。絶対安くで売ってると思ったがやはり二枚合わせて千円しなかった。

ニルヴァーナのカート・コバーンがヴァセリンズのファンだったというのは聞いていたが、カート・コバーンといいサーストン・ムーアといい、アメリカのオルタナティブ・シーンとグラスゴーのポスト・パンク・シーンが底の方でつながっているというのも興味深い。ティーンエイジ・ファンクラブも当時はダイナソー・ジュニアに対するイギリスからの回答だとか言われてたような気がする。

グラスゴーはスコットランド最大の都市ではあるが、人口はせいぜい60万人ほどで、日本でいえば船橋市とか川口市くらいの規模。そんな街からこれだけのバンドが出てくるのはそこに無形の文化資本とでもいうべき「音楽シーン」が確かに存在するからだろうし、実際この映画を見ていても結局みんな知り合いというか友だちみたいなものなのがよくわかる。

彼らの作品のクレジットを見ていると互いの作品にゲストとして参加し合っているのが確認できるし、そういう地元人脈のなかに、イングランド、特にロンドンのメイン・ストリームやメジャー・レーベルとは一線を画した独自のDIY的で親密な、ある意味「効率の悪い」、ちょっとヘンな音楽が生まれ、息づいて行くサンクチュアリみたいな特別な「場」というか空間があるのだろう。ヴァセリンズからティーンエイジ・ファンクラブまで、程度の差こそあれこのシーンの音楽に共通するヨレた感じはちょっと他のところでは見あたらないものだ。

このへんの手作り感というか、作為のなさ、あるいは「ヘンであることを許容するおおらかさ」みたいなものがアメリカのオルタナティブ・シーンと通底するポイントなのかもしれない。映画のなかでだれか(ノーマン・ブレイクだっけ)が「ブリット・ポップの流れに乗らなかったのが結果的によかった」と言っていたが、それはたぶんこういうことなんだと思う。

下高井戸シネマには僕の想像を超える人数が集まっており、一週間前にマイケル・ヘッドのライブに行ったときにも感じたが、この類が好きな人って結構いるんだなと率直に驚いた。ジム・リードがすごいおっさんになっていたのがショックだった。

(2023.6.5 下高井戸シネマ)

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