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【FC東京】2023年シーズン・レビュー(1) シーズン前半

やや遅くなったが何回かに分けて2023年シーズンを振り返りたい。

残念なシーズン

2023年は残念なシーズンだった。アルベル監督初年だった2022年が、チーム作りの我慢の年だという認識だった割りに成績も悪くなかったことに味を占め、チーム作りの継続とそれなりの結果(なんならリーグ・タイトル)の両方をねらいに行くという調子のいい目標を胸に開幕を待ったのが去年の今ごろだった。

もちろんなにもかもが簡単に達成できると考えていたわけではなかったが、我々の前には手つかずの新しいシーズンがあり、思慮深くチームを導く監督がいた。紺野や三田は去ったが、仲川や小泉、徳元らを獲得した。ポジショナル・プレーの質を高めながら、勝負にもこだわって勝ち点を重ねることは単なる夢物語ではないように思われた。

開幕戦は浦和とのホーム・ゲーム。序盤こそ浦和に差しこまれたが徐々にペースをつかむと、後半に2ゴールを挙げ浦和を無得点に抑えて2-0で快勝、これはイケるぞと思ったものだった。

しかしその後成績は伸び悩んだ。9節、10節と連勝したことで10節終了時点では4勝3敗3分で勝ち点15(1試合あたり1.50)、順位は6位と上位をねらえるに位置にギリつけたが、その後7試合を1勝5敗1分と調子を落とし、シーズン前半を終えて勝ち点19(1試合あたり1.12)の12位に低迷、アルベル監督は志半ばで解任の憂き目に遭った。

後任にはクラモフスキー監督を招き、就任直後こそ6試合で4勝1敗1分とブーストを利かせて勝ち点を上積みしたが、その後は3勝6敗2分と再び負けが先行、結局シーズンを通しては12勝15敗7分、勝ち点43(1試合あたり1.26)の11位でシーズンを終えた。

1試合あたりの勝ち点で見れば、これはJ1で戦った23シーズンのうち、J2に降格した2010年(城福監督→大熊監督)の勝ち点36(1試合あたり1.06)、2017年(篠田監督→安間監督)の40(1.18)に次ぎ、2006年(ガーロ監督→倉又監督)に並ぶひどい成績である。順位表の下半分でシーズンを終えたのも2017年以来と、最近にない低迷となった。

戦術の落としこみは進んだのか

なにを間違えたのか。まずひとつはアルベル監督のフットボールがまだまだ発展途上であったということ。ボールを大事にしながら互いの位置関係を見て、いるべき場所に人がいるフットボールを標榜し、主導権を握ってボールを動かすことを目標にチームを作ってきたわけだが、2年めになった2023年シーズンでも、それが機能する試合とそうでない試合の差が歴然と残った。

特に試合序盤に簡単に失点し自ら形を悪くして自滅するパターンや、最終ラインでボールをまわしながら出口が探せず、ミスが出たりムリめのパスをカットされてそのままピンチになるパターンなど、本当に戦術の落としこみが進んでいるのか疑問に思わずにはいられないシーンも多く見られた。

「いい攻撃のできている時間帯もあるのだが、それが限られていてコンスタントに発揮できていないし、よくない時間帯のマネージが致命的につたなく失点に結びついている」「やろうとしていること、目指している方向自体は間違っていないと思うし、そのためにこうした苦しい時期は何度かめぐってくるはずで、初めからそのつもりでアルベル監督にチームをまかせたとはいうものの、肝心の内容に進歩があるのかないのか確信が持てないのがしんどいところ」とアルベル監督の最終戦となった17節、アウェイでのG大阪戦のレビューに僕は書いている。

勝負師ではなかったアルベル監督

第二に、アルベル監督は育成畑出身の指導者であり、若手の起用や理論だった戦術の落としこみには長けているが、トップ・リーグでチームを率いた経験はなく、試合の流れのなかで臨機応変に戦術を調整し、ときには割りきってプランを捨て結果を取りに行くという勝負師としての力量は未知数だったということ。

このことは試合に入りそこねゲーム・プランが機能しなくなった時の代替策やビハインドのまま終盤に入ったときの選手起用などに表れていたと思う。アルベル監督の指揮で勝った5試合はすべて先制した試合であり、先行されて逆転した試合はひとつもない。先制されたり対策されて思うように試合を運べないときの対応力の弱さは、アルベル監督のゲーム・マネージャーとしての資質の表れなのかもしれない。

思えば2022年の方がまだチーム作り途上という強い意識があった分、前線へのフィードやアダイウトンの個人技頼みなど、ある程度割りきって目先の勝ち点を取りに行く自由度があったように思う。2023年はアルベル監督の戦術がより厳格になったのか、ボール保持にこだわって逆に窮地に陥ったり、ゴール前で思いきりが悪く何度もやり直したりするシーンが増えたように思えた。

失われた基盤

第三に、こうした状況のなかで、アルベル監督自身が求心力を失って行ったと見られること。シーズン前半の不調が、成長の過程の耐えるべき苦しみであったとしても、クラブとして、チームとしてそう信じそれを乗り越える一体感が失われていたように見えた。

ポジショナル・プレーへの取り組みが一年で完成する保証はどこにもなく、アルベル監督自身がまだまだ成長過程にあることを繰り返しコメントしていたが、初年に比べればうまく行かないことへのストレスは相対的に大きかった。ある程度の停滞や手戻りは想定するべきとわかってはいても、直線的に成長が見られないことに対してサポも、なんなら選手もクラブももどかしさを感じ、フラストレーションを募らせることとなって行った。

監督の指示通りに戦っても結果が出ない失敗体験が積み上がり、アルベル監督とともに旅を続ける基盤が失われてしまった。僕自身としては進んでいる道自体に疑問はなかったものの、アルベル監督の「戦い下手」には疑問を感じつつあった。それでもG大阪戦のレビューには「今取り組んでいる方向性に代わる即効的でかつ持続的な戦略などないはずなので、僕自身としては腹をくくってアルベル監督に少なくとも今シーズン、できれば来季までチームを委ねるべきだと思う」と書いている。

足りなかった覚悟

2023年はJ1のクラブ数増加のため降格が最下位の1クラブだけというボーナス・ステージであった。したがって成績にはある程度目をつぶってでも戦術の落としこみに時間をかける手はあったはずだし、そもそもアルベル監督を招いた時点で、2年、3年のスパンで苦しみながらでもチームのスタイルを変えて行く、新しい戦い方を確立して行くと覚悟を決めたはずだった。たどるべき道が平坦でないことは知っていたはずではなかったか。

しかし、結局我々はその産みの苦しみに耐えられず、手を着けた新しいチーム作りは頓挫することになった。おそらくこの時点でアルベル監督を支えるだけの信任はクラブのなかから失われていたのだろう。このG大阪戦のあと、クラブはアルベル監督の解任(発表は「退任」)を発表した。東京としての新しいスタイルを作り上げるための覚悟がその程度のものだったと知って残念だった。

長くなったのでクラモフスキー監督を招いたシーズン後半については次回に。

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