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伊藤銀次・杉真理ライブ・レビュー 2022.5.1 ビルボードライブ東京

「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」のリリース40周年ということで記念のゴツいボックスセットまで発売されたことにちなんでか便乗してか、ともにナイアガラ・トライアングルのメンバーである伊藤銀次と杉真理が「トライアングル・ソングス」という絶妙なネーミングで1日限り2回公演のプレミアム・ライブを行った。佐野元春がゲストとして参加。

事前に佐野元春がスペシャル・ゲストとして告知されたこともあってかチケットは瞬殺完売、会場は満員のオーディエンスで埋まった。セット・リストは「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」から杉の提供曲4曲と佐野の提供曲3曲、「Vol.1」から銀次の『幸せにさよなら』を演奏した他、大瀧詠一関連の楽曲などが披露された。

企画そのものはもちろん回顧的な部分もあったが、この日のパフォーマンスが決してディナーショー的な予定調和に終わらなかったのは、「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」というアルバム自体が時代を越えても変わらない楽曲本位の普遍的な魅力を具えた作品だからであり、また彼らが自身の表現衝動を老成させることなく休みなく更新し続けてきたからだろう。

どの曲もオリジナル・アレンジをリスペクトしながらバンド編成で出せる最大限のダイナミズムをブチこんだ総力戦みたいな演奏で、特に細井豊の八面六臂の活躍が印象的だったし、それをニコニコしながらやってるのが素晴らしかった。高橋結子のドラムも(いつもながら)きっぱりしていて好きな感じで、『君は天然色』の手数をこなしきったのにはお疲れさまと声をかけたかった。

杉が下手(しもて)、銀次が上手(かみて)の2トップ的な配置でライブは進行したが、そこに佐野が加わってステージ奥のキーボードで『マンハッタンブリッヂ』や『C-Boy』を歌う絵柄だけで泣けた。ゴメス・ザ・ヒットマンの熱心なリスナーでもある僕としては、佐野と高橋がアイ・コンタクトをかわしながら演奏しているのも感慨深かった。泣けるシーンを挙げたらキリがないが、今、人生の重要な瞬間を経験しているという実感のあるライブだった。

銀次が竹内まりやに提供した『Crying All Night Long』が本当によくできていて、ソングライターとしての銀次の実力を再認識した。また、『スピーチ・バルーン』を歌ったのが銀次の透明感のある声にマッチしていて、それがむしろ大瀧詠一の不在と、不在ゆえの存在感を際立たせてこの日のひとつのハイライトになっていた。なぜかハンドマイクだったのはやはり丁寧に歌いたかったからだろうか。万感胸に迫り感涙を禁じ得なかった。

あと、ぜいたくを言うなら『NOBODY』はオリジナル通り佐野にコーラスをつけてほしかったが、『C-Boy』で杉と銀次がコーラスをしたのでチャラということにするか。『A面で恋をして』では佐野が自分のパート(「シリアスな気持ち~」の部分)を入りそこねるハプニングがあったが、それを挽回するため、いつもの赤いストラトキャスターを抱えた『彼女はデリケート』でのパフォーマンスが熱量2割増くらいに増量されてた感があって結果的に楽しかった。

大瀧詠一から伊藤銀次、杉真理、佐野元春へ、そして僕たちへと、音楽は続いて行く。それは僕たちの生活のなかで息づく。僕はいい音楽を聴いて育ってきたんだなと自分で思うことのできる幸福な時間だった。

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