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【FC東京】2023年シーズン・レビュー(2) シーズン後半

クラモフスキー監督が指揮を執ったシーズン後半について振り返る。

悪くない選択

アルベル監督更迭後の動きは早く、解任の二日後にはクラモフスキー監督の就任が発表された。ルヴァンカップ6節のみ安間コーチが暫定的に指揮を執ったが、リーグ戦は18節のホームでの名古屋戦がクラモフスキー監督のデビュー戦となった。

ピーター・クラモフスキーは横浜FMで現在のチームの基礎をつくったポステコグルー監督体制のヘッドコーチを務め、その後2019年に清水の監督となったが25試合で3勝17敗5分と結果を残せず解任。2021年シーズン途中から山形の監督に就任、就任時20位だったチームを最終的に7位に引き上げ、2022年には昇格プレーオフ圏内の6位となったが、2023年は開幕2連勝のあと5連敗を喫して解任されていた。

クラモフスキー監督の戦術は、高い強度によるボール奪取、速い切りかえから一気呵成にショート・カウンターで刺す攻撃的なフットボールをベースとしているが、その根底にはボール保持、ポジショニングという現代フットボールの基礎教養が当然あり、アルベル監督がやろうとしていたポジショナル・プレーと通じる部分は少なくない。

アルベル監督の下でのポゼッション重視よりは縦に速い意識は高く、リスクを取ってでも縦に付け、人が動くことでパスコースを作りながらボールも動かして行くというよりダイナミックなスタイルだが、主導権を握って攻撃的に試合を進めるという点でアルベル監督と方向性は変わらず、より強度の高いポジショナル・プレーと考えることもできる。怪我の功名というか、想定しないタイミングでの監督交代ではあるが、これまでやってきたことを引き継ぐ人材としては悪くない選択ではないかと思った。

監督交代ブースト、そして…

監督就任から6試合は4勝1敗1分と悪くないすべり出しだった。高い強度で敵にプレスをかけ、奪ったボールを素早く縦につけてゴールに向う、なぜこれがアルベル監督のときにできなかったのかというフットボールを展開して勝ち点を重ねた。10位まで順位を上げたが残り11試合は3勝6敗2分と再び負けが先行、結局クラモフスキー監督の下では7勝7敗3分、勝ち点24(1試合あたり1.41)となり、通年では11位に終わった。

この成績をどう見るかは微妙なところだと思うが、シーズン途中にチームを引き継ぎ、与えられた選手をやりくりして勝敗を五分にしたこと、シーズン前半(勝ち点19)より多い勝ち点を稼いだことは素直に評価したい。

クラモフスキー監督のフットボールはとにかく強度、ハードワークに尽きる。一に強度、二に強度、三、四がなくて五に強度というくらいまず強く行くことが前提で、すべてはそこから始まる。監督が交代した緊張感から高い強度で戦えていた時期に勝ち点が積み上がり、その後慣れとともに緩んだのは理解できる結果である。

また、戦術の引き出しの少なさはかねてから指摘されているところで、用意したゲーム・プランが機能しなければそこで試合終了、「今日は強度が足りなかった」で終わってしまうと揶揄されたような変事対応力の乏しさは確かに感じられることもあった。

いずれにしても半年という短い期間でチームを任されたクラモフスキー監督のミッションがなんだったのか、盛り返してタイトル、せめてACLを目指すことなのか、それともとにかく降格を回避すればいいのか、チーム作りなのか、クラブとしての目標設定があいまいなまま、手なりで半年を戦った感は否めず、結果として前回も書いた通り11位という不本意な成績というでシーズンを終えることになった。

遅かったチャレンジ

それでも臆せずに動きながらボールを受ける意識、リスクを取って前にボールを付ける意識は、シーズン後半を通じて次第に形になり始めていたように思えた。ただ、それも試合によってうまく行くときとそうでないときの差が大きく、概して上位の自分たちの戦い方がはっきりしているクラブには強く、中位以下のリアクションやスカウティングをしっかりして対策してくるタイプのクラブに弱いように思えた。

33節、1-3で負けたホーム最終戦の札幌戦では、自陣の深いところでも怖がらずに受け、ビルド・アップの出口を作るために互いが動いてボールを逃がすことにチャレンジできていたし、隙を見て縦に差しこむことも徹底されていた。もちろんそれによる後ろのリスクもあり、結果としては後ろをやられて失点し後手にまわったのだが、矢印を前に向けて戦えたことはクラモフスキー体制の到達点を見た気がした。

一方で、「問題は、こうしたチャレンジが本来はシーズンのもっと早い時期になされるべきであったということ。試合結果は残念だったが、今日やろうとしたことは決して失敗ではなく、ただ完成度が低かっただけ。この取り組みを開幕から、せめて監督交代からやり続けることができていればと感じた」とこの試合のレビューに僕は書いた。

「これはクラモフスキー監督留任の布石なのではと思った」「タイトルも残留も関係のなく思いきってトライできる試合でこうしたゲームを見せたことは、結果は別として評価すべきだと思う」とも書いており、僕のクラモフスキー監督に対する評価はこのとおりである。最終節も寺山を先発起用し、「怖がらずにボールをつなぎながら前を目指すベクトルは前節から維持された」とレビューした。

やるべきこと、目指すべき水準ははっきりしており、ただそこに至るまでにまだまだ課題は多いし、半年という期間はあまりに短かった。クラモフスキー監督の留任はおそらくこの時期からの既定路線であったと思うし、ここで目指すものをゼロ・リセットする意味はない。引き続きクラモフスキー監督にチームを任せ、この路線を突きつめる価値はあると思っている。

シーズンを通して

アルベル監督との旅が頓挫したこと、新監督の下でも成績は伸び悩み不本意な成績でシーズンを終えたことを考えれば、2023年は失意のシーズンであったというほかない。なにより我々がなにを、どこを目指すのかということに対してタイムリーにクラブからコミュニケーションがなかったように感じられたのは残念だった。

特にアルベル監督解任後、目標をどこにおいて今季残りでなにを成し遂げたいのかという発信がないまま戦い続けたのはマネジメントとして、ステークホルダーへのアカウンタビリティとして大きな疑問だった。当初目標の達成がむずかしくなれば、チームをテコ入れするなり目標を修正するなりして道に迷わないようにするのが工程管理の常道であり、コミュニケーションが足りないのか、そもそもマネジメント力が不足しているのか、不安になる運営だった。

内容的にも足踏みの一年であり、それなりの覚悟をもって始めたはずだったチーム作りがあっさりと挫折したのがショックだったが、この一年半の積み上げがそれでまったく無に帰したかといえばそんなことはないはずだし、それはクラモフスキー監督と戦う2024年のベースとして確かにそこにあるものだと思う。この一年の悔しさがムダにならないことを祈るしかない、そんなシーズンだった。

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