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佐野元春 ライブ・レビュー 2024.9.24 Billboard Live YOKOHAMA

2年ぶりのSmoke & Blue公演、今回のツアーでは横浜が新たに会場に加わった。メンバーは前回の2022年同様、Dr.kyOn、古田たかし、長田進、井上富雄という顔ぶれ(このメンバーをホーボー・キング・バンドと呼ぶのは僕はやや違和感がある)。このシリーズ・ライブが、コヨーテ・バンドとのメイン・ストリームの活動と対をなし、カバー・アルバム「月と専制君主」「自由の岸辺」の系譜と関連の深いオルタナティブな世界線に属するものという位置づけも明確になり定着してきたと思う。

コヨーテ・バンドとの活動でロック表現の最前線が今どこにあるのかというフロンティアを追い続けているのであれば、それと対置されるべきこのシリーズ・ライブで佐野が見せようとしているものはなにか。何回も書き続けているとおり、こうしたライブ・レストランでのプレミアムなショーでロック的モメントが生まれ得るものか、ずっと疑問を持ち続けているなかで、それを確かめるために今回もまた足を運んだ。

ビルボード横浜は僕自身初めて。キャパシティは東京と変わらないようだが、造りがシンプルで、そのせいかステージが近く感じられた。ステージは横に長く、東京よりも広く見える。3階席のほぼ正面から見ることができた。

アルバム「月と専制君主」「自由の岸辺」からのナンバーを軸にしながら、「THE BARN」「THE SUN」などからの曲も交えてのセットリストは安定感があったが、客席の熱量がグッと上がったのは『COME SHINING』からだったと思う。シンプルなバンド構成で演奏されることでこの曲の持つ体幹の強さとでもいうか、ポジティブなバイブスがより直接的に伝わってくる感じがしたし、それが発火点になって雰囲気もこなれてきたように感じた。長田のソロもよかった。

Dr.kyOnと佐橋佳幸のユニット、ダージリンに提供した『流浪中』が演奏されたのはサプライズだった。この曲はダージリンのアルバムに収録されているが、佐野が作詞・作曲し、演奏はDr.kyOnと佐橋のほか、古田、井上に山本拓夫を加えたホーボー・キング・バンド、佐野がボーカルを担当しているもので、実質的には佐野のレパートリーである。ライブで聴くことができるとは思っていなかったが、セカンドラインに乗せた軽妙なR&Bの曲調で、このライブとは親和性が高くいい試みだと思った。

MCは少なく、バンドはテンポよく曲を演奏して行く。このシリーズ・ライブはこれまでなんども見に来ているが、どちらかといえばリラックスしたショーとしての側面が強かったように感じられたこれまでのステージに比べ、この日はまさに「ライブ」として、熱のこもったパフォーマンスとそれを受け取る客席とのあいだに、相互のリアルな交感が確かに成り立っていた。ありきたりな言い方をすれば、これまで見たビルボードでのライブのなかでも最も「熱い」ステージだったと思う。

音楽は僕たちの生活のあらゆる局面にある。先鋭的なロックを聴いて魂のスクリューを加速したいこともあれば、ゆったりした音楽で疲れた心身をリラックスさせたいときもある。長い歴史のあいだに積み上げられてきた、さまざまな音楽の深みをあらためて確かめたいときもあるだろう。

佐野元春の音楽がどこから来たのか、そして、これまでに発表してきたレパートリーが、時間の中で試され、「今ここ」で鳴らされるべき音楽としてどのようであり得るのか。それを探る作業にトライし、うまく行ったり失敗したりしながら、そのトライアル自体が一方でメインストリームの活動にもフィードバックされて行くサイクルとして、このシリーズ・ライブにもまた重要な意味がある。この日のライブを見てそんなことを考えた。

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