【FC東京】2022年シーズン・レビュー(1) シーズン総評
2022年シーズンは、アルベル監督のもと、新しいスタイルにチャレンジした初年だった。2018年から2021年まで4年に及んだ長谷川監督のファスト・ブレイク、堅守速攻にベースを置いたフットボールから、ポジショナル・プレーを標榜しボールを大事にすることで主導権を握る現代的なフットボールへと大きく舵をきったのである。
アルベル監督は、2022年がそうしたチーム作りの年になることからあらかじめ「クラブが安定して成功を収めるためには、チームとしてのベースを長い時間をかけて構築していかなければいけません」「今シーズンは難しいシーズンになると思います。それをファン・サポーターのみなさんも理解しつつ、ともに苦しみ、ともに今後訪れる成功のために耐え続けてくれたら、大きな改革は成し遂げられるのだと思います」と性急に結果を求めることのないよう釘を刺していた。
以前から森重が現役としてフィットしている間にリーグ・タイトルを取りたいという思いが強く、このタイミングで1年をチーム作りに費やすことは正直もどかしくも思った。しかし、クラブとして先に進むためにはここで戦い方を更新し、明確なスタイルを確立することは必要だったし、そのために目指す方向やアルベル監督という人選は決して間違っていないということは理解できたので、今年は目先の戦績に一喜一憂することなく、シーズンを通じてどれだけの積み上げができるのかを冷静に見極めようと最初に覚悟を決めたのであった。
結果として、リーグ戦は14勝13敗7分で勝ち点49(1試合あたり1.44)にとどまった。リーグ全体が混戦だったこともあり6位と悪くない位置でフィニッシュすることができたが、勝ち点は50に届かず、ルヴァンカップは予選リーグ敗退、天皇杯も3回戦でJ2の長崎に延長の末敗れるなど形のある結果を残すことはできなかった。
実際、シーズンの流れを見てもリーグ戦では開幕直後の3月に3連勝があったのみでその後は2連勝が精いっぱい、5月には3連敗を喫するなど戦いぶりは安定せず、勝ったり負けたりの印象の強いシーズンとなった。
しかし、それでは今季の東京の戦いに見るべきものがなかったかといえばもちろんそんなことはない。むしろ、そこにはこれまでにない成長の軌跡とそれを見守り支えることの大きな喜びがあったと言っていい。
それはまず開幕のアウェイ川崎戦で顕著に表れた。この試合では、序盤はほぼ一方的に押しこまれながらも臆せず前に進む意志を見せ、前半途中からはボールを保持して攻め上がる局面を作れるようになった。結果は終盤のCKからの失点で0-1と惜しくも取りこぼしたが、前年の優勝クラブを相手に一歩も退かない戦いで渡り合った。正しい位置でボールを受け、敵の守備をはがして前進するという理想からはまだほど遠く、前年までのカウンター・フットボールの影響も濃かったが、少なくともなにをやりたいかということははっきり表現できたし、それでどこまでできるか、なにがまだできないかということをチームも、サポも目の当たりにすることができた。
チームはシーズンを通して成長を遂げた。成長を顕著に感じたのは7月の23節アウェイ広島戦、そして8月の27節アウェイ柏戦あたり。特に夏に移籍加入した塚川が初めて先発した柏戦は6-3の大勝となったが、少ないタッチでボールを動かしながら最後に裏に通すなど、敵のプレッシャーを怖れず自分たちのやりたい形に持ちこむ意志がはっきりし始め、それがゴールにもつながったナイス・ゲームだった。
シーズン終盤には優勝した横浜に引き分け、4位鹿島にアウェイでダブルを決め、最終節川崎とのホームゲームでは最後にオウン・ゴールで勝ち越しを許したもののあと一歩のところまで追いつめた。
一方で、湘南にダブルを許し、鳥栖、福岡にはいずれもアウェイで5失点を喫するなど、ハマらない試合ではもろさもあった。先にも書いたようにシーズン序盤の3連勝があるきりで以降は2連勝止まり。調子に乗り始めると新たな問題が出てくるという繰り返しでシーズンを終えた。
次から次へと課題に向かい合うことを余儀なくされたシーズンであったがそれはもとより覚悟のうえだ。見方を変えれば、戦術の落としこみ→実戦での試行→課題の発見→克服というPDCAサイクルを回し続けたシーズンでもあったわけで、その結果、気づいてみれば開幕から比べてずいぶん高いところまで登ってきた感はある。
2023年も当然ながらアルベル監督が引き続き指揮を執ることが決まっており、この取り組みはまだまだ深化して行く。2022年はその始まりのシーズンとして肯定されるべきだし、タイトルという点ではなにも手にしていないが、正しい道を進んでいると評価すべきだと思っている。
次回以降は、アルベル監督が持ちこんだもの、できたこととまだできていないことについて考えたい。
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