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血液的生まれ変わり、造血幹細胞移植【白血病】

 先日からこれまでと異なる抗がん剤の服用を開始し数日が経過した。前回使っていた抗がん剤よりも副作用が強く出る可能性があるとのことだったので心配しているが、今のところは幸運にも大きな副作用はない。
 今週の治療結果は明日の骨髄検査等で判断されるため、現時点では確定的なことは言えない。とはいえ移植予定日までもうあと8日ほど。改めて近づいてきた。

 外泊期間を含めてここ最近、これから自分が行う『造血幹細胞移植』(=臍帯血移植)について聞かれることがちょくちょくあったので、その部分を自身の復習を兼ねて紹介しようと思う。とはいえ自分はあくまで1度実体験しただけの素人なので、専門的な知識に誤りがあったりがある可能性もあるので、その点はあしからず。
 知らない人には全く知らない世界。例え話をいくつか用いながら、未経験の方にも少しでもイメージできるような説明にできればと思う。


↓↓↓↓前回の記事はこちら↓↓↓↓


▶造血幹細胞と白血病、その対処方法

▷造血幹細胞とは?

●骨の中心『骨髄』で製造される血球を生み出す大元の細胞

 当たり前のように体内を流れる血液(血球+血漿)。それは骨の中の骨髄によって製造されている。骨髄は血液の製造工場である。その製造工場の中でどんどん血球を作り出しているのが造血幹細胞となる。例えば赤血球、白血球、血小板などに成長する。(この成長過程を『分化』という)
 そしてこの造血幹細胞は自分と同じ性質の細胞を増やす能力も持っている(『自己複製』)。このふたつの能力で体内に常に健康な血液を製造し続けているわけだ。

▷白血病の成り立ちとその行動

 そうした中で白血病は、その製造工場内で一部の細胞がストライキを起こした状態から始まる。どうしてストライキが起こるのか、現代の医学では明らかになっていない。ネット上にはある種陰謀論めいた持論を高らかに叫ぶ方もいるが、医学の世界ではまだ明確な根拠を持った原因は明かされていない。『たまたまなってしまう病気』だ。

 製造工場でひとたびストライキが発生すると困ることがある。

  • 正常な製品(血液)が製造されにくくなる

  • どんどんとストライキの規模が広がり、身体全体を蝕んでいく

 ストライキを起こした細胞は決してストライキをやめてはくれない。それどころからストライキする細胞をどんどん増やし、製造工場を飛び出し、身体中でストライキ活動を行う。その結果として身体が正常な活動を行うことができなくなり、最終的には死に至る。

▷白血病への対処方法

 一般的に白血病が発生した際には、抗がん剤を用いた化学療法を用いて治療することが『標準治療』とされる。この標準治療という表現で勘違いされる方もいるが、標準治療とは世界中の症例データ等を鑑みた結果最も効果的であるとされる治療である。
 その標準治療では、ストライキした細胞に抗がん剤を与え、身体が退出していただく、いわば会社都合の退職制度だ。ただしこの抗がん剤は正常な細胞に対しても悪影響を及ぼすことがある。それが骨髄抑制や血球の減少のような『副作用』として身体に現れる。脱毛などもそうであり、その副作用は薬により非常に多岐にわたる。

 この治療により、体内の白血病細胞を駆逐できることもある。この状態を『寛解状態』という。とはいえ、身体の隅々まで、すべての白血病細胞を駆逐できたかは判断できない。なので治療終了後も約5年間、継続的な経過観察を経て、再び白血病細胞が増えてこないかを注視し続ける。無事に5年を経過することができて初めて、白血病が『治癒』したことになる。

▷自分の場合

 2022年春、化学療法を終えた時点で自身の体内に白血病細胞は見当たらなかった。現状1番検査精度の高い『MRD(微小残存病変)測定』も陰性。ここから2年間、自宅療養を経て社会復帰を行いながら、『維持療法』と呼ばれる飲み薬や毎月の抗がん剤の点滴を受けながらさらに見つかっていない白血病細胞を殺し、その後5年間の経過観察を経て治癒する予定でいた。

 しかし、そうはならなかった。化学療法の終了から約半年、体内に白血病細胞が見つかった。すでに維持療法の治療強度では駆逐しきれないほどに増加を始めていた。そうなってくると化学療法だけではもはや駆逐しきることは難しい。そうなった場合にとられる治療方法が、『造血幹細胞移植』である。

▶造血幹細胞移植について

▷造血幹細胞移植の分類

 造血幹細胞移植とひと口に言っても、その行程は症例や患者の状態に応じてさまざまである。

 上記表は造血幹細胞移植を3つの分類で分け、さらに各分類の中の種類ごとに長所・短所を示している。ちなみに色をつけた部分が今回自分が行うものになる。

▷造血幹細胞移植のイメージ

 移植と言われると、身体を切り開いて特定の部位を切り取り、新しいものをくっつける。そういうイメージが一般的だが、造血幹細胞移植はそうではない。移植行為自体は輸血や点滴のような形で行われる。移植の対象が臓器ではなく血液だからだ。時間もアレルギー反応などを警戒してゆっくり点滴を落としたとしても、せいぜい2時間くらいだ。

 移植後ずっとサムネイルに登場しているこの画像、これがまさに移植中の光景である。手前に見えるトマトケチャップが少し薄まったような色味の液体が、ドナーさんからいただいた造血幹細胞を含む液体である。ちなみにこの時は腕ではなく首からこの液体を取り込んでいる。

 造血幹細胞移植のイメージとしては、『コップの中の汚れた水を入れ替える』というイメージだ。コップが身体、水が血液および造血幹細胞だ。


 ただし、この水を入れ替えるという行程が非常に危険だ。コップであれば逆さまにすれば大体の水と汚れはこぼれる。さらにきれいにしたければ布巾等で拭えばよい。ただ、人体はそうはいかない。

 そこで造血幹細胞移植では、その前処置で、非常に強度の高い抗がん剤治療や放射線治療を行う。いってみればコップを強力なバーナーであぶるのだ。それによりコップの中の水を汚れごと蒸発させていく。だが、水や汚れが減ることも期待されると同時に、身体であるコップ自体にも多大な負荷がかかる。形がゆがんだり、ヒビが入ったりするかもしれないし、最悪の場合コップが割れる。それが副作用であり、死亡にあたる。

 そうやってコップの水と汚れをできるだけ取り除いたコップに新しくきれいな水を足していく。これがドナー由来の造血幹細胞を含んだ液体だ。

▷移植~生着まで

 ここで完了であればいいのだが、造血幹細胞移植はここからが大変だ。移植時にコップに残っていた水やコップそのものと、新しく注いだ水がうまく馴染めずに、大喧嘩を始める。それが移植の副作用であり、GVHD(移植片対宿主病)であったりする。本来体と血液はセットだ。そこに違う血液の素を入れるわけなので、うまく馴染まないのは当然である。
 この大喧嘩と並行して、負荷を受けたコップ自体にもさらに試練が訪れる。移植前にバーナーであぶられたことで、衝撃などに非常にもろくなってしまっている。この時の衝撃は感染症の類や粘膜障害などの症状だ。実際に移植後に死亡した場合、感染症等で亡くなる可能性が高い。

 なので、自分が移植によって死亡する可能性が1番高まるのは、移植当日からの約1か月だと思う。前回の移植時も、この期間は本当に辛かった。ただただ地獄のような記憶だけが残っているような感じだ。文字通り秒単位で身体の調子が変わり、まともに寝ることすらままならない日々が続く。40℃を超える熱と身体中の痛みで意識も曖昧になり、いま見ている映像が、音が、夢なのか現実なのか、区別がつかなくなった。せん妄と言われる症状で、看護師さんの問いかけに訳の分からない言葉を返して困惑させたことを覚えている。

 そして移植から1週間くらいたつ頃から、身体に様々な反応が出てくる。例えばのどの奥の皮膚がはがれることで食べ物が飲みこむ度に激痛が走って食事ができなくなったり、そもそも食べ物の味がわからない、変な味に変わる。肺に血が溜まりベッドの上で溺れかけたりもした。そういった時に主治医、看護師さんに文字通り命を救われた。

 移植から約1か月、体内の大喧嘩がひと段落し、ドナー由来の造血幹細胞が体内に根付き始めた頃を生着といい、これが移植の成功の瞬間になる。
 とはいえ、生着したからと言ってまるで油断はできない。馴染んできたとは言え、体内の喧嘩は続く。この喧嘩の決着は本当に個人差があり、自分は前回の移植時には移植後半年くらいである程度落ち着いてくれたが、一生続く場合もありうる。

▷生着~退院まで

 こういった喧嘩を仲裁するための薬を飲みながら、体調が回復していき、自分で食事をとったり、日常動作がある程度出来るようになってから、はれて退院となる。ただし、この時は身体も非常に弱り切った状態なので、家庭での生活も正直ままならない。自分はこの移植入院の約3か月で20㎏減量したし、退院したあと、2週間くらいで体調が激変し再び入院した。

▶治癒に向けて

▷5年間の経過観察

 移植が成功したから、退院ができたから白血病が治った、というわけではない。むしろ戦いはここからが長い。
 前述のとおり、一般的に白血病の治癒は、寛解状態を5年以上継続出来て初めて『治った(=治癒した)』と考えることができる。それまではずっと外来で経過観察を行う必要がある。

 最初は毎週、状態が落ち着き始めてから隔週、3週に1度、1か月に1度と頻度を落としながらも経過を検査し続ける。そこで再び白血病細胞が見つかれば、再び治療の選択を迫られる。

▷自分の場合

 そして自分は移植に成功しても、再び白血病細胞が見つかる可能性が非常に高い。なぜなら、前処置段階で体内に多くの白血病細胞が存在している『非寛解状態』で移植に臨むからだ。前処置の治療で白血病細胞もできる限り取り除くのだが、汚れが多ければそれだけ汚れが残る確率があがる。そのわずかな汚れから再び汚れが広がれば、新しい水もすぐに汚れてしまう。

 ちなみに前回の移植と比較すると、圧倒的に前回の移植の方が好条件であった。身体は体力、筋力共に充実しており、白血病も寛解状態を維持した状態で移植に臨むことができていた。それでも移植後約半年で再発した。
 今回はそれよりもはるかに悪い状態から前処置が始まる。当然に前回よりも悪い結果が出る可能性が高い。最悪の場合、生着と同時に白血病細胞も増え始めるという可能性も十分にありうる。

 そして、自分は今回の移植が治療としてはラストチャンスとなる。3度目の移植はない。理由としては身体が耐えられないだろうということと、恐らく心がもう持たないと思う。

▶最後に

 白血病と聞くと、最近のイメージしやすい例では、水泳の池江選手が記憶にある方が多いと思う。彼女は造血幹細胞移植を行ったうえで、約半年でプールに戻り、現在も世界を相手に戦うトップアスリートだ。その姿は自分達白血病患者にとっては伝説のような存在ともいえるかもしれない。
 ただ、主治医からは「彼女は特例中の特例、(治療に関しては)あの子を目標にしてはいけない」と言われたことがある。その意味がいまでは本当によくわかる。(池江氏は一切悪くないが)彼女の雄姿により、自分の周囲でも『白血病は治る病気』と軽く言い放つ方もいる。
 世の中には複数回の移植を乗り越えて、今もご存命の方もいらっしゃる。移植を行わず、化学療法だけで治癒した方もいらっしゃる。
 だけど、それと同時に、化学療法では治癒できず、移植をしても再発し、命を落とした方も少なくない。
 病種にもよるが、成人の白血病の5年生存率は20~30%程度。決して大半の人が治るというわけではないし、治らない人の方が比率としては圧倒的に多い。どちらかと言えば『治る人もいる病気』という表現が近しい。

 こういうことを書いて、何が言いたいか、正直自分でもわからない。
 でも、少なくともこの記事を読んでくださった方には、白血病について間違った理解をしないでほしい。自分を蝕んでいる病気について、できるだけ正しく理解してもらったうえで生きてもらいたいと願う。

最後までお読みいただき、
ありがとうございました!