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24.05.23 思いがけない二つの出来事

最初の一歩って勇気がいる。
だが、今日はそれを振り絞らないといけない日だ。
 
事務所の横の広い部屋。そこで毎日ウクライナ人対象の活動をしている。今日はそこの活動見学をしつつ、調整役である女性のアリーナ(仮名)にインタビューをしなければいけない。
 
扉を開くと、アリーナと離れたところに若い男の子。各々、スマホを眺めていた。
「こんにちは。今日、ここで英語講座があるって聞いていたんだけど…」
アリーナは英語が分からないから、必然的に顔を男の子に向ける。
「そうだけど、まだ誰も来ていないね。普通、2、3人来るんだけど。」
そう言われ、椅子に腰を掛け彼と話をしてみた。
 
スロバキアには、IQが高い生徒だけが通う学校があり、彼はそこの生徒らしい。とても流暢な英語と達観した価値観の理由が分かった。私が様々な国にこれまで住んできたことを伝えると、彼から
「その国々の友人とどう関係を維持しているの?SNSで繋がっているって言ったって、大して会話しないでしょ?」
と質問され、こちらも回答にたじたじになるほどだった。
 
しばらくすると、ツーブロックヘアの中学生ぐらいの男の子がやってきた。
iPadを教材に、英文の読解、動物の名前などを学習していった。受講生はスロバキア語で出題された動物を、英語で答えていく。私はそれを聞きながら、「クラは鶏、マチュカは猫…」と思いがけずスロバキア語を学ぶ機会となった。
 
1時間の講義が終わり、子どもたちが帰宅すると、アリーナのもとに駆け寄り、話を聞きたい旨をお得意の翻訳機で伝えた。
「いつからこのセンターで働いているの」
「どうやって、日々の活動内容を決めているの」
ウクライナ人のアリーナとまともに話すのは初めてだった。ひたすら仕事の話を聞こうと思っていた。だが話をしていく中で、戦争の話が彼女の方から出てきた。初めてウクライナ人から、母国の話を聞かせてもらった。
 
「私の故郷はドネツクなの。そこから姪と一緒に、2年前に逃げて来た。たまたま戦争が始まったときに旦那はドイツにいたから、今は3人で暮らせている。だけど、姉は今もドネツクに住んだままだから、心配している。」
そういいながら、彼女は自分の故郷の場所を地図で見せようとスマホで検索してくれた。その途中で見えた画像。それは紛争で壊された建物だった。自分の見慣れた故郷の地が壊されていくというのは、どういう感情なのだろうか。また、戦況が悪化してもなお、その地に住み続けるのはなぜなのだろうか…。
 
「戦争が始まってから、子どもたちが大きな音を聞くのが嫌いになったわ。私も、今ではカウントダウンの花火が嫌いよ。頭ではわかっている。危険なものじゃないってことは。だけど、もうだめなの。」
私は、それを聞いて「そう…」としか答えられなかった。

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