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「君の名は」所感

映像、音楽、セリフ、緊密に結びつき成り立った一つの芸術作品。時間はめぐり、繰り返し、そしてずれる。忘れられた記憶は体に保存され、体から呼び起こされる。涙とともに。
時空を旅することは、ただ飛行機に乗るように、今から彼方に飛び立つだけではない。それは過去から現在によじ登る運動で、また現在から過去によじ登る運動である。過去は現在の下にあり、現在は過去の下にある。だから移動は難しい。それでも時間を超える。それが意思の所産か、偶然の産物かはわからないが、出来事には必ず意味がつけられ、それは実存に刻まれる。

過去の物語は今を意味付ける前世譚であり、今の記憶は過去に方向付けられた物語。それがしっかりと結びついた時には、これまでにない新たな未来が開かれてゆく。

運命は繰り返された末にある場所に結実して、それが人格化された時には、その人は必然としてそれを受け止める。そこにはそっと誰かの手が添えられている。添えられた手の暖かさは、手のひらの中に書き込まれている。

不明瞭な中でしか明瞭に出会うことのできない存在。片割れと片割れとが出会うのは空のグラデーションがうつくしく、はかなく、消えてゆくとき。

彼は誰時。存在は見えなくても感じるもの。

感じあえたものは、やがてまた出会う。お互いを感じた痕跡がどこかに残っているから。名前が心の奥のほうにそっと刻まれているから。

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