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CRYSTARのネーミング考察

CRYSTARのキャラ名は大体は古代ギリシャの哲学者や、それに関する用語から来ている。
しかしそれがわかっていても個人的にかなりネーミングセンスが秀逸だと感じたので、アートブックの記述と自分で調べて考察したものをまとめて記事にしたいと思う。

【タイトル】

CRY=大声で泣く、叫ぶ
STAR=星

直訳すれば「嘆きの星」「慟哭の星」といったニュアンス。
CRYはこのゲームのコンセプトである涙に直結する要素で、STARは零れ落ちる涙の雫を比喩的に表現していると思われる。
また、辺獄最下層の球体から放射状に飛び散る線や点は星のようにも見える。これはアートブックによると再生の歯車で浄化し終えて輪廻転生する魂らしいので、エンディングの内容を示唆しているのかもしれない。

CRYSTARの最後のRをLにすれば「CRYSTAL=クリスタル」となり、OPテーマ「can cry」の歌詞にもある通りこれもまた涙の暗喩。
R→Lの変換はRIGHT→LEFTとも見れなくもなく、もしかしたら零の双子の妹の存在を示唆しているのかもしれない。
細かく各キャラごとにテーマ宝石が決められているこのゲームだが、クリスタルがどのキャラにも当てはめられていないあたり、ゲーム全体のテーマ宝石がクリスタルとも見れる。

【零の名前】

「しずく、雨だれ、ほんの少し
ゼロ。──お前の名だ、零」

戦闘妖精雪風 ブッカー少佐

主人公の零の名前は本当に色々な示唆を含んでいる。

作中で説明されるのは零の母親がその由来を五歳児の零に語る場面。
「久遠=永遠、長久、はるかな過去や未来」に対応する「零=無、始点、可能性」であり、二人併せて「全てを内包する」という意味で名づけられた模様。
このゲームのキャラ名の多くは数字に関連するものが多いため、そういう意味でもゼロ=零は主人公名にふさわしい。
三姉妹揃うと久遠、零、みらいとなり過去、現在、未来を示唆する形にもなる。

零という漢字は「零れる」という字と同じでもある。
「零れる雫」と似た形の漢字を並べるとそのまま涙を暗喩する言葉になり、やはり本作のコンセプトに帰結する。
これは英単語の「rain=雨」にも掛けられていると思われる。技名にレイン・レイってあるし。
このレイン・レイはシャレみたいな名前だが、「涙のように降り注ぐ光の雫」と見れば零の魔法らしさが溢れる。

0というアラビア数字の形で見ても、零の技は回転斬りや竜巻など回るものが多くある程度意識されていると思われる。
円形は、輪廻転生ヨミガエリを示唆するものとも見えるし、エンディングの内容的にも「戦い続けてきた果てに、最初の妹を失った状態に戻る」という点が円形とゼロを両方意味する状態になっている。

※※※

フルネームで見ると「幡田零(ハタダレイ)」で「パンタレイ(panta rhei)=万物は流転する」のもじりである。
パンタレイなら苗字は半田や反田の方がより音が近かったのでは?とも思うが「」という字は仏教用語での供養に関連する意味合いも含まれているので、こちらの方が合っているのだろう。
また、半にしろ反にしろ1/2や反対の意味合いが含まれると「万物は流転する」の意味から若干離れてしまう。

また、先述した「三姉妹揃うと過去・現在・未来の示唆となる」という点も「万物は流転する」の意味と密接に関わる「時間」という概念に抵触する。
零だけなら固定された数字だが、ファミリーネームや姉妹を含めることで流動した時間となると考えると面白い。

総じて「万物は流転する」「無」という無常の意味合いに「円形」「元の場所に戻る」という相反するキーワードが矛盾せずにキャラクターテーマ、ストーリーテーマにしっかり沿っているあたり秀逸なネーミングだと思う。

【幡田みらい=デュナミス(可能態)】

幽鬼状態の戦闘形態であるアリストテレスの提唱した概念。
エネルゲイア(現実態)、エンテレケイアとセットとなる概念らしいのだが、正直勉強不足でよくわからない。

ただ移行していく形相、可能性という概念や時間を意味する単語ということから先述した零に対応する意味合いでつけられたネーミングだということはわかる。
ひらがなで「みらい」なのは恐らく「ややネーミングセンスがズレている」ことから血の繋がっていない姉妹だということを示唆する伏線か。

【不動寺小衣=動じない心(アパティア)】

この作品のネーミングで一貫して上手いと思うところは、名前全体が人名として無理がなくそこまで違和感を覚えないセンスで統一されているところ。
不動明王という仏がいるところからして不動寺という苗字はいかにもありそうだし、小衣という同名女性キャラは他にもいる。
この二つが併った結果、不動心(アパティア)というディオゲネスの提唱した概念になる。

パトス(情動、欲念)を制御した心、という意味らしくはっきり言って劇中の小衣姉さんの言動行動からかけ離れている。
しかしこれは意図したキャラクター性と伺うことができ、情念深くパトス迸る小衣がストーリーが進む中でそれを抑えていく必要性と、術を見つけるシナリオ展開込みでの名前と言える。

ちなみにディオネゲスはプラトンと思想的に対立していたらしい。劇中でアナムネシス絶許なのはさもありなん……。

【恵羽千=善く生きる(エウゼーン)】

苗字の恵羽を音読みすることで「えう」となりエウゼーンのもじりとなっている。
「善く生きる」という意味からしても音的にも名前は千より善の方がより近かったのでは?とも思うが、あまり女の子らしい名前ではないことから、濁音を抜いて「セン」にしたのではなかろうか。

全体的に哲学的概念というのは勉強不足で調べながらこの記事を書いているのだが「エウゼーン」とは社会的なルールや道徳を「善」とするのではなく、己の中の良心を突き詰めて「善」く生きるという意味らしい。
つまり社会的な秩序やルールを遵守することを良しとする千の「正義」から真っ向から対立している。
千の「正義」の瓦解はシナリオ中で何度も描かれており、彼女は自分の良心と正義の葛藤を常に自問自答し続けていたと言える。
あまりに難しいテーマだからか、千の「善く生きる」というテーマの答えは本作ではちゃんと描かれていなかったようには思う。
まぁこれを追求しだしたら完全に千を主人公とした別ルートEDを作る必要があるので仕方あるまい……。

【777=ナナミ(773)+死(4)】

アートブックで読んで思わず唸った秀逸なネーミング。
ナナミちゃんが死んだからナナナ。転じて幸運を意味するラッキーセブンとなる。なんたる皮肉……。
他キャラのようなもじりではなく、数字の足し算というあたりも生前は秀才だったらしい彼女の設定に準じており、幽鬼は人間らしい名前に縛られる必要がないという点でも説得力というバットでぶん殴られた気分である。

なお彼女のモチーフが鳥なのは死者の魂の暗喩だと思われる。
教室から孤立した末の自縄自縛を経て、自由の翼を得た鳥になったというのは改めてこれも皮肉である……。

【メフィスとフェレス=メフィストフェレス】

ファウストを読んでいないので、メフィスとフェレスの元ネタは正直ちょっと私には詰め切れていないところがある。
ただあらすじを知っているだけで十分とも言え、魂と引き換えに契約を持ちかける悪魔と知っていればいいのだろう。

ヘブライ語の「mephis(破壊する者)」「tophel(惑わす者)」というのはアートブックで読んで単語自体初めて知った。
「と」の音の部分が日本語とヘブライ語で意味が変わるのがちょっと面白い。

なおファウストは読んでいなくても、ファウスト博士の目の前に初めて現れた悪魔メフィストフェレスの姿がむく犬だったというのは知っている。
それはセレマなのでは……と思うのだが、たぶん設定厨の林ディレクターは意図してやっているのだろう。

【セレマ=thelema(汝の意志することを行え)】

当然ここまで設定に凝った作品なのだからわんこの名前にすら意味がある。

愚門愚塔でのストーリー展開と、その後のイベントでのアナムネシスの言葉で動揺した零の心境に対する答えがそのままセレマだと言える。
この一連のイベントは零の「自分の罪の清算」「罪悪感のごまかし」という負い目で潰されそうになった時の励ましであり、ある意味では呪いとも言えるものでもある。
零は言うまでもなくメンタルが強い女の子ではないので何度も挫けそうになるが、そのたび久遠、みらい、セレマと妹たちが励まして道を示し手を引き導き、ヘラクレイトスが尻を蹴っ飛ばしてくる。
「お前がやりたいことをやれ」というのは同時に「お前が始めたことなんだから何があっても最後まで突っ走れ」という意味合いも零に対しては含まれている。

ただそれを突き詰めた結果、零の願いの本質は「罪悪感のごまかし」ではなく「家族への愛情」だからこそエンディングでみらいを引き止めなかったのだと言える。

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