一番好きな言葉 TP(ティティピー)
一番好きな言葉は、最初仏教の言葉かことわざから選ぼうと思った。ところがある著名な医師が、インターネットの番組で医師になりたての研修医に向かって講義をしていた場面を見て好きな言葉が決まった。医師の書いた黒板には、TTPと大きく書かれていた。この医師は慶應大学を卒業して、西洋医学も漢方医学も学びイグ・ノーベル賞まで取ったベテランだ。
守破離という言葉がある。茶道家の千利休が残した和歌から取った三文字で、守と破と離からなる。守破離とは剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。
武道や芸事だけでなく、人生一般に通用する言葉だ。その医師に言わせれば、守は「徹底的にパクること」すなわちT(てっ)T(ていてきに)P(ぱくる)で、略すとTTP。どんな職業でも、最初は先輩や上司の仕事を徹底的にマネして、技を盗むことが大切だ。歯学部の学生だったとき、上下左右28種類の歯の型を石膏で彫る授業があった。歯は前歯、小臼歯、大臼歯と形が全部違う。それを模写して彫刻刀で同じ形になるよう掘り出すのである。完成して指導教官に模型を持って行くと、一瞥して完成品をポキッと折られる。何度も作って持って行っても、理由も言われずにダメと言われて、毎回ポキッと折られた。ようやく合格の判をもらったのは数回目の授業終了間際だった。卒業後三十年以上経って、歯型を彫るのに何十回もダメと言われたのかようやく謎が解けた。TTPだった。何度も彫って、複雑な歯の形を徹底的にパクらせるためだった。何十回も彫ったことで、28種類の歯の形を細かい特徴まで覚えることができた。沢山の歯型を何十回も彫らせるように、授業のカリキュラムができていたのだ。
TTPはあらゆる場面で必要だ。ある男性小児科医と雑談していたとき、彼は子どもを診察するとき必ず手を握ると話した。子どもが安心するそうだ。さっそくTTPした。
ある病院の待合室で座っていたとき、隣に座っていた高齢の女性に看護師さんが近づいてきてひざまずいた。そして女性と同じ目の高さになってから薬の説明をしだした。同じ目線になると患者さんは緊張しなくなるのだ。それを見てさっそくTTP(徹底的にぱくる)した。
以来、毎日がTTPの連続でいつでも、徹底的にパクるよう心がけている。
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