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デュラハンは心の友 第2話 俺氏、とりま熊と戦う。

 どれどれ。
 スピリッツ・アイで見回すと虫やら鳥やらも入ってキラキラしすぎるから大きさをどんどん絞る。
 鹿っぽい。あっちも鹿? お土産にすると喜ばれるかな。
 んん~、あれ、あっちはゴブリンの巣っぽい。
 あとでボニたんに報告しよ。勝手に潰したら報酬入らんのよね。問題視されてからやないと。世知辛いわ。
 キョロキョロしてると大きな影を発見した。あれかいな。
 そろりそろり、なるべく音を立てんよう山を闊歩する。かぽかぽ。
 妖精やからか忍足は超得意や。これも種族スキルがあってやな、俺、妖精やからか、ほぼ0から多分200キロくらいまで体重変えられるん。まぁ服やら装備やらの重さもあるからうまく動くには完全0にはできんのやけど。上限はなんとなくデュラハンの体格からくる俺の想像力な気がするような。
 ともあれ、体重調整はすごい便利で、そんなわけで弱点もあるにはあるんやけど忍び足とか超得意なん。
 でも俺の首は俺の頭よりずいぶん上の方やから、首まではよう把握できんくて、たまに木の枝にぶつかってガサガサ音がしてしまう。だから森の行軍は正直得意じゃないん。

 そんなことをぼんやり考えてると目的に到着した。眼の前にはひときわ大きいライフの明かり。
 木影からのぞくと、なんかでっかい熊やった。立ち上がったら6メートルくらいになりそう。
 ええと。ボニたんに見せてもろた魔物図鑑を思い出す。あのサイズはヘルグリズリーってやつかいな。
 毛皮が高いと書いとったような。
 う~ん、でかい、でかいぞ。
 どうしよ。よし、なるべく不意を打つ。それしかない。
 鞭を構える。鞭ってほんまに浪漫武器。
 村周りの平原ならともかく正直森の中にはものごっつ不向き。障害物多すぎるんよ。よっぽど開けたとこやないと無理や思う。神様は何考えてこんな武器設定にしたんや。
 それになんでかわからんけど、この世界は適性がないと武器が装備できん。料理するんにナイフ持つとかはええんやけど、武器や思た途端力が入らんくて持ち上げるんも無理になる。せめてナイフくらい持てればええのに。
 だから俺は鞭のグリップを逆さに握って鈍器にする。グリップの端にはこぶし大の髑髏型の変な突起がついている。ヘルグリズリー、長いから熊でいいや。よし、熊は俺の方を向いとるけど、俺に気づいてはなさそうや。ここは死角やな。念のためにちょっとだけ細工する。
 ゆっくり距離をとりながら熊の背後に回るのだ。熊の頭の高さは俺の首くらい。頭だけで両腕をワッカにしたくらいのサイズ感。でかい。ちょっと呼吸を整える。息してないから気持ちだけ。ここでぼんやりしたって始まらん。
 とりま行くか。気合十分。

 ヒュウ、と風がついてきた。
 前傾姿勢で地面を蹴って風の速さで熊右背後から忍び寄る。
 重さのほとんどない俺の走りは足音なしで気づかれん。
 熊の真横に滑り込む。体重増加。軸足を起点に鞭の柄で熊のこめかみを強打・振り抜き、その勢いで熊の正面に回りこむ。
 どやろ? 観察が大事や。
 突然の衝撃に熊は一瞬大きく唸り、ぐらりと足元を揺らがせた。だが、それだけだ。
 くっそ、さすがレベルの高い熊、このくらいじゃ倒れへんか。わかっとった。体重乗らん軽い打撃はやっぱたいして効かないや。これが体重軽減の弱点や。
 やから熊が混乱してるうちに一呼吸も置かせず追撃する。
 熊が地面を太い脚で踏み締める前、俺は体重を消して地面を蹴り、高く跳躍する。
 5メートルの高さから体重200キロに重力追加し、鞭柄を振りかぶって熊の右目に正確に叩きつける。メキョっという音が響く前に背後に飛んで距離を取る。
 砂埃の先に見える熊は……目は潰せたけどやっぱ浅いか。
 本当は頭骨を割りたかったんやけど。頭蓋が硬すぎる。眼窩は髑髏より小さそう。鞭柄を突き立てても脳髄に届かんな。
 なら、次の武器は徒手。

 鞭を放り捨ててより身軽になった体重をオフ。熊の右側面から素早く背後に回り込み、左側面の死角から勢いをつけて熊の左目を指突でえぐる。
 ぐちゃぐちゃ貫通する眼球の粘りを感じるけれど、やはり脳には届かない。
 被弾を避けて、体を再び地面スレスレに低く倒しながら正面に回り込む。
 直後、熊の直径1メートルはある逞しい腕が俺の元いた場所をなぎ払う。
 ふぅ、あれで殴られたら多分ばらばらやな。
 少なくとも俺の頭部は潰れそう。頭潰されたらさすがに死ぬんかな。
 今見た感じ、熊のリーチはおそらく3メートル。こちらの方が身軽にしても、あの丸太みやいな凶悪な脚。熊の方が突進力は高そうだ。だが早々に両目は潰せた。
 ぐうふフと唸りながら熊はゆっくりと威嚇するよう立ち上がる。やはり……でかい。圧倒的に。下から見上げると余計に。ゴクリと喉が鳴る。

 だが。勝った。
 俺の指じゃお前を貫けはしないけど、それなりに力は強いんよ。
 細工を手元に手繰り寄せて呼びかける。
「く~まくま~」
 アホっぽいなん。
 真下から聞こえた俺の声に怒号を上げ、上体を大きく捩じって凶悪なこぶしを振り上げる。
 おお、すげえ迫力。まじ怖ぇ。心臓あったら止まったかも。
 俺の何倍もあろうかという質量が上空から暴風とともに振り下ろされる。
 体重0の俺はその勢いで吹き飛ばされて、頭を木に強かに打ち付けた。

 いてて。
 もっとちゃんと持っててよ体。
 地面に転がる俺の頭は横になった視界で、熊が太い杭に貫かれて絶命してるのを見た。
 ボニたんが買うてくれた恐ろしく切れ味のいいナイフで先端を尖らせた倒木を俺と熊の直線上に置いてきた。武器と思わんかったらナイフは使えるし罠と思えば杭を持てるんよ。そうやないと武器屋さんが武器持てんし猟師さんが罠設置できんからな。太い杭は熊の胸にズドンと見事に突き刺さっていた。
 ……やっぱあの質量差は武器ないと無理やよな。
 やっぱ、武器で使えるもん欲しいな。鞭かっこええけど実用性低い。
 ふう。でもよかった。倒せたわ。俺やったよ、ボニたん。
 よっし。皮剥ご。ボニたんにお土産。
 夜は短し皮剥け俺氏。
 熊と接敵した衝撃で鳥は飛び立ち、獣は逃げ去っている。
 静かな夜。今日はお月様もいない。

シリーズ目次+1話目

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 #デュラハン  

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