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意表の仕掛け②(自戦解説)

 前回は、序盤でやり損なったのを、意表の仕掛けで乱戦に持ち込んだ将棋でした。

 ですが、いくら私でも、そんなにしょっちゅう序盤でやり損なう訳もなく、今回は狙いの仕掛けを炸裂させた棋譜です。


1図

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 1図は、先手が私です。
 四間飛車に対して、ミレニアム囲いにしようとしたところ、32金型で早い動きを見せられたので銀冠に構えたところです。

 後手の方は、先手の堅さにバランスで対抗してきました。
 四間飛車から中飛車に組み替え、6筋の位を取ってイメージ通りの展開って感じでしょうか。

 お互いに囲いが飽和点に達しているので、先手番の私としてはそろそろ仕掛けを敢行するつもりになっています。
 ですが、下手に仕掛けると後手のバランスの良さが活きそうなので、慎重に考えて次の手を指しました。


1図からの指し手
98香(2図)

2図

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 ここは迷いました。
 と言うのも、居飛車が作戦勝ちな気がしていたからです。

 作戦勝ちの根拠は、1図から65桂が成立しそうに見えたから……。
 以下、同桂 66歩と進みます。

 66歩に後手が大人しく65歩と桂を取らせてくれるのなら大成功なのですが、6筋の歩を食い逃げされては後手もバカバカしいので、動いてきます。
 以下、45歩 同桂 44角 33桂成 同角 98玉(意外とスッキリしない図)と進む感じがしていました。

意外とスッキリしない図

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 98玉の局面は、理屈から言えば先手が悪い訳がありません。
 玉の囲いは先手が堅いですし、現状では桂損ですが、65歩と取り返せば逆に二歩得ですから。

 ただ……。
 次に後手が何を指すのかが分からなかったんです。
 64銀や95歩、35歩など、様々な手段が考えられ、どれを選ばれてもこちらは新たに対応しなくてはいけない。
 プロ棋士のように、何時間も持ち時間があれば話は別ですが、これは30秒の秒読みが付いているだけのネット対局ですので、出来れば想定外の手が飛んでくるような展開は避けたかったのです。

 なので、65桂で良くなりそうなのは重々承知の上で、諦めました。
 まあ、他に有力な手段を思いついたからでもありますが……。

 その有力な手段が、2図の98香です。
 狙いは単純明快、地下鉄飛車。
 おあつらえ向きに48の角も93の地点を睨んでいますので、この方が後の展開が分かりやすいように思い、選択しました。


2図からの指し手
92香 99飛 91飛 66歩(3図)

3図

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 後手は、地下鉄飛車には地下鉄飛車で対抗してきました。

 しかし、これは想定内……。
 3図の66歩が当初から狙っていた一手です。
 先手は一歩を手に入れて、95歩 同歩 93歩 同香 同角成と集中攻撃するつもりです。

 ですが、一歩持つと、後手にも45歩 同桂 同桂 同銀 44歩と銀を殺す手が生じますので、旨く端が攻め切れなければ後手が良くなりそうです。

 この攻め合いは、どちらに軍配があがるのでしょうか?


3図からの指し手
66同歩 同角 45歩 同桂 同桂 同銀 44歩 95歩(4図)

4図

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 3図から4図までは一本道です。
 先手も銀を殺されるのは覚悟のうえで仕掛けていますし、後手も代償無しで端を破られては酷いので45歩と反発するしかありません。


4図からの指し手
95同歩 93歩(5図)

5図

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 95同歩に93歩は狙いの攻めです。
 この攻めが厳しいと思うからこそ、銀が死んでも指せると思っていました。

 ですが……。
 今、冷静に看ると、93歩では85桂打(これなら投了級?図)がありました。

これなら投了級?図

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 85桂打に45歩と銀を取るくらいだと、93歩が無茶苦茶厳しいのです。
 また、85同桂と取られても、同桂がやはり93歩を見て厳しいです。
 96桂と王手する手には、平凡に同香と取り、それから93歩でやはり先手勝勢。

 対局中は93歩を打って端を清算することしか考えていませんでしたが、85桂打なら安全かつそんなに駒損をせずに勝つことが出来ました。

 ……とは言っても、本譜93歩も十分に厳しい一手です。
 対局中は、
「よしっ!」
と、心の中で叫んでいたりしました(笑)。


5図からの指し手
93同香 同角成 同飛 95香 94歩 同香 同飛 同飛 93香(6図)

6図

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 6図で飛車が死んでしまいましたが、これは読み筋通り。
 さすがにこれで青くなるほど、読んでいない訳ではありませんよ(笑)。

 6図では、先手に遊び駒がほとんどないのに対し、後手は32の金や43の銀の働きが乏しかったりします。
 それに、先手の銀冠の堅いこと……。
 これなら大駒をぶった切って攻めても反動がキツくありませんので、相手玉を寄せることに専念できます。


6図からの指し手
93同飛成 同玉 91香 82玉 91飛(7図)

7図

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 7図の91飛までが、98香と上がった時からの読み筋です。

 91飛は詰めろ。
 この手が厳しいので、香と角の交換で駒損していても先手が優勢だと思っていました。

 後手はせっかく殺した45の銀を取る暇が無いのが痛いのです。

 まあ、2図からここまで、相手の変化する手がそれほど多くないので、こちらが読みやすい意味はありますが、これだけ大技を決めて優勢を築けると言うのは指していて気持ちの良いものですね(笑)。

 もっとも、これなら投了級?図の85桂打を逃していますので、それほど威張れたものではありませんが……。


 7図以下は、81桂 92香成 71玉 81飛成 62玉 82成香と攻めて、あとは短手数で勝ち切れました。

 後手は飛車や角を持っていても先手玉に迫りようがなく、自玉の周辺を厳しく攻められていますので粘りも利かないのです。


 本局のポイントは、2図で98香とした手でした。
 65桂から仕掛ければ良いのは分かっていたのに、不確定要素が多いので地下鉄飛車を選択したことが分かりやすい勝ちに繋がっています。

 将棋って、良さそうな局面の時は、色々な手が見えて迷うんですよね。
 ですが、迷って指している内に訳が分からなくなるってことが多々あるんです。
 65桂からの変化は、訳が分からなくなりそうに感じていました。

 なので、局面が良いと思ったら、極力、方針を一本にして、自分自身が分かりやすい局面にすることが大切だったりします。
 そういう意味で、本局の98香は私にとって一番分かりやすい構想で紛れがありませんでしたので、良い選択であったのではないかと思われます。


 これを読んでいる方は、1図で何を選ぶでしょうか?

「65桂から模様が良さそうだなあ……」
と思ったそこのあなた。
 本当にそれで短時間の将棋を勝ち切れるでしょうか?
 

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