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観る将歴30年のつぶやき「評価値実況の是非」

 現在の将棋界は、ネットを活用して様々なコンテンツが観られる。

 Abema TVによる対局中継などは、一昔前では考えられないような贅沢な一時を提供してくれていて、観る将の私としては、
「良い時代になったなあ」
と度々思ったりする。

 なんせ、タイトル戦がスマホやパソコンでチェック出来てしまうのだから、観る将に限らず、将棋ファン全般に大歓迎であろう。
 しかも、無料だし。
 もちろん、主催の日本将棋連盟も、話題になるし、露出も増えるで、観る方、主催する方、両方ともWIN WINの関係で言うことがないように見える。


 しかし……。

 プロ棋士の対局が全て観られるかと言うと、そうではない。
 棋戦やその対局の注目度によって、観戦できる対局とそうではない対局に分かれる。

 大抵の棋戦のタイトル戦は、ネットTVや動画サイトで無料で観られるようにはなっているが、王将戦は有料コンテンツでないと観られないことになっている。

 ただ、YouTubeなどでは「評価値実況」と称して、一部の将棋系ユーチューバーが対局の模様をリアルタイムで配信していたりする。

 評価値実況……。
 つまり、棋士の対局している姿を映さないことで肖像権を犯していないし、盤面を映さず指し手の評価値を流すだけだから対局の棋譜利用にもあたらないと言う理屈だ。

 藤井三冠の王将リーグの対局などは、何人ものユーチューバーが評価値実況をし、かなりの数の視聴者を得ているようだ。


 私は以前から思っていた。
「この評価値実況は、棋譜利用のガイドラインに抵触している上に違法なのではないか」
と……。

 特に、王将戦に関する対局の評価値実況は、間違いなくガイドラインに違反しているはずなのだ。


 評価値実況をしているユーチューバーの中には、
「ちゃんと(日本将棋連盟やスポンサーの)許諾を得ています」
と言う人もいるようだが、それは嘘だ。

 何故、嘘だと断定出来てしまうかと言うと、それは棋譜利用のガイドラインにしっかり明記されていることに反しているから。


 王将戦における棋譜利用のガイドラインには、こう書いてある。

>> 5. 「棋譜」の利用許諾

>> (4) 対局中の「棋譜の利用」はお断りします。ただし、挑戦手合(注:挑戦手合=タイトル戦)では、1日目の対局を対局2日目に利用することは可とします。

 つまり、対局中には棋譜の利用は出来ないと明記されているのだ。

 ガイドラインにハッキリ明記されている利用できない許諾を、スポンサー側の企業でもない限りは得られる訳がないのは当然のこと。
 ましてや王将リーグをリアルタイムでなんてもってのほかである。


「違反じゃないよ。評価値実況は符号を読み上げて、その評価値を配信しているだけだから……」
こんな反論をする人も中にはいるかもしれない。

 しかし、もしこういう配信をしていたとしても、やはりガイドラインには抵触するのだ。


>> 3. 「棋譜の利用」とは
商業的利用であるかどうかを問わず、棋譜を使って、公式戦対局の指し手順を、文字情報、図面(静止画または動画)、音声、盤面、ディスプレイ、集団演技等によって、刊行物、頒布物、放送、公衆送信、上映、上演等の媒体上に再現することをいいます。 主催者の許諾を得た放送配信事業者(囲碁将棋チャンネル)の中継する対局の映像をもとに自ら棋譜を作成することも「棋譜の利用」にあたります。

 上記の「棋譜の利用」とは、という項目を見てもらいたい。
 「音声」としっかり書かれているのが分かるだろうか?

 つまり、棋譜の符号を読み上げるだけで、棋譜利用にあたると明記されているのだ。

 いくら評価値実況だと言っても、手数だけを示して符号を示さず評価値を配信するわけがない。
 最低限、符号を読み上げる行為はするのだから、間違いなく王将戦の棋譜利用ガイドラインに抵触している。


「こんな音声にまで制限をかけるなんて、王将戦の嫌がらせだろう?」
こういう声も聞こえてきそうだが、それは言いがかりというもの。

 何故なら、その昔、NHK杯将棋トーナメントは、ラジオ放送だったからだ。
 音声で符号を読み上げて棋譜利用していた実績がちゃんとあるのだ。

 それを踏まえてガイドラインを作成したとしたら、「音声」を棋譜利用に認定するのは当然のことであろう。


「いやいや、そうじゃないよ。棋譜にはそもそも著作権がない。だから、棋譜の利用だけならいつしても違法じゃないよ。王将戦側のガイドラインが法を無視しているんだよ」
こんな反論をする人もいるかもしれない。

 仰る通り、将棋の棋譜に著作権が生じるかどうかは非常に微妙だ。
 これは長年論争になっており、個人的には著作権があるとは言えないと思っている。

 しかし……。
 それでも評価値実況をリアルタイムで配信することは違法であろう。

 これは棋譜の著作権ではなく、放映されているモノに対する著作権の侵害だからだ。

 放映されているモノに対する著作権……。
 つまり放映権を侵害しているので、やはり間違いなく違法だと言える。


「そんなことを言うなら、定跡を踏まえた全く関係ない棋譜を対局中に動画配信して王将戦の対局と偶然同一手順になったら、全部違法になっちゃうでしょ」
と、こんな屁理屈をこねる人もいるだろうが、そんなのは通る訳が無い(笑)。

 評価値実況のサムネには、しっかり棋戦名と対局者名、対局日などが記されているので、偶然同一手順になったとは言えないのだ。
 そもそも評価値実況はライブ配信なのだから、偶然を主張するのは図々しいにもほどがある。


 私が何故こんなことを書いているかというと、評価値実況を観る人達が対局者であるプロ棋士や主催者である日本将棋連盟、スポンサー企業を苦しめているからだ。

 評価値実況を観る人達は、対局者のファンや将棋ファンであろう。
 その好意を持って観ている人達が権利を侵害しているというのは、非常に憂うべき状態だと思わないだろうか?
 違法行為に加担しているのと同じなのだから……。


 この問題は、一部の権利を侵害しているユーチューバーが悪いのは言うまでもない。

 ただ、個人的には日本将棋連盟にも、もう少し細かく動いてもらいたいようにも思う。

 例えば、棋譜の利用許諾が出ている場合には、QRコード(対局日や棋戦名、対局者を埋め込んでおくため)と利用許諾キャラクターを許諾を受けた人に配布して、配信内の何処かにそれらを貼り付けてもらい、視聴者にも利用許諾の有無が分かるようにするとか……。

 これなら簡単にお金と手間をほとんどかけずに出来るし、視聴者だってわざわざ違法なサイトを観たい訳ではないので、自然と利用許諾の証明がある配信を観るようになるのではないだろうか?


「そんなことをやったって無駄だよ。QRコードやキャラクターなんていくらでも偽造出来ちゃうからね」
こんな無法なことをやる輩もたしかに出て来るかもしれない。

 しかし、これは私文書偽造や詐欺にあたる行為なので、刑法の範疇に入る。
 民事だと、訴えて、裁判を起こして……、と、とかく手間もお金も掛かるが、刑事なら告発が受理されれば警察があとは捜査してくれるし、起訴は検察がしてくれるので日本将棋連盟は全くの手間いらずだ。
 偽造かどうかは許諾を得ているかどうかだけのことなのだから、違反者を見つけ次第ドンドン告発すれば良いだけだったりする。


 観る将で将棋を大いに楽しんでもらいたいと、心から思う。
 それだけに、権利を侵害している無法者は絶対に許せない。

 と、YouTubeのトップページのおススメ動画に鎮座する評価値実況と称するサムネを見ながら、独り思ったりしている。

 まあ、権利者ではない私がとやかく言うようなことではない、って気もしないではないが……(笑)。

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