観る将30年のつぶやき「マスク不着用で反則負け?」

 ご存知の通り、10月28日に行われたA級順位戦、永瀬王座ー佐藤天彦九段戦で、反則負けの裁定があった。
 裁定理由は、マスクの不着用……。

 臨時規定で、対局時のマスク着用が義務化されており、その規定によって、連盟会長佐藤康光九段と常務理事鈴木大介八段が協議した結果、反則負けが宣せられた。


 と、まあ、事実関係はもう報道されつくされているので、これ以上の説明は省く。

 マスク不着用の事実を佐藤天彦九段も認めているし、事実関係は間違いないので、この件はマスク着用の是非が問題ではないのだ。

 問題は、臨時規定の運用の是非だろう。

 なので、今回は臨時規定の運用に絞って、私見を述べたいと思う。


 まず、対局当事者の永瀬王座が、反則かどうかを問い合わせた件だが、これは当然のことと思われる。

 対局規定にある以上、反則の可能性のある行為を看過すべきでなく、当事者としてこれを問い合わせたことには何の問題もないどころか、適正としか言いようがない。

 よって、規定の運用という観点に於いて、永瀬王座のとった行動は正しいと断言できる。


 次に、問い合わされた側の連盟の対応だが、個人的には、これも適正であったと思われる。

 理由は二点。

 一点目は、臨時規定には反則負けの裁定が下ることが明記されているから。
 二点目は、臨時規定は棋士会で承認されており、周知の徹底もされていたから。

 つまり、臨時規定の中身はともかく、この規定はちゃんと手順を追って成立しているのだ。

 だから、連盟側が臨時規定の内容に沿って裁定したことにも問題はないのではないだろうか?

 と、言うか、勝手に規定に無い運用の仕方をしてしまうことの方が問題であろう。

「不着用の当事者に、一回注意をしてから……」
という論を述べる人もいるが、この事案が発生した当時にその対応が規定されていないのだから、臨時規定の運用当事者である連盟がこれを勝手にやることは出来ないと思う。

 よって、連盟の臨時規定の運用も適正だと、私は思うのだ。


 本日、11月1日に、佐藤天彦九段がTwitter上で、不服申立書を連盟側に通知したことを明らかにした。

 詳しいことを知りたい人は、佐藤天彦九段のTwitterをご覧になってもらいたいが、この不服申立書の主旨は、四点だ。

 ①反則負け判定の取り消し
 ②対局のやり直し
 ③臨時対局規定の適用基準の明確化、規定の趣旨に反するルールの修正
 ④臨時対局規定の改廃時期、条件の明確化

である。

 規定の運用という点で、この不服申立書が適正かどうかだが……。

 私は、これも適正だと思う。
 規定の運用という点で明らかに正しいだろう。

 理由は、臨時規定に不服申立が規定されているから。
 裁定内容に納得がいかない場合の規定が存在し、それを実際に適用しただけなのだ。

 つまり、佐藤天彦九段も臨時規定通りにことを進めているだけなので、反論すること自体何の問題も無いのだ。


 日本将棋連盟の関係したトラブルと言えば、中原十六世名人と林葉直子女流の不倫問題や、LPSAの独立問題、石橋女流の対局拒否問題、三浦九段のソフトカンニング冤罪事件など、過去にも色々とあった。

 だが、その多くは連盟の片手落ちとも思われる裁定によって、ことが進められたような気がしている。

 その点、今回の件は、何れの立場の人も規定を正しく運用し恣意的な判断がなされてはいない。
 個人的には、これは非常に好ましいことで、民主的な組織運営なのではないかと思っている。


 佐藤天彦九段の申立書にどう連盟が回答するかは定かでないが、ここまでの経緯を見た限りでは、無碍に扱うようなことはない気がしている。

 落としどころとしては、順位戦を運営する朝日新聞、毎日新聞、日本将棋連盟で協議の上で、何らかの結論を出す感じだろうか。


 人が多く集まるところにルールは必須だ。
 しかし、そのルール自体が必ず正しいとは誰にも言い切れない。

 だとしたら、そのルール自体の見直しも含め、関係者がしっかり議論することが大事なのではないだろうか?


 トラブルが起こってしまったことを嘆くのではなく、トラブルからいかに学ぶかだと思う。

 そういう点で、今回は将棋界にとって非常に良いケーススタディになるのではないかと、個人的には考えている。

 連盟が最終的にどんな答えを出すか……。
 興味を持って見守りたいと思う。

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