観る将歴30年のつぶやき「サッカーW杯を観る将的に考察する」
いよいよ今晩サッカーW杯決勝が行われる。
普段は将棋ファンの人でも、開催期間中は夜中に起きて観戦していた人も多いのではないだろうか?
かく言う私もその口で、日本代表の試合はもとより、他国の好カードなんかも結構観ていた。
正直、私は将棋の観戦歴よりサッカーの観戦歴の方が長い(キャプテン翼世代なので、同級生にはサッカーのクラブチームに入っていた人も多かったため)。
とは言っても、サッカーは完全に観る専門なので、技術的な部分がどうとかってことを将棋以上に説明できる訳ではないが……。
ただ……。
高校時代に、三年間私の隣の席で寝ていたH君は、後にJリーガーになったし、そのH君とはよくサッカーの話をしたので、観戦のポイントを外さない自信はある。
そこで、W杯で起こった事象を将棋に例えながら考察してみたいと思う。
まず、カタール大会を語る上で一番のサプライズと言えば、日本代表の躍進であろう。
世界的な強豪国であるドイツとスペインに勝ってグループリーグを突破し、世界で戦うだけのチームになっていることを印象付けたことを書かずに今大会は語れないだろう。
しかし……。
その日本代表の躍進に疑問の声もチラホラあったりする。
「たしかにドイツとスペインには勝った。だけど、これは引いて守ったいつもと違うスタイルがたまたまハマっただけで、本当の意味での実力がついたとは言えないのではないか?」
「実際、グループ敗退のコスタリカに負けてるでしょ。ドイツとスペインはしっかり勝ったのに……。だから、日本が強くなったと喜んでるのはにわかファンだけなんだよ」
などなど……。
まあ、言いたいことは分かるし、結果からして全く的を外した論だとも思わない。
しかし、この日本代表の結果は、将棋的に考えてみるとそんなに不可解ではない。
それに、実力がついていないと言う論が正しいとも思えないのだ。
今回の日本代表は、三間飛車で戦っていた。
これが、私の見解だ。
「何だそれっ?(笑)」
と思う人もいるだろうが、まあ、聞いてください。
普段の日本代表は、バランスの良い手厚いサッカーだ。
中盤を支配し、優位なボール回しから点を入れるのが理想と言える。
……で、これを将棋の戦法に例えると、
「相矢倉が得意な居飛車党」
って感じで語ることができると思う。
つまり、正統派を標榜している訳だ。
王道のスタイルと言って良い。
その相矢倉が得意な正統派居飛車党の日本が、何故、三間飛車を指したか……。
これには二つの訳があると思っている。
理由の一つ目は、ヨーロッパの強豪国は相居飛車戦に長けているからだ。
高いポジションでボールをキープし、パス回しで相手を圧倒する居飛車党の本筋のサッカーは、ヨーロッパスタイルと言って過言ではない。
地区予選も相居飛車戦で勝ち抜いてきたのだから、ドイツもスペインも相居飛車戦は得意中の得意。
一方、日本はと言えば、アジア地区予選では引いて守る相手とばかりやってきているので、どちらかと言えば経験豊富なのは同じ居飛車でも対振り飛車戦だ。
相居飛車戦が下手だとは言わないが、世界の強国と戦うにはいささか心もとない。
だったら、対振り飛車の経験が活きる振り飛車採用の方が勝つチャンスが増えるのではないか。
ドイツもスペインも対振り飛車はそんなに指してはいないだろうし……。
ということで、三間飛車採用に白羽の矢が立ったのだと思う。
もう一つの理由は、交代枠が増えたからだろう。
交代枠が増えたことにより、採りうる戦略のバリエーションが増えたので、途中から攻撃的な選手を入れ、モードチェンジをする構想が成り立ったのだと思う。
これを将棋に当てはめてみる。
今までは三間飛車というと、囲いは美濃囲いか穴熊しかなかった。
しかし、この二つの囲いは居飛車に穴熊にされると分が悪く、三間飛車党が激減する原因になった。
だが、最近、三間飛車が復活しつつある。
それは、トマホークや振り飛車ミレニアムのような従来にはない囲いで戦う構想が有効だと認識されたからだ。
つまり、戦い方のバリエーションを増やせば、三間飛車が居飛車穴熊を攻略することも可能……。
このことに気が付いた森保監督は、交代枠五人なら引いて守る戦略は立派に通用すると思ったのだと思う。
実際、今大会は引いて守るチームが度々番狂わせを起こしたし、モロッコやクロアチアがベスト4に進出したのはそのせいだと言ったら言い過ぎだろうか?
日本代表が採用した戦法は、三間飛車ミレニアム。
今までにはない戦略が強国=居飛車穴熊を打ち破る原動力となったのだと、個人的には思っている。
「じゃあ、何で日本はコスタリカに負けたんだよ?」
この疑問の答えは単純明快だ。
それは、
「相振り飛車になったから」
だと思う。
コスタリカは同じ振り飛車党でも、振り穴党だと思っている。
しかも、相振りでも穴熊にするタイプだ。
だから、日本は堅く囲ったコスタリカの穴熊に、局面を優位に進めながらも決定打を奪えなかった。
そもそもが振り飛車党ではないので、相振りの穴熊対策はあまりうまくなかったのも一因だ。
いつもは引いて守るチームには居飛車で指すのだから……。
……で、そうこうしている内に穴熊の堅さを活かした一撃が急所に入ってしまった。
だから負けたのであろう。
一方……。
ドイツやスペインは、コスタリカを相手に、いつも通り居飛車穴熊で対峙した。
相穴熊は居飛車有利が定説。
そして、定説の通りコスタリカは両国に完敗を喫することとなった。
と、まあ、こんなことを考えながら、私は日本代表の試合を観ていた。
だから、コスタリカに日本が負けたのもそんなに意外だとは思っていなかったし、ドイツはともかく、スペインに勝ったのも意外ではなかった。
スペインはほぼグループリーグ突破が決まっていたから、日本が三間飛車ミレニアムを採用したからと言って、新たな戦略を打ち出す必要を感じていなかったのだと思う。
なので、ドイツと似たような破れ方をした。
まあ、
「終わった後なら何とでも言えるよ」
という批判はされそうだが……(笑)。
終わったことをいくら論じても意味が無いとも思うので、最後に決勝の勝敗を観る将的に占ってみたい。
決勝はフランス対アルゼンチン。
どちらも絶対的なエースを擁し、攻撃力には定評がある。
その攻撃力を背景に、攻め合いでもガッチリと組み合う展開でも、どちらもOK。
将棋的に言えば、両者とも居飛車党。
フランスは角換わりが得意で、アルゼンチンは相がかりが得意って感じ。
なので、フランスの方がややバランス型に近く、アルゼンチンがより攻撃型に近い印象だ。
戦力的には、フランスが優っていると思う。
ただ、その差は銀桂交換をしたくらいの差で、展開次第では桂の方が活きる展開もあり得る。
と、こんな感じで決勝の両国を看ている。
そこから導き出される結論は……。
「二点以下のロースコア決着なら、フランス勝ち」
「三点以上の点を取り合う展開なら、アルゼンチン勝ち」
と予想しておく。
点の取り合いは、まさに攻め合いの展開。
アルゼンチンの桂が優る可能性も多々あると思うのだが……?
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