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名もなき素朴な奇襲戦法(後編)

再掲5図

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 前話では、5図から77角と83飛を調べました。

 どちらも先手が悪いとまでは言えませんが、後手が互角以上に戦える変化も多く、総じて後手ペースのように私は感じています。

 そもそも、5図は後手が望みさせすれば、かなりの確率で先手はそう応じざるを得なかったりします。
 だとすると、しっかり5図を潰さないと先手は横歩取りや相がかりの定跡形にもたどり着けないと言うことになりますので、序盤戦略上も避けては通れない変化と言えます。


5図からの指し手③
82歩(12図)

12図

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 第三の手段は82歩です。

 この歩は取れません。
 取ると、85飛の両取りを食らい、83飛と馬と桂の両取りを食らうより後手が損をしますので。

 82同銀以下、85飛 22馬 同竜 同銀 82飛成(先手大満足図)は、銀を取りながら飛車が成れた上に銀取りの先手で先手勝勢です。

先手満足図

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12図からの指し手
22馬(13図)

13図

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  12図では32銀(これもあるが……図)と竜を追い払う手も考えられます。

これもあるが……図

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 32銀には28竜と馬取りに引きます。
 馬を取られては終了なので89馬くらいですが、ここで81歩成が大きな一手です(先手、優位を拡げる図)。

先手、優位を拡げる図

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 桂を取ってさらに銀取り。
 後手の右翼を攻めるには、飛車で81の桂を取るより歩で桂を取る方が厳しいんですね。

 先手、優位を拡げる図から、62銀と逃げるのは24桂と壁の反対側から攻めるのが良く、99馬と香を取られるのは71と~83桂と駒得しながら攻めて、何れも先手が優勢になります。

 なので、ここでは27歩と竜の利きを逸らして後手は頑張ろうとしますが、竜取りを放置して71とが好手。
 28歩成は61とから王手馬取りの筋があるので先手が優勢になりますし、71同金と利かされるのは58竜(金持ち喧嘩せ図)と手堅く受けられ、駒得が大きいので先手が優勢となります。

金持ち喧嘩せ図

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 金持ち喧嘩せ図では、72銀から王手馬取りを狙う手段もありますし、99馬のような手には83桂から素朴に攻めれば分かりやすく先手が優勢から勝勢になります。


13図からの指し手
22同竜 同銀 81歩成 88飛(14図)

14図

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 13図の22馬は、14図で88飛や79飛と打つための飛車を捕獲しに行った手です。
 後手はゆっくりしていると81のと金に働かれ駒損が響いてきますので、早い手段で対抗してきます。

 先手は逆に、駒得が拡大する展開が見えていますので、局面を落ち着けながら駒得の拡大を図りたいところです。

 14図で79飛もあります(すぐに王手をした図)

すぐに王手をした図

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 これには48玉と上がり、以下、89飛成 71と 同金 24角と進めます(先手巧妙な戦略図)

先手巧妙な戦略図

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 この24角の王手はどういう意味かと言うと、
「もし合駒を使ってくれるのなら、後手の攻めの戦力が減りますので、じっくり指します。ですが、52玉や62玉のように持ち駒を使わない受けをするのなら、先手はサクッと寄せに入りますよ」
ってことです。

 つまり、24角は、後手の受け方次第でこれからの戦略を変える高等技術なんですね。

 24角に33銀打と受けるのは、受け駒を使ってくれたことに満足して46角と引いておきます。
 以下、28歩 同銀 27歩 同銀 35桂 38銀 28歩 73角成 42玉 45桂 29歩成 33桂成 同銀 21飛(ここまで進めば先手勝勢図)となり、51角以下の詰めろで先手勝勢です。

ここまで進めば先手勝勢図

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 手順中、28歩から後手は手筋を駆使して攻めてきますが、攻め駒が少ないので迫力のある攻めになっていない点にご注目下さい。
 これが24角と王手をし、33銀打と使わせた効果となっています。

 24角に52玉は、32銀が鋭い一手です(薄い受けは不可図)。

薄い受けは不可図

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 32銀に同金は41角で後手が困ります。
 41同玉は51飛で詰みますし、62玉と逃げるのも52飛 61玉 51角成で詰み。
 なので、41角には61玉しかありませんが、63角成(これは技あり図)で後手玉は寄っていて先手勝勢となります。

これは技あり図

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 なので、32銀には42銀や33銀打と受けるしかないですが、42銀には44桂 同歩 41銀不成 同玉 43金で寄りですし(これも寄り図)、33銀打には41銀不成 同玉 33角成 同銀 21飛 31金 52銀 同玉 31飛成(これも先手勝ち図)と平凡に寄せてやはり先手勝勢です。

これも寄り図

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これも先手勝ち図

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 32銀以下の何れの変化も先手玉に迫っていない一瞬のスキをとらえているのが分かるでしょうか?

 戻って、24角に62玉もありますが、42銀(これも受けが薄い図)くらいで先手優勢です。

これも受けが薄い図

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再掲14図

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 79飛と打つのは先手の巧妙な対応に遭い、後手が敗勢となりました。
 ですので、今度は88飛と少し控えめに飛車を打つ手を検討します。

 88飛に71とは……。

 ここでピンときたあなたは鋭いです(笑)。
 と金が取られそうなので71とと銀を取るのは、69金 同玉 68銀 58玉 79銀不成 59玉 68飛成までの詰みとなります。

 つまり、88飛は詰めろになっているんですね。
 しかも、と金取りや桂取りになっていますので、一見すると先手がダメにしたように見えます。

 しかし、ここで絶妙な手順があり、先手が勝ちになります。


14図からの指し手
77角(15図)

15図

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 77角が絶妙の一手です。
 他の手では先手が悪くなります。

 と言ってもすぐには事態を飲み込めないでしょうから、詳しく解説します。

 77角は、見ての通り飛車と銀の両取りです。
 かつ、69金からの詰み筋を防いでいます。

 77角に81のと金を取る81飛成は、以下、88歩や86歩と局面を収めても先手が有利ですし、22角成と銀を取り、以下、89竜 69桂 78銀 58銀 35桂に21飛として(次の先手の攻めが厳しい図)、先手が優勢となります。

次の先手の攻めが厳しい図

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15図からの指し手
89飛成 69桂 78銀 71と 69飛成 48玉 71金 58銀(16図)

16図

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 81飛成は先手に手堅く指されても旨く行きませんでした。
 なので、後手は89飛成と王手をして迫ってきます。

 ここで69桂が落ち着いた一手です。
 一見すると78銀や78金からタダで取られて無駄のようですが、桂を取らせる間に71とを利かすのが巧妙な一手です。

 以下、78銀と打てば19図までは変化の無い手順ですが、最終手58銀が手堅い一手で、後手は先手に寄り付くことが出来ません。
 その上、もし竜を逃げると22の銀が取られますので、先手の優勢は明らかでしょう。

 78銀で78金もありますが、以下、22角成 69竜 48玉 45桂 71と 同金 58銀で、やはり先手が勝ちとなります。
 手順中、71とが詰めろなのが大きいですね(61と 同玉 72銀 同玉 84桂以下です)。


再掲12図

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 つまり、12図の82歩で、先手良しが結論なんですね、この奇襲戦法は。


 どうですか?
 自力で16図の結論までたどり着けたでしょうか?

 12図の一手前、88角成までは後手が望めばそう進みますので、先手は82歩以下をしっかり指せないと拙いのです。


 こういう奇襲戦法に初見で正着を指し続けることが出来る人も、中にはいます。
 元奨励会員とか、アマチュア強豪の人達ですね。

 しかし、たとえばウォーズなどの3切れや10秒将棋で、必ず正着を指し続ける自信のある人は、相当いないと思われます。

 将棋は知識だけで勝てるものではありませんが、知識がないと手痛い敗戦を食らうことも少なくありません。
 ですから、こういう何気ない局面に潜んだ変化を丁寧に知ることも上達の糧になると、私は思っています。

 そうそう……。

 ちなみに、私は10秒将棋で先手側を持ち、14図で77角を指せず二度ほど頓死した記憶があります(笑)。
 まあ、二度も食らうような間抜けは相当いないでしょうが……、ね。

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