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BTSのButterに大げさなメッセージがないわけがない。

リリースされてからこれを書いている6月7日現在まで一番聞いている曲がBTSの『Butter』。

熱心なファンとかではないが、良いものは良いのだ。個人的に『Dynamite』より好きで、更に楽曲面、リリック面の両者において発見が多く何度も聞いてしまう。


何度も聞いていて思う。『Butter』は自分が思う理想のポップミュージックだと。


自分の思う理想のポップミュージックとは、ただただキャッチーで大衆受けする音楽でマーケットへのインパクトを残すだけではなく、アンダーグラウンドで流行っている音楽をとり入れたり、現代社会をキャプチャーしている音楽のことだと思っている。

現代社会をキャプチャーということについてはそういう意図が無くとも、そういう意図があると読ませてしまう仕掛けを用意しているものもそれに該当する。

自分がBTSの『Butter』が理想のポップミュージックだと思った理由を書いていく。

BTSの新曲『Butter』は昨年リリースし大ヒットした『Dynamite』に続き全編英語詩の楽曲。そして今回も80年代リバイバルのディスコソング。

楽曲面、メロディ面について書くと、第一印象として『Dynamite』はチャキチャキとしたカッティングギターのサウンドが印象的なディスコソングだったが、『Butter』はベースラインが印象的なディスコソングである。

そのベースラインを聞いた瞬間に自分の頭に浮かんだ曲はヒップホップグループThe Sugarhill Gangの『Rapper's Delight』のベースラインである。

この曲も話題として挙がっていたがSNSで一番多く見かけられたのはTwitterの公式アカウントが反応し大きく話題になったQueenの『Another One Bite The Dust』のベースライン。

この2曲がSNS上ではリファレンス先だと話題に挙がっていたが、この2曲とも辿っていくと、Chicの『Good Times』のベースラインに辿りつく。

この曲は先の2曲にも影響を与えているとおり、ディスコ、ファンクソングのクラシック的な曲である。BTSもまたそのディスコクラシック曲をリファレンスにし『Butter』の楽曲は制作されたと考える。


『Butter』リリースにあたっての記者会見にてメンバーのRMはQueenの『Another One Bite The Dust』についてはサンプリングでもオマージュでもないと回答していますが、Chic、Queen、The Sugarhill Gangの3曲は間違いなくリファレンスになっていると考えられる。


そんな印象的なベースラインをもつ『Butter』は当然だが『Dynamite』に比べてローが効いている。

『Dynamite』ではバスドラム、ベースラインなどの低音の音色が少しぼやけていた印象だが、『Butter』のバスドラム、ベースラインはタイトになっており、こちらの音をしっかり聞いてほしいから『Dynamite』と違い歌始まりではないのだと思う。

ただイントロを長くする訳ではなくバスドラムのワンフレーズを聞かせすぐ歌に入るあたりサブスク対策も忘れていないところは流石としか言いようがない。


Verseはイントロからそのままバスドラムとベースで構成され、歌もベースをなぞるようなリズムで歌う。

そこからChorusではシンセの音も入ってきて曲に広がりを持たせ、そしてモノトーンのようなVerseと違いカラフルなChorusになる。

ラップ部分の後のChorus 前にいたっては2010年代一世風靡した形のEDMのドロップ前のようにビートを抜き野太い低音が鳴り、もうそこには彼らの目の前には大勢のオーディエンスが爆発的に盛り上がっている、そんな様子が見える。

『Butter』の楽曲構成は欧米のコロナパンデミックの出口が見え、大きい会場で大勢のオーディエンスを前にパフォーマンスしている状態も視野にいれた構成なのだろう。

リリック面について、BTSのメンバーは「大げさなメッセージではなく、少し恥ずかしいのですが、バターのようになめらかに溶け込んで君を虜にする、というかわいらしい告白ソングだと受け止めていただけたらと思います。」と言っており、所謂ライトなポップソングだと言い切っています。

ですが実際は多くの仕掛けが用意されており、ただのライトなポップソングではありません。


Verseで“Smooth like butter / Like a criminal undercover”とありMichael Jacksonの『Smooth Criminal』を

Pre-Chorusにある “when I look in the mirror”は『Man in the mirror』を、

Chorusにある “rock with me ”は『Rock with you』がリファレンスにあると思われる。

また、Verseに出てくる“Don't need no Usher / To remind me you got it bad”はBTSのメンバーにUsherのファンがいること、そしてUsherには案内人という意味があり、ここではおそらく「教える必要はない」ということだと思うが、ダブルミーニングで敢えて使用された単語だ。

そう確信するのはUsherに『U Got It Bad』という曲がありリリックの“you got it bad”がここからきていると思うからだ。

自分が気づいたこれら以外にもおそらくBTSが影響を受けたアーティストからの引用は多くあるはずで、それを探すのもこの曲の楽しみ方の一つだと思う。


そしてPre-Chorusにある“I got that superstar glow”は「僕はスーパースターのように輝くから」ということだと思うが、この曲のリリックで先にも書いたとおり、自分たちが影響を受けた数々のスーパースターを表敬訪問し、そして僕たちもその立ち位置に向かうよ、という強い宣言だ。

リリックのリファレンスにMichael Jacksonが多いことは偶然かもしれないが、彼は人種差別と戦い続けたポップスターだ。


BTSのメンバーがARMY向けの配信番組で「Butterってなんでこんなに黄色いのか?」「僕たち黄色人種じゃないですか Butter Let’s go」というような会話をしていたよう。そして3月にはアジア系の人々へのヘイトクライムに対して抗議声明を発表している。

SUGAのパートに“Smooth like (Butter), hate us (Love us) / Fresh boy pull up and we lay low /All the playas get movin' when the bass low / Got ARMY right behind us when we say so / Let's go”とある。


これは「バターのようになめらかに / 僕たちが嫌いでも好きでも (私たちを愛して) / ナイスガイが登場したら僕たちはじっとしている / ベースの音が響くと遊ぶ人々は体を動かす / 僕たちの後ろにはARMYがいる僕たちは言うんだ / Let's go」と言う意味合いで

このリリックを彼らの配信番組での発言、アジアンヘイトクライムへの抗議を考慮して考えると、

「黄色人種の僕らがスーパースターになって良い音楽を作り続ければ人種関係なく体に染み込み踊らせる。僕たちにはARMYが付いているからきっとできる。自信をもって行動を起こそう」と意訳できる。

先にも書いたが、この曲についてBTSが語った「大げさなメッセージではなく、少し恥ずかしいのですが、バターのようになめらかに溶け込んで君を虜にする、というかわいらしい告白ソングだと受け止めていただけたらと思います。」はこの曲を純粋に聞けばかわいらしい告白ソングとしても聞けるが、彼らの行動、発言を考えるとバターのように黄色人種の音楽がアメリカ人を虜にする、というかなり強いメッセージも含まれていると考えてしまう。

音楽で世界を変えることはできない、人種差別をなくすことはできない、そんなことはBTSのメンバーは当然分かっている。ただ音楽は人種関係なく楽しませることができるはず、そしてそれを続けることで人種という壁が徐々に溶けていくことのきっかけにはなるはずだ、という彼らのアティテュードが感じられる。

これらが『Butter』が自分の思う理想のポップミュージックだと思う理由である。


おまけで『Butter』のパフォーマンスがかっこよすぎたのでシェアしておきます。よかったらこちらもぜひ。


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