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人間の中に生まれたエルフが仲間に出逢うまで

自分の左耳には軟骨の小さな突起があって、見ようによっては耳がとがって見える。どういうわけか自分のなかではそちらの方が当たり前で、なぜ右耳には突起がないんだろうと思っていた。人様の耳などしげしげと眺めたことがないんで、自分と他人を比べたことがなかったのである。他の人も同じであるようで、自分の耳が特殊であることに気づくような奴は、親以外にはなかった。

ところが、小学校高学年になって、誰かそれに気づいた奴がいた。それでついたあだ名が「悪魔くん」であった。そのときはじめて、自分の当たり前が世間の当たり前と真逆であることに気づいた。そして、くやしいというより不思議な気分になった。自分だけで常識だと思っていてはダメなんだなと、子どもながらに感じたわけである。

それが何十年もたってからの話である。米国の大学図書館の込み合ったエレベーターで、自分の後ろに立っていた女の子から声をかけられた。

「あなたもエルフ耳ね」

見せてもらったら彼女の耳もとがってる。そういう人はたくさんいるらしくて、ちゃんと名前までついてる。自分一人が特別だと思っていたのが、仲間がおったのである。正しいとばかり思ってた世間の当たり前が今度は正しくないことが明らかになって、妙な心持ちがした。

何でもない話だけど、自分の常識も世間の常識も当たり前だと過信してはならんな、という戒めにはなったわけである。

コーヒー一杯ごちそうしてくれれば、生きていく糧になりそうな話をしてくれる。そういう人間にわたしはなりたい。とくにコーヒー飲みたくなったときには。