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良いもの、良い暮らし。実直に、不器用に、本当に根付いていく文化を継承する-くるみの木代表/石村由起子さんインタビュー-

「手刻みの未来を考える」シリーズ。今回は、くるみの木代表/石村由起子さんにお話を伺いました。石村由起子さんは、1983年、奈良でカフェ「くるみの木」を開業され、全国にファンがいらっしゃる現在は奈良を拠点に、各地で商品の企画や町づくりにも関わるなど幅広く活躍、多くのファンを集めていらっしゃいます。

手刻み同好会会員の有限会社羽根建築工房が、くるみの木内のギャラリースペース、そして、奈良の高畑にある石村さんのご自宅を、建築家中村好文氏の設計の元、手刻みで建てたご縁から、今回の取材が実現しました。良いもの、良い暮らしを根付かせ、未来へ継承していく活動をされている石村さんに、ご自身の活動で大切にされていることを伺い、手刻み同好会の活動へのメッセージをいただきました。

ーお忙しく飛び回っていらっしゃる中、お時間作っていただいてありがとうございます。

いえいえ、お声がけありがとうございます。私は建築の専門的なことはわからないけれど、活動についてお聞きしてすぐ、これは大切なことだと思いましたし、すごく共感するなと思って。

-石村さんご自身は、地域、暮らしのデザインをするプロデューサーとしていろんな場所を走り回っていらっしゃいますよね。

今、滋賀県長浜市にある商店街の一角に、12月にオープンする「湖(うみ)のスコーレ」という場所を作っています。長浜を含む湖北地方は「発酵」という食文化が人々の暮らしの中に息付いている地域なので、チーズや、どぶろくなどの醸造ラボを作ったり、「発酵」を軸にいろんな仕組みを考えています。これからの時代を作っていくような若い仲間達と一緒に奮闘しています。

▼湖(うみ)のスコーレウェブサイト
https://umi-no-schole.jp/

地域おこしの取り組み自体はどこでもやっているけど、短期間のプロジェクトで終わってしまうことが多いように思います。でも、本当に地域のことを考えるなら、終わらせてはいけない。私自身、丁寧にひとつひとつそういう本物を根付かせていくプロジェクトをやっていきたいし、自分も店をやってきたから、続けないといけない、辞めてはいけないこともわかります。時代の中で売れなくなっていったとしても、やめずに、時代を読んで変わり続けていくことが必要です。

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くるみの木の中のギャラリースペース(有限会社羽根建築工房による手刻み)

ー石村さんのご自宅は手刻みですよね。手刻み建築の住まい手として、建てるプロセスやお住まいになってみてお感じになったことはありますか?

中村好文さんが設計してくださったんですが、好文さんがとにかく、「羽根さんは良い家を建てるからね」とおっしゃっていて。大工さんも腕のある方が多いんだっていう印象がありましたし、建てている途中に現場に行ったら、色々と教えてくれるんです。どうしてそういうふうにするのかとか。いつも棟梁がいらっしゃってて、尊敬しかなかったですね。

梁の生かし方はとても気に入っています。好文さんのパッチワークのように古いものを残していくアイデアや、大工さんの「始末」が素晴らしいなと思って。素材もちゃんとしたものを使ってくださって、悪いものが一切ないんです。これって羽根さんの仕事なんだろうなと思いました。うちに来た人もいい家だねぇって皆さん言ってくださるんですよ。1年住んでみて、不具合なんて一度もないし、キッチンも木にしたのでシミなんかはできるけど、生活する場所ですからね。生活の傷というのも、素敵なこととして楽しんでいますね。


ー手刻み同好会も「古い技術の継承」という課題に向き合っているのですが、石村さんご自身の活動、ものづくりの分野におけるそう言った課題についてどのようにお考えですか?

私たちは、籠などの生活の雑貨を扱いますが、担い手の課題はもちろんあります。だいぶ前から、後継者がいないというお話をよく聞きます。とても残念なことですよね。

いわゆる伝統工芸といわれる手仕事の世界で、技術が継承されていく一コマを垣間見させていただいたことがあります。輪島塗の職人さんの「年季明け式」というものに伺った時は、酒樽からお酒を回し飲みしたりして、伝統的な儀礼のようなのがあってね。良い文化だなと思いました。卒業した後しばらくは、親方から半分くらい仕事をまわしてあげて、後半分は自分で稼ぐ。ちゃんと自立していけるように面倒を見るんですね。半分は己で頑張れ、っていうこと。親方にも独り立ちしたというのを伝えたくて頑張ると思うし。それはすごいシステムだなと思って。そういう文化と教育がある、その道筋が羨ましいなと思いました。でも、そういうことって、しんどいだけで、お金にならないじゃこの先続かないと思うんです。もっと伝統技術が継承しやすいような支援や仕組みがないといけないと思います。

日本の職人さんの世界には、技術の継承だけでなく、その世界での生き方を学んでいくというものづくりのサイクルがあるんです。お世話になった方を大事にするとか、そういう全てのことをで学んでるんだなと思うと、私は何を渡せるかな?と思いました。私の場合、暮らしそのものが仕事でもあり、仕事が暮らしでもあるので、公私を切り離せない部分も多くて難しいのですが…。

暮らしって、一過性のブームや綺麗に飾ることではありません。暮らしは人生だと思っています。心豊かな人生を手に入れるためには、仕事も一生懸命やらないといけない。ずるいことは、しちゃいけないんです。「まっとうに」って、実は不器用なことなのかもしれません。真似してちゃちゃと済ませるのではなくて、地味なことを毎日毎日、コツコツ積み上げて、意義のある人生を自分で見つけていく行為なんですから。ある意味、手刻みともいえるかもしれませんね。

羽根さんがやっていこうとしていることも、きっとそういう技術の継承なのだろうなと思うんです。だから共感するし、頑張って欲しいと思います。

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