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相居飛車と相振り飛車の違いについての少し

 こういうX(旧ツイッター)の投稿を見て、ふと思うところがあったのでぱぱっと書いてこの記事を投稿する。メモ程度。

 なお、挿入する局面図は、説明のために都合のいい局面を採用しているが、そこは注意されたい。


◯相似点

 相居飛車と相振り飛車は、共に縦の将棋だとされる。そのため、指す時の感覚が近い、とも。
 比較のために、まず対抗形の様子を見る。対抗形は、横の戦いとされる。

飛先を突破してから玉に向かって寄せる。横の戦いと呼ばれる。

 対抗形、特に急戦は従来、横の戦いと言われることが多い。飛車先を突破して成り込み、あるいは捌いて打ち込み、横からお互いの陣形を攻略する流れからこのように呼ばれている。
 このとき、振り飛車は美濃囲いが固く、また居飛車よりも玉が一路遠いことが強みとされる。横から迫った場合、一手勝っているという主張だ。
 もっとも、最近では穴熊を筆頭に、居飛車側が振り飛車の美濃囲いよりも固く遠い囲いを採用することが主流になり、端攻めなど、縦の戦いを意識することも増えたと思う。

 一方、縦の戦いとされる相居飛車の戦い、ここでは角換わりでありそうな先後同型を見てみる。

局面は一例。実践では様々な駆け引きのためにこの形にはならないかもしれない。

 相居飛車の場合、中盤から終盤にかけて敵陣を突破すると、それが直接玉を攻撃することになる。横の戦い、つまり飛を持ち駒にして8一地点や2九地点に打ち込み、迫る流れになることがないわけではないが、基本はやはり、そのまま縦で攻めてそのまま勝つことを目指す。
 例外としての一つが、右玉である。図は略すが、これも飛先を突破すればそれが玉への攻撃になる、という流れからは外れている。

 次に、相振り飛車の最序盤を見てみる。

一般的にこのあと、美濃や金無双に囲い、玉はお互い自陣の右側へ行く事が多い。

 囲いが完成していないが、基本的には美濃囲いや金無双、矢倉などが採用されることが多く、玉は基本的に、自陣の右側に持っていくことが多い。それは即ち、相手の飛が縦で攻めようとしているところに近づくように囲うということでもある。

 ここまで3つの局面を見てきたが、相居飛車と相振り飛車は、なるほど、飛先を突破することがそのまま相手玉への攻撃であることがわかると思う。
 この敵玉への攻撃のあり方が、対抗形の横に迫っていく段階を経ないために、感覚が近いと呼ばれている、のだと思う。赤い矢印だけを見れば、左右反転したようにも見える。
 では相居飛車を得意とするひとが、相手が振り飛車を採用したからと自分も振り飛車を指して相振り飛車にすれば同じように戦えるか、というと、わたしには疑問である。
 相居飛車と相振り飛車は、似て非なるものという印象がわたしにはあるからだ。以下でそれを見ていく。

◯相違点

 相違点は、わたしは大きく2つあると考えている。飛の位置と、角の位置あるいは処理がそれだ。この記事の本題でもある。
 飛と角は両方とも、攻撃の主力となる駒である。なので、これらが自陣のどこに配置されているかで、できる攻撃方法が変わってくる。そのため、相振り飛車は相居飛車を単純に左右反転したもの、とはならない。流用できる攻め方もあるが、基本的には違う手順、違う陣形、違う攻め方になるはずなのだ。

◯飛車の位置が違う

 相居飛車であれば、飛車の位置は、基本的に初期位置である。最近は▲4八金▲2九飛型が主流になっているが、縦に使う場合は要するに2筋なので大差ないものとする。
 袖飛車や右四間も居飛車に含まれる。それらは独特の展開になるが、「その筋に飛を動かしたことじたい」が戦法名になっているところからも、主流な戦法ではないという認識で問題ないと思う。

 そこへいくと、相振り飛車は、その袖飛車に当たる三間飛車が主流戦法の地位にある。右四間に相当する四間飛車はマイナーで、若干不利に見られる。また、向かい飛車は強力ではあるが、角をどかさないとその位置にいけず、その角移動をどうするかという課題が常にある。

・三間飛車

 相振り飛車における三間飛車は、おそらく最有力候補だろう。初形から、▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩なら、△3二飛で後手の評価が初形よりも高くなる(厳密には3手目の▲6六歩が評価値を落とす手のようで、△3二飛は、その評価値を比較的保つ手の一つ、というところか?)
 一方的に角道を開けたまま三間にできればその時点で作戦勝ちくらいのイメージがある。三間飛車は、というよりも、角道を開けたまま振れることは、強力である。

3手目▲6六歩と止めると、後手は△3二飛から素直に歩を伸ばす。次の△3六歩で、後手は一枚歩を持てる。後手の速さに比べると先手は遅い印象。

 三間飛車の利点に、角道を開けた一手(▲7六歩と△3四歩)が、そのまま飛先を伸ばすための一手を兼ねている点がある。この一手分が早いために、先手は7筋、後手は3筋で一歩を持つのが比較的容易である。
 縦の戦いの将棋は、攻撃陣の歩が一方的に切れている(意図的に切っている)ことが多く、歩を使った手筋・攻め方が相手玉に、より直接的に響く。持ち歩の枚数は多い方が望ましい。
 その1枚目の歩を、相振り飛車の三間では手に入れやすい。三間飛車が主流なのには、おそらくこういう面もあると思う。

 その後のよくある展開として、相手の受け方次第にはなるが、そのまま3筋に集中攻撃をしたり、端を絡めたり、先手なら8筋、後手なら2筋を伸ばして向かい飛車に振り直すなどがよく見られる。

後手三間が3筋で歩交換をしたあとに、2筋を伸ばす。相振りではありそうな展開。他に、△3六歩と抑えたり△3三銀などと銀を出していく順も有力。

 (後手)三間飛車でこうやったら勝ちやすいよっていう参考動画を挙げておく。

・袖飛車(補足1)

 一方、居飛車でそれに相当する袖飛車はどうか。袖飛車は、主流戦法とは言い難く、相振り三間飛車のように強くは戦いにくいように思う。理由は様々に考えられるが、なにが正解かは不明なので明言は避ける。
 一つ、簡単な検証をしてみる。先手も後手も角を落とした将棋で、飛の位置がお互いどこにいると、ソフトは評価するのか、という検証だ。
 くじらちゃんについてきた、水匠5で検証している。最新のものでもないし、PCスペックの都合もあると思うが、詳しくないので申し訳ない。

初期配置図。評価値はブレるが、だいたい50点以上プラス。
角落ち図①。両者角落ち基本図。

 まずは単純に両者の角を落とした局面。多少ブレはするが、だいたい先手40点から60点くらいプラスになっている。

角落ち図②。基本局面から▲8八飛 △2二飛 の局面。

 次が、左右反転に等しい局面。候補手から▲2六歩に当たる▲8六歩が消えているが、だいたい同じような数値を取っている模様。点対称位置にあるなら、左右の違いはないと言って良い。

角落ち図③。②からさらに、▲3八飛 △8二飛 とした局面。

 そして次に、先手だけ袖飛車にした局面。
 10点から-30点くらいの間を揺れて、最終的には0点付近に落ち着いた。
 将棋は基本的に先手が若干得とされているが、三間飛車の位置は向かい飛車の位置よりも若干劣るらしいことがわかる

おまけの角落ち図④。最後に落としていた角を戻す。

 図④は再度角を戻したものだが、評価値はやはり初期配置よりも低いものになっている。袖飛車特有の、▲3六歩と△3四歩で歩交換しやすい手筋が袖飛車に有利に動くかと思いきや、むしろ▲3六歩には△3四歩を推奨されるくらいであった。

 かわいいくじらちゃんの皮を被った水匠にいくつか教えてもらったが、結局のところ

  1. 左右反転しても、評価値はあまり上下しない

  2. 飛が2筋と3筋では、2筋のほうが高く評価されている

  3. 2.には、角の在不在はあまり関係ない

 ということが言えそうだ。
 以上より、袖飛車は基本的に少し損な戦法と言えるし、可能なら、おそらく三間飛車よりも向かい飛車のほうが、微差だが、良いのだと思う。
 なら、相振りで三間に振るよりも向かい飛車に振るほうがいいのではないか、とは単純にならない。そのまま振るには、角が邪魔だからだ。

・向かい飛車

  上述した通り、向かい飛車は強力ではあるが、角が邪魔でスムーズには振ることができない。 

相振りの図再掲。先手は角をどかしてから向かい飛車に振っている。

 上に再掲したものは一例だが、向かい飛車は角をどかしてから振ることになる。三間飛車が即座に振れて飛先を伸ばせることに比べると、手数がかかるので、先手で採用したとしても序盤はやや受け気味になってしまう傾向がある。

 向かい飛車を採用するひとは一定数いる。攻撃陣を築くのに手数がかかり、序盤は先攻されやすいため、受けを苦にしないタイプだろうか、しかし攻めに転じたら一気に潰せることが多い。

 とはいえ、相振り飛車では先攻したほうが勝ちやすいのもまた事実で、三間飛車のほうがより有力に見られているように思う。

・飛の位置の違いまとめ

 相居飛車の主流戦法といえば、四大戦法にも見られるように、2、8筋に飛がいることが前提になっている。しかし、相振り飛車では、飛を振る一手だけなら向かい飛車も三間飛車もかわらず、角をどかす手間の差で、三間飛車のほうが先攻しやすく有利に進めやすい。

 相居飛車と相振り飛車は似て非なるもの、その違いはまず、飛の位置が違うことに見られる、と主張した。完全にとまではいかないものの、示せたのではないかと思う。

・右四間に相当する四間飛車(補足2)

 対振り飛車における右四間は、高段者同士では無理攻め気味とされるが、それほどの棋力でもないひとたちにとっては凶悪極まりない戦法だと思う。わたし自身が苦手にしているのは秘密である。
 しかし、一方で相居飛車では、そもそもトリガーになる△4四歩や▲6六歩が、最近減少傾向である。

右四間が争点にしたい6五地点が争点にならないような駒組。

 相振り飛車における四間飛車は、やや不満と上述した。これは右四間飛車の事情と近い。争点を、先手番でいう6五地点に持っていきたいのだが、三間飛車で攻撃しようとするひとは美濃と相性がいいためそちらを採用することが多く、争点をその地点に求めにくい。

相振り四間飛車。美濃相手には争点を6五地点にできない。

 変化や流れで四間になることはあるだろうけど、はじめから狙って指すものではないと思う。ただし、あとで振り直すので途中下車という点では選択肢に入ると思う。

・中飛車(補足3)

 相振り飛車における中飛車は、対抗形の中飛車とは事情が若干違う。
 対抗形のときの中飛車は中央で模様を張り、やはり居飛車の飛(=攻撃陣)は、自玉の反対側にある。攻めが遠い。
 一方で相振り飛車の場合、三間にしろ向かいにしろ、自玉に直撃がくる。そのとき中央で模様を取っているはずの自分の攻撃陣は、敵玉に対して遠い。中飛車左穴熊もあるにはあるが、個人的には、それをするなら居飛車穴熊のほうが勝るような気がしている。
 四間飛車同様、途中下車は十分ありだと思う。

相振り飛車では、攻撃陣たる飛の、玉への近さで中飛車は対抗形よりは不満ではないだろうか。
ただし振り直すこと前提であれば、一回目にどこに振るかは大きな問題ではないといえばない。

◯角の位置、あるいは処理が違う

 相振り飛車では、角の位置、あるいは処理も、相居飛車と違ってくる。
 相居飛車では、初期位置で玉を囲おうとする方向を睨んでいる。先手番でいう、2二方向のことだ。自玉を囲う都合、あるいはそのままのラインでは使いにくい/別のラインで使いたいという都合で、(特に矢倉で)6八地点や4六地点に移動させることもある。4六地点はともかく、初期位置や6八地点で使う場合は、相手の本陣を狙う形である。

画像は一例。古い相矢倉の組み方なので、最近はあまり見られないと思う。先手の角は2四地点を睨んでいる。後手の角は8六も睨んでいるが、6四に出て先手攻撃陣を牽制を狙うことが多い。

 一方で、相振り飛車の角は相手玉ではなく、攻撃陣を睨んでいる。

相振り飛車では玉を右に囲うことが多い。角は攻撃陣を睨んでいる。

 上の、◯飛の位置が違う の項目で、特に向かい飛車では三間飛車と違い、角をどかす必要があると述べた。攻撃位置につくために、角が邪魔、という事情は、相居飛車ではまずない悩みだ。
 他方、三間飛車では気にせずに飛を振れるが、角交換をしたあとに不安定になりやすい。交換後の方針を決めていないと、交換はしにくい面がある。

 ではこの角をどう処理していくか。それを以下見ていく。

・▲9七角 △1三角

 相振り飛車では、端に角が覗くのが一つの形である。
 三間飛車で素直に進める場合、浮き飛に構えることが多い。さらに陣形整備を進めると、7七(3三)地点には桂を据えることになる。

石田流の形は、対抗形でも相振り飛車でも理想形の一つ。

 その場合、桂をどかさないと角が使いにくいが、それを解決する位置取りが、端角になる。
 この9七角というのが、相振り飛車では設置しやすい。
 相振り飛車での相手玉は自陣の右に囲うことが多く、後手から△9四歩~△9五歩という圧迫をしにくい。たとえしたとしても、浮き飛がカバーしている。

 これが相居飛車だと、限定的にしか安定しない。

後手の5三地点が隙だらけだぞ! 端角だ! とはならない相居飛車。

 図は後手が棒銀を仕掛けようとしているところ。端は角がいなくても攻撃目標になることがある。角の可動範囲を上げるためであっても、端に出ることはあまりない(全くないわけではない)。この場合、左の銀をどかしたり、▲5六歩~▲7九角のような使い方が一般的である。

2つ上の図を再掲。

 端角は、▲6五桂と連動して5三地点を狙う、5筋の歩を突き捨てるなどしてこじ開け、▲3一角成りとする、などが狙いになる。手数や歩の枚数が許せば、6筋を攻めていき、▲6四歩で敵陣を崩しにいく順などもある。

 ▲9七角や△1三角が安定し、敵陣への攻撃に参加できる。陣形整備の都合で跳ねた桂もそのまま攻撃に参加しやすい。この端角を利用しやすい、というのが角の処理の違い、まず一点めだ。

・▲7七角 △3三角

 向かい飛車の項目で触れた角の位置である。明確に目的があっての位置というよりは、向かい飛車にするために一時的な位置であることが多い。

相振りの図再々掲。飛を振るために角にどいてもらったが、ここが好位置かは微妙。

 7七地点にいても敵陣への影響は小さく、タイミングを見て▲6五歩と再度角道を通したり、相手の囲いが矢倉などに盛り上がってきたら▲8六角と出て6四地点を睨んだりの、いわば中継点のような位置である。
 三間飛車から浮き飛にして▲7七角と上がることにより、相手から角交換をしてきたときに、手順に▲同桂と取り返して好形を維持する場合にも選ばれる。もとの位置のままでは、銀を動かすなどで紐がなくなるからだ。

両者角交換に備えて△3三角に▲7七角と上がってからの△4五歩。

 なお上図では、攻撃陣の形は似ているが、自玉の囲いの差で後手が若干有利であり、それ故に交換を迫った局面である。

 一つ、▲7七角から発生する手順を紹介する。相振り飛車をよく指すひとなら知ってる手順だとは思うが。

端を突きあった場合、いきなり突っかける手がある。

 相振り飛車が確定する前に端を打診して突きあった場合、▲7七角から▲9五歩と仕掛ける。△同歩に▲同香。玉側の香を取り合うのは、弱体化が酷いので△9三歩と我慢するくらいで、▲9八飛と回る。▲9三香成りからの強襲があるので、△8二銀が妥当なところ。

端の突っかけの結果図。大成功ではないが、歩を手持ちにできる、壁銀の形を強要できる、タイミングを見て端殺到の権利がある、などの利点がある。

 これだけで優勢になるわけではないが、キャプションに書いたいくつかのメリットがあり、揺さぶりとして面白いと思う。
 このような動きも、相振り飛車独自のものだろう。

 相居飛車でこの位置に角が来る場合、多くは相手の飛先交換を防ぐ目的であり、その位置に安定するのは左美濃や雁木くらいだろうか。符号は同じだが、意味は全く違う角の位置である。相振り飛車でのこの角の位置は、好位置としてではなく、次の動きのための準備の位置のような扱いだ。

・▲6六角 △4四角

 続いて、6六地点と4四地点について述べる。
 どちらも、駒組みの早い段階でここに陣取るような手ではなく、最序盤を過ぎ、中盤の仕掛け辺りで間合いを探りながら陣取ることが多い。相手の攻撃陣や玉側の端を睨む、絶好の位置である。

▲6六角といえば、高田流左玉もこの形。説明と矛盾するようだが、大好きな戦法なので載せる。
なお、この形の左玉は対穴熊が想定であり、他の囲いには銀多伝型を用いることが多いらしい。
参考にしたのは下記のブログ。

 図ではわたしの贔屓で左玉を載せたが、これ以外の戦型・戦法であっても、この位置の角は絶好なので、相手は早めに角交換などで消しに来ることが多く、上で上げた2つの位置に比べると安定しにくい。
 逆に、そういった角交換になりにくい状況、例えば相手がすでに端に角が出ている場合などでは、一方的に好位置で威張れる可能性がある。

 二方向を睨むいい位置だと言ったが、攻撃陣を睨むほうはあくまで牽制であり、一番やりたいのは端攻めである。相振り飛車では、何度か述べたが、歩を持つ展開が多く、端攻めをしやすい局面が多い。金無双の手筋に見られる端に銀が出て受ける形なら、場合によってはそのまま角を切って攻めがつながることもある。

 上の記事の、端銀におけるちょっとした形の違いに気をつける主旨の項目、あるいは、

 歩があれば半ば強制的に銀を釣りだして、角で切ってしまう筋が紹介されている記事に詳しい。

 角は、飛の次に価値の高い駒と一般的に言われる。
 しかし、例えば穴熊戦に見られるように、金と交換なら十二分と見る傾向が昨今では強い。躊躇なく相手の金駒と交換すれば、受けには使いにくい駒なのでそのまま攻めが炸裂する、という理屈である。
 それと同様に、好位置に構えた角は、牽制もさることながら、やはり相手の金駒、局面によっては桂香と交換でも十分な戦果を得られることがある。
 そういった思い切りのいい手を可能にする位置がこの6六・4四である。

 この位置に構えやすい角も、やはり相居飛車とは扱いが違うように思う。

・角を交換する場合

 ここで、冒頭のXでの発言に戻る。
 角をどのタイミングで交換するかによって多少の違いはあるが、この発言は的を射たものだと思う。
 向かい飛車に振る前に、先手なら8筋、後手なら2筋を伸ばすような展開を見かける。そのとき、角交換に乗じて振る一手を使いたい、などの駆け引きが生じている。そうして角が盤上から両者の駒台に移ると、上の ◯角の位置、あるいは処理が違う の項目で上げた違いはほとんどなくなる。より、似てくる。

 ただし、その場合でも、あくまで縦の将棋として似ている、にとどまる程度であるように思う。
 端的に言うと、▲7六歩と▲3六歩の違いのためである。

 角を使おうとすれば、もっとも単純には、そしてもっとも多く採用される手としては、▲7六歩になる。そして角がいなくなった場合、その空いた7七のスペースは、銀や桂がスムーズに移動できるマスになる。

 一方の▲3六歩はどうか。相振り飛車においてこの歩は、ほとんどの場合突く必要がない。いくつかの場合はこの符号が出てくることもある。例えば相手が向かい飛車だから矢倉で受けよう、などの場合だ。しかしそのような場合を除いて、基本的に自分から好んで指す手ではない。

 そうなるとどうなるか。採用する囲いが違ってくる。あるいは採用した囲いの強度が違ってくる。最たる例が、美濃囲いだ。

先手が居飛車の左美濃。後手が振り飛車の美濃。
同時に▲6六桂と△6四桂を打ち合うと、後手はスムーズに
△7六桂と次に跳ねることができ、先に詰めろをかけることができる。

 図は、先手も後手も同じ美濃だが、角道を開けるための▲7六歩だけが違っている。7七に角がいればまた違ってくるが、このほぼ同じ囲いは、どちらがより頑強かといえば、後手のほうだろう。美濃囲いは角(とその助けに桂)を使った小びん攻めに弱い。その弱点を、先手の左美濃は自分からさらに弱くしている格好だ。

 囲いは、もちろんそれ単体で存在するものではなく、自分と相手の攻撃陣との兼ね合いで選択されるものだ。そのうえで、相振り飛車では美濃囲いは有力な選択肢の一つである一方で、相居飛車では対矢倉の居角左美濃くらいしかあまり見かけることはない。
 この差は、やはり角交換と、それに伴う、その交換した駒をどの駒で取り返し、どのような陣形につなげるのか、という違いからくるものだろう。

 角を交換する場合においても、やはり、相居飛車と相振り飛車は似ているが違うもの、と言える。

◯端攻め(補足4)

 相居飛車と相振り飛車では、飛と角について違うから、左右反転したものではない、という主旨でここまで書いてきた。それらの説明の一部で端攻めについても触れたが、これもおそらく両者で扱いが若干異なっている。
 その差異は、歩を手に入れやすい、角を相手玉側の端に利かせやすい、の2点によって生じるものだと、現段階では考えている。

再掲。ありそうでなさそうな角換わり同型。

 例えば角換わりでは、歩が一枚あればいろいろな手筋が発生するのだが、その一枚の歩を手に入れるのがなかなか難しい。なんなら、その一枚の歩を手に入れて仕掛けたかと思えばすぐに終盤、みたいな将棋も多い。さらに言えば、特定の形で開戦したら先手必勝になる順まで存在する始末である。

 話がやや脱線したが、角換わりでは歩の入手が難しく、入手した場合は盤面全体での決着がつきやすい。相対的に端攻めの重要度が低い。

 ここで取り上げたのは角換わりのみだが、相掛かりや横歩取りでも、端の攻防が重要になる展開は、おそらく頻度は低いだろう。

 一方の相振り飛車では、序盤・中盤で手に入れやすい歩の使い先として、端は立派な候補になる。端を破れたら、そこから決着がついてしまうこともあり、変化としては常に水面下にある。

 ただしこれは、相居飛車に比べて相振り飛車のほうが、盤面の端に玉を持っていく傾向が強いせいでもあるかもしれない。昨今の相掛かりや角換わりでは、玉を端に囲いに行くよりも、中央で守備駒の一枚として機能させる傾向にある。相振り飛車も今後、そのように変化していくかもしれない。

やさい最強! 中住まい最強!

 そうなると、相対的に端攻めの効果・価値も下がるのかもしれない。
 しかし、この記事を書く時点では、相振り飛車における端攻めは、相居飛車のそれよりも脅威であるように思われる。

◯まとめ

 以上、相振り飛車は相居飛車とは似て非なるもの、という主題で述べてきた。その違いは、飛と角の位置・扱いの違いであること(それにより端攻めの価値も違っていること)が、少しは示せたものと思っている。

 異論はあると思う。両者の違いはその二点ではない、あるいは、両者はそこまで違わない、等々。そういった意見があれば、ぜひお教え願いたい。
 わたしはこういう、実戦の役に立たない、理屈っぽいだけの無駄話も大好物なのだ。

 冒頭で、ぱぱっと書くメモ程度と述べたが、1万字近くなってしまった。馬鹿すぎない?

◯公開前に決まっていた追記

 この記事は年末に思いついて書き始めた。途中で投げそうになって、とある愛すべきかわいいあいつ♡に相談した。

記事を書くときに、意見をもらうと言うよりは、おかしいとこない?
みたいなので相談することがある。ときどきわたしの修正のほうが追いつかない()

 上のような助言を頂いた。
 なので、まずは読まずに現時点でどう捉えているかを書けるだけ書いた。
 その後にあらきっぺさんの新刊「現代振り飛車の絶望、そして希望」を読み、そこに書かれていた内容を踏まえた追記をする。

 あらきっぺさんは、将棋への解像度がわたしよりも(比較じたいが傲慢ですらあるが)高いわけで、その言によると、相居飛車は▲7八金を強要される戦法だ、とのことだ。
 例外はあるとした上で、相居飛車では飛先を単純に伸ばされることへの防御策として、ほぼほぼ▲7八金を強要され、そこから無理のない囲いを選択する、としている。

 一方で、振り飛車となると、△8四歩 △8五歩 が存在しないから、▲7八金を強要されず、駒組みの自由度が増す。それは対抗形であれ相振り飛車であれ変わらない。どちらかが振り飛車をもった時点で、▲7八金から解放される(▲7八金を選ぶことももちろんできる)。

 指摘されれば、確かにそうだな、と納得のいくところだ。おそらく、この記事でいろいろ述べたことよりも簡潔でスマートにまとまっていると思う。
 こういう着眼点もほしいなぁ、という次第。

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