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一月一酒 第11回

初出:月刊ハンガリージャーナル 2005年4月号

Egri Bikavér Szarkás dűlő 2003
醸造所:Gróf Buttler Borászat-Bukolyi László
地区名:Egri borvidék

 今月もエゲル産ワインをご紹介します。ハンガリー産赤ワインのうち国内外を問わず最も有名なものが“牡牛の血Bikavér”でしょう。長い歴史を誇り、オスマン帝国によるハンガリー占領時代(16-17世紀)に書かれた文献にも記されています。
 “牡牛の血”はブドウ品種を表すのではなく、複数の、少なくとも3種類以上のブドウによるブレンドワインの名称です。キークフランコシュKékfrankosをベースに、カダルカKadarka、カベルネCabernet、メルローMerlot、ピノ・ノアールPinot noir、ブラウブルクBlauburgなどをブレンドしたワインです。また最近ではシラーSyrahをブレンドしたものも見られます。
 牡牛の血は伝統的にエゲル地区とセクサールド地区で生産されていますが、現在でもどちらが先にはじめたのか、という論争が続いています。エゲル産によってその名を高めたのは確かですが、体制変換前の社会主義時代における集団化と、それによる大量生産によって、残念ながら品質は落ちてしまいました。
 対オスマン帝国防衛戦当時の伝説から“牡牛の血”と名付けられたというのは、ご存知の方も多いでしょう。当時から深い炎のような色を持っていた赤ワインを、攻め落とされそうな城塞の防衛にあたる兵士たちが激しい戦いの最中に飲み、それが装甲に流れ、装具や衣類を血のように赤く染めました。彼らの大いなる貢献、英雄的な戦いぶりにより、圧倒的多数を誇るオスマン帝国軍に対して、城塞の防御に成功したのですが、敵兵の間には「ハンガリー人は牡牛の血を飲んでいるからあのように兵(つわもの)で、そのために城塞を落とすことができない」という評判が立ったといいます。
 今月のワイン、Gróf Buttlerワイナリーが醸造したエゲル地区サルカーシュ山頂畑のブドウによる牡牛の血2003年(Egri Bikavér Szarkás tető dűlő 2003)は、エゲル地区産ワインの名声をかつての本来の意味のものに再び押し上げようという志によって造られた本当に素晴しいものです。この新しいワイナリーによる最初のワインは、ワイン愛好家に供されるや否や、たちまち大きな成功をもたらしました。最新技術の醸造施設やエゲル地区最良の畑で収穫されたブドウ、急勾配の山の斜面に完全なる手作業の伝統が復活し、全てのワインが容量の小さいオーク材の樽の中で醸造されます。同社の牡牛の血はキークフランコシュ、シラー、メルローのブレンドです。
 現在の若さでも既に強く惹きつける魅力を持っていますが、数年の熟成により飲み頃になると思われます。色は黒い芯をもつ深い赤、森のベリー系果実やアジアの香辛料を思い起こさせる香りを持っています。牛肉や野生肉の料理、ハードチーズ各種のお供にどうぞお試しください。

原文:TŐZSÉR Róbert
訳文・画像:高久圭二郎

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注:本稿含め「一月一酒」に掲載された「Gróf Buttlerワイナリー」は、エゲルの醸造家 Bukolyi László により経営されていた時代のものになります。諸事情から「Gróf Buttler」と袂を分かち、現在は息子の Bukolyi Marcell を代表とした家族経営のBukolyiワイナリーとして、素晴らしいワインを生み出しています。Bukolyiワイナリーとしての初出は第103回になります。

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