製版作業雑感

先日ちょっとした印刷事故が起きた。インデザインで作成されたパンフ。プロセスカラーの文字にオーバープリントが設定されていた箇所があった。同じ色成分が重なっていて色の変化が起きないところもあったが、一部の文字や罫線で下網が加算されて色が変化してしまった。全く文字が読めなくなった部分もあった。

オーバープリント事故

下版前に先方に確認用PDFを送信してチェックしてもらい、OK後の下版・印刷。
しかし刷了後に不具合発覚。調べてみると初校提出時にすでに色が変わった状態で印刷されていた。確認用PDFにもオーバープリントはかかっていたのだけれど、先方のアクロバットの表示方法がオーバープリントが反映されない設定だったようだ。データに不備があり校正も提出しており、それに修正指示を入れていなかったため当社に責任を問われることはなかったのだが、「製版の方で気が付いて欲しかった」と。(いやそもそも校正でチェックしてもらわないと)
確かにアクロバットのプリフライトチェックで警告が出る。警告が出ていたけど見逃してしまったか、そもそもチェックしていなかったのかもしれない。まずここでモヤモヤした。そして今後こういった問題に対処していくにはどうするか話し合った結果、確認用PDFを提出するときにはアクロバットでのオーバープリントがきちんと反映される表示方法を記した書類を添付しようということに。アクロバットの環境設定、表示方法を記したPDFと一緒にPDFを渡す。(必ずしもアクロバットで確認してもらえるとも限らないのにな)でもそれはそれでありだ。だけどなんかちがうのではないかと思えて仕方がない。

アクロバットからpostscriptファイルを書き出し(オーバープリントをシュミレートにチェック)DistillerでX-1aに変換するとアクロバットの設定にかかわらずオーバープリントが反映されたPDFを作成できる。(こちらの記事を参考にさせていただきました)ただ工程が必要だしRIPから書き出したPDFにさらに手を加えるのもちょっと考えてしまう。RIPデータを画像化してPDFに格納してもよいが、ベジェ部分の再現とデータ容量の問題がある。いやそもそもモヤモヤはPDFの作成方法とかではない。

他にもオーバープリントの絡む事例。自動オーバープリントの結果、意図しない濃度差が出てしまった。初回に自動オーバープリントをかけていたため、データ本来の色より濃度が上がってしまっていた。再入稿された修正データでは該当部分にぼかしがかかり、自動オーバープリントの対象にならなくなって濃度が初回と変わってしまった。デジタル検版で引っかかったため印刷事故には至らなかったけれど、プリフライトチェック、製版処理ってみんなどう考えているのだろうって思ってしまった。

OP検証3

こういったことを事前にチェック・防止するのが製版の仕事ではなかったか。

10数年前に製版作業を説明するため、何を行なっているかをまとめた書類を書いたことがある。会社見学に訪れた芸大生やその教授宛てだったか、社内配布用だったか。環境が違っていてもう現代にはそぐわないのかもしれないけど以下抜粋。

製版作業

参考図改

昔は検版といった部門すらなく、作業者が最終出力物まで確認・検版していた。CTP以前は刷版の前にフィルム出力があり、分版された各色の状態が目視確認できたしアオリ検版とかがメインだった。CTP・デジタル検版で効率が上がったかもしれないけど、モニタの見た目で判断することも多くなった気がする。
DTPが普及し印刷データの作成がデザイナーに移行していくにつれ納期も短くなり、大量に仕事をさばいていくには従来行なっていた作業を簡略化または削除する必要がでてきた。(本来データ作成の仕方や入稿データの作り方をあらかじめきちんとアナウンスした上での話だと思うが)しかし作業スピードを優先するあまり、今まで当然のように行なっていた細かい作業を端折ることが増えたのではないか。効率化の名の下に手抜きをしていないか、作業者が検版者に責任を押し付けていないか。僕が製版作業として当たり前だと考えていた処理が「面倒くさい処理を製版に押し付けられている」というふうに皆の意識が変化していったように感じた。さらに個人の判断では何も作業させなくしてしまった。不足しているぬりたしを作成するにも営業に確認しろと。指示されたこと以外余計なコトをするな。そんな考え方も正しいのかもしれないけれど、自分で考えて処理する能力が落ちていった気がした。簡単なテキスト訂正まで製版ではやらないと言い出した。効率化っていったいなんなんだ、自分のいる会社は印刷通販会社ではない。細かいことに気がつき品質の良いものを提供するスタイルで他社と差別化を図っていたはず。(なんか違う)僕は製版部署を離れた。

営業部そして後工程の業務部、立ち上げたけどほぼ機能しなかった生産工程管理室。しかしこの間の数年間製版部以外で色々経験できたことは結果的に自分のためになったと思ってる。製版って割と閉鎖された空間だと思う。意識して外部の状況をキャッチしないと自社内のルールが全てになってしまいがちだ。枠から少しでてみると見えてなかったものが色々みえてくる。短納期の仕事や処理の煩雑な仕事、なんかめんどくさい面付けなど、ただ毒づいてただけだったかもしれないことも違う側面から見ることができるようになった(今でも毒づいているけど)

色々紆余曲折があって製版部署に戻ることになった時には、方針をまた変えていくという話だった。しかし一旦先に書いたような作業方法に適応してしまった人や入社した時からその環境だった人からすると、余計な作業が増えただけに感じるだろう。世代間ギャップといってしまえばそれまでだけれど、昔はやって当たり前だと思っていた作業がいつのまにか追加サービス作業になってしまった。面倒くさいのはわかるし、手間かかることを避けたいのもわかるけれど後工程が作業しやすいもの、品質の良いものを作り上げるという意識をもてるかどうか。

製版といったカテゴリはデザイナーやデータ作成者にシフトしつつある。CMSの知識を持ち画像処理もご自分でなされるデザイナーも増えている。高度なスキルや知識を持たれているクライアントが増えつつあるということ。印刷会社の製版部門として生き残るためにどう考えているんだろうと考えさせられた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?