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新宿には濡れた鳩

『くるみパンオブザイヤー』ってなんだろう?

毎朝割とちゃんと朝食を取っていたが、このところ起き抜けの5時〜6時台に食べると調子が悪くなることがわかった。
これまでも朝コーヒーや牛乳を飲むと必ずお腹が痛くなり、ここ数年は冷たい飲み物もダメになった。最近は温かいスープでさえ影響が出るようになったため、早朝はもう何を食べてもダメなのではと気がついた。

それでもお昼まで空腹でいるのも辛いので、仕事が始まる直前にパンを食べることにした。コンビニでかなりの確率で買うのはくるみパンで、恐らく2回に一回は手に取っている。
今日もいつも通りファミマでくるみパンを買い、会社の休憩室で温かいほうじ茶を飲みながら食べていた。食べ終わり、空になった袋を何となく眺めていると、『くるみパンオブザイヤー』という文言が目に入った。
そこで、冒頭の疑問である。

正直くるみパンならなんでも美味しい。ただのくるみパンでも、中にあんこやクリームが入っていても、くるみ好きならどれもどんとこい、無条件で口に入れる。
何でも「オブザイヤー」があるのだな、と知った土曜日の朝。


雨が続いている。
降ったり降らなかったり、途中で止んだり。それでなくても新宿の朝、特に土曜や日曜は何となく湿っているように見える。
職場のある新宿で電車を降り、会社へ向かう中たくさんの鳩とすれ違う。鳩にしてみれば、新宿なんて大きな餌箱のようなものなのだろう。
今日も例によって小雨が降る新宿の朝7時半。ふと鳩を見ると頭部が濡れて寝癖のようになっていた。それがやけに可愛くて、可笑しかった。
きょろきょろと何を探しているのかビル街を行ったり来たり。鳥なんだから飛べばいいのに。そんな風に思いながらファミマに入る。
他の棚には一瞥もくれず、真っ直ぐパンが陳列してある棚へ向かう。そういえば昨日も買ったっけ、と思いながら今日もまたくるみパンを買う。


髪を切った。前回初めて行ったときは昼間だったが、今回は仕事帰りだった上に日も長くなり、地下鉄を降りて地上に顔を出すとあたりは真っ暗だった。
階段と風景の割合が変わっていき、だんだんと外の景色が見えてくる。夜ここに来るのは初めてなはずなのに、ちょっと懐かしくてちょっと苦しくなった。
ハッとした。2年前まで住んでいた名古屋の景色に似ていた。
名古屋は地下鉄の街で、どこへ行くにも地下に降り、必ず地上に上がらなければならない。そのときのことが、鮮明に蘇ってきた。

名古屋に良い思い出など一つもない。多分、あと数年は行けないと思うくらい、トラウマに近い街になってしまった。誰にされたのでもなく、自分でしてしまっただけで名古屋に全く罪はないのだけど。
大丈夫、ここは東京で、私は2年前から東京に住んでいて東京の会社に行っている。そう、今朝も新宿で濡れた鳩を見たじゃないか。


ほんのちょっと、雨が降っていただけだったが傘を差した。
みんな雨に濡れたくなくて傘を持っているはずなのに、小雨だと差さないのは何故なんだろう。それでいて、差すか差すまいか迷うくらいの雨量で差しているのが自分だけだとちょっと浮いている感じがするのは何故なんだ。
そんなこと気にしないよ、差さない傘をわざわざ手に持っているなんてそっちの方がおかしいじゃないか。

鳩は傘を差せないから濡れてしまうけれど、私は飛べない代わりに傘を差せる。街中をきょろきょろしない代わりにくるみパンオブザイヤーを受賞したパンも食べる。

明日も仕事。
きっと新宿の鳩は濡れていて、私はくるみパンを買う。

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