雛祭り。あと私の自慢。

どうしても夕飯に寿司が食べたくなり、帰りがけ駅ナカの惣菜売り場に立ち寄った。寿司のパックを見つめながらどれを買うか吟味していたところ、60代後半〜70代くらいのおばちゃんというかおばあちゃんに話しかけられた。どうやら雛祭り用にちらし寿司を買おうとしているらしく、2つのパックを見比べながら
「これ、何が違うか分かる?」と聞いてきた。
「そうですねぇ、あ、こっちはアボカドが入ってますね。あとはこっちは錦糸卵でこっちはだし巻きですかね」
「具材は同じ?」
「えーと、サーモンとイクラと…そうですね、具材は同じです」
「男の子もいいかしらね?」
「良いと思いますよ!ちらし寿司は美味しいですからね〜」などと会話が続いた。
恐らくお孫さんたちと桃の節句のお祝いをするのだろう。私がほっこりした気持ちになっている間におばあちゃんも無事に選び終わったようで、嬉しそうにいくつかのパックを抱えながら
「本当にありがとうね。急に話しかけてごめんね。こんな可愛いお嬢さんに選んでもらって嬉しいわあ」と言ってくださった。
照れ臭くもあったが、役に立てたようで良かったと安心した。
私も寿司を選び、レジに並ぶと丁度さっきのおばあちゃんが前に並んでいた。この店の常連さんのようで、レジの女性とも気さくに挨拶を交わしていた。後ろに並ぶ私に気がつくと、レジの女性に
「このお嬢さんにね、選んでもらったのよ。嬉しいわあ。こんな美人なお嬢さんに。可愛いわねえ。お雛様みたい」と満面の笑みで紹介していた。
これは流石に赤面です、おばあちゃん。恥ずかしながら私もう27歳なんです、と言いかけながらもヘラヘラしてながらイヤイヤ…と言うことしかできなかった。マスクをしていて良かったよ。美人でもなんでもないですし。

私はこれまでの人生で、多分30回近く街中や駅などで道を尋ねられている。多いのはおばちゃん、おばあちゃん、おじいちゃん、外国人の方。旅先や観光地で写真を頼まれることもめちゃくちゃ多い。
こういう人は他にもたくさんいるだろうけれど、私はこれが唯一と言えるほどの自慢である。私の中身や性格を全く知らない初対面の人が、見た目だけで『きっとこの人なら急に話しかけても大丈夫だろう』、そして『何か答えが返ってくるだろう』、と判断してくれている。良い風に捉え過ぎかも知れないが、ある程度の清潔感や無害さなどを認めてもらえてもらえるのは嬉しいことだ。
特に母親世代やそれ以上の方に好感を持ってもらえることが多く、結婚したら向こうの家族や親族に気に入られる気がするんだけどな、と無駄な自信を持っていたりもする。絶望的なことに、同世代の男性に好まれたことはないので結婚には至りませんが。

惣菜売り場のほんの数分のやり取りだけで、ああ今日は良い一日だったと思える。案外単純なものだ。
おばあちゃん、お孫さんたちとちらし寿司食べたかな。美味しかったかな。

#エッセイ #コラム

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