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焼きたてのパンをまだ温かいか確認しながら帰る

一緒に住み始めて半年が経った。互いに忙しない日々が続き、ろくに休みも合わないままここまで来た。それでも、駅前のスーパーで夕飯の買い物をしたり、新しい家電を揃えたりと僅かな時間を共にするだけで、「今日は良い日だった」と思えるくらい、うん、今書いていて思ったけれど多分それくらい好きだ。

先月の初め、彼と私の父親に挨拶をした。同棲の挨拶なんて別にしなくていいだろうと思っていたが、ちゃんとしないと、と彼が言ってくれたためその言葉に甘えることにした。
母親とは同棲する前に会ってくれたため、これで私の両親にはどちらも会ってくれたことになる。特に心配もしていなかったが、どちらともごく一般的な大人同士の会話が進み、楽しい時間を過ごすことができた。彼は疲れただろうが、口では「楽しかった」と言ってくれて安心した。

焼きたてのパンを買ったら、家に着くまでの10分の道すがら、何度も買い物袋に手を突っ込んでまだ温かいか確認しながら帰るタイプだった。きちんとしてるとか繊細だとか、そういうことではない。ただ、自分で決めたこだわりやルールに縛られて、少しずつ息が苦しくなっていた。
あんなにウキウキしながら買ったはずのパンなのに、それよりも「せっかくの温かいパンが冷めないか」という心配が勝ってしまう。いつもいつも、辛い方へ、苦しい方へ、自ら向かっていた。

何かが大きく変わった訳ではない。この性格が面倒だと思われたことはきっと何度もあると思う。私も私で、見えてきた部分もたくさんある。
だけど、「一緒に暮らすってこういうこと」と、そろそろ互いに腑に落ちてきた時期なのでは、と都合よく解釈している。少なくとも私は、自分以外の誰かと共に過ごすことで自分を縛ってきた色々なものからだんだんと解放され始め、以前よりも呼吸をするのが得意になった。
パンは冷めたら温め直せば良い。こんな簡単なことに、29年も気付かなかった。

正月用におせちを買った。西友でもらった無料のカタログを見ながら、これは美味しそうだ、お正月だから奮発しよう、とあれやこれや話しながら結局は量の多さで決めた。
どうせ年末年始も仕事や勉強に追われている。一日くらいは呑んで食べてしてもいいでしょう。もう踏ん張りです。

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