【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日(64)カウボーイ・ジャンキーズと喧嘩好き
銃声がして、近くに県警もいるのですぐに警官たちが来た。店を中心に半円がパトランプで囲まれて夜間照明がこちらに照らされた。
「F(ワード)」
グッドマンは矢のように店の外に出たが、県警と怒鳴り合いになっていた。当初は県警が優勢のようだったが、やり取りを経て、県警は引いた。すぐに刑事(らしき)男たちが来てグッドマンとこそこそ話していた。
警戒態勢は解かれ、グッドマンが店に入ってきた。
「レッツ・誤。F(ワード)」
クリスはグッドマンと一緒に店を出ていった。
「そー・ろんぐ」
とおれは言った。
振り返ってクリスは少し笑った。
白人がいなくなり、店の中は激しく泣く赤ん坊の声以外は静かだった。
と思ったが、脱兎のごとく店を飛び出したのはゆきむらだった。
F。まてやコラ、何やおまえ。S。ウエイト。肉と肉がぶつかりあう音。
ガラスが滅茶苦茶に割れた戸をくぐって外に出ると、寒かった。湿気と白い息が霧のように垂れ込めている。
ゆきむらは憎悪の塊になって、グッドマンと揉み合いになっていた。しかし相手はプロなのでゆきむらは簡単に内股のような技をかけられ、アスファルトの路上に大の字になった。
「きさん腹立つわ。誰や」
と言ってゆきむらは立ち上がった。
「こそこそ、こそこそしてからに。くらすぞコラ」
戦意は失っていなかったのでゆきむらはまた突っ込んでいった。かなうはずがないのに。
前蹴りをされて、ゆきむらがまた倒れた。
「ゆきむらさん、もうやめよう」
と言っておれは跪いた。触ると体温が異常に熱かった。おれはゆきむらの首筋、大動脈らへんを押さえて、血流を鎮めようとした。しかしまだ立ち上がろうとする。
グッドマンとクリスは霧がかった町の闇に中にもう消えていた。
「殺したる。ころす」とゆきむら。
どういう理由で、どうやって殺すのか、おれには皆目見当もつかない。
西村が背後にいたので、二人でゆきむらを店内に運んだ。
これはもう、朝までここにいるんだろう、と思った。
壁掛け時計を見ると午前1時22分だった。
テレビは通り魔事件の中継をやめて、深夜放送のバラエティになっていた。
水着の女たちが背景に居並ぶ中で、若手の芸人が即興のコントをしていた。途中から見たので内容はよくわからない。野球選手の声帯模写をしている。それを見て、有名な芸人が手を叩いて笑っている。
笑いというのは非常に重要視されている。というのも現実はとても笑える状態・状況ではないからだ。もうそういう時代になっていた。
今をやり過ごすことに、誰もが必死になっていた。
そんな。
そんなことをしなくても。ただ眠ればいいだけなのに。とおれは思う。
しかし全体的に不眠症の方がやや多いようだった。
だから深夜も、誰かが働いていた。おれたちだってそうだった。
本稿つづく
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