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ナルシストは病気に分類されているが極むれば病気ではない①

 わたしは女のほうが圧倒的に多い環境で三代目として育てられ、すくすくと育った。女というのは下僕のようによく立ち働くので、わたしは日々何もせず食べて寝て、寝て起きて食べた。

 毎朝その日に履く靴下も用意せられ、指をねん挫した時、妹に命じて靴下をはかせたこともある。妹は年齢が下なので、知能も下である。わたしは金に困ると、家にあるシーサーの置き物や、中古のカセットテープなどを売りつけて金を作った。

「これがあれば、悪いゆめはみない」とわたしは説明した。「おまえ、こわい夢を見たことがあるだろう?」

「うん」と妹は頷く。

「こわい夢、もうみたくないだろう」

「うんうん」

「ならば、これを枕元におくとよい。わるい夢、こわいゆめを食べるのだ。ほら口があいているだろう?」

 そのシーサーは口があいていた。喉の奥がまっくらで、わるいものを食べたことを裏づけるように、口のまわりがうっすら黒かった。「ほしい」と妹がいうので、ほんとうは1,500円だが、150円でいいだろう、ということで譲った。譲ったというか、このシーサーはどこかの棚に置いてあったもので、本来だれのものでもない。

 軽犯罪行為のようであるが、妹ははっきりと自分の意志で安心を買ったのである。かの女はすっかり満足していた。何日かして、妹が毎夜枕元にシーサー像を置くので、怪しんだ母がわけを聞き、この軽犯罪は発覚した。わたしは怒られたが、金を返せとは言われなかった。言われたとしてもそんな金はもうとっくになかった。妹はわたしを擁護し、ききめはあるとか、なんとか言っていた。それで有耶無耶になった。

 またあるとき、わたしはカセットテープをカセットプレイヤーに入れ、再生した。音楽が流れた。

「このように、好きな音楽を、録音、再生することができる」とわたしは言った。

 妹は興味深そうにわたしと、カセットプレイヤーと、その窓の中でくるくるまわるカセットテープを見ていた。

「こういうこともできる」

 と言ってわたしは、再生ボタンとその隣にある録音ボタンを同時に押し、妹の通っている小学校の校歌を歌った。きゅるるる、と巻き戻し、再生した。すると、スピーカーから小学校の校歌をうたうわたしの声が流れ出した。

 妹は目を丸くする。

「これ欲しい?」とわたしはカセットテープを取り出し、妹に渡した。

「ほしい」と言うので300円で売った。その300円を持ち、わたしは出かけた。

 人というのは時間が経つと成長する。小学校高学年ぐらいになると、妹はわたしから物を買わなくなった。そこでわたしはその下の、二番目の妹を顧客とした。二番目の妹は上よりも成長が早いのか、小学校二年生ぐらいになるとわたしの商品には見向きもしなくなった。

 

 


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