【論文】H. Nishimori (1981)

元論文

H. Nishimori, Spin quantum number in the ground state of the Mattis-Heisenberg model. J. Stat. Phys. 26, 839-845 (1981)

キーワード

  • スピン系

  • Mattis-Heisenberg モデル

  • 基底状態

概要

各サイトでスピンの大きさがSのスピン系におけるMattis-Heisenbergモデル

$$
(1)\qquad H=-\sum_{\braket{i,j}}\tau_i\tau_j(S_i^xS_j^x+S_i^yS_j^y+∆S_i^zS_j^z)\qquad(\tau_i=\pm1)
$$

の基底状態はtrivialな縮退を除いて一意に定まり、$${∆}$$の値に応じて以下を満たす。

  1. $${-1<∆<1}$$のとき:$${NS\in\mathbb{Z}}$$なら$${M_z=\sum_iS_i^z=0}$$、半整数なら$${M_z=\sum_iS_i^z=\pm1/2}$$

  2. $${∆>1}$$のとき:$${M_z=\pm\sum_i\tau_iS}$$

  3. $${∆=1}$$のとき:$${S_\mathrm{tot}=|\sum_i\tau_i|S, \;M_z=-S_\mathrm{tot}, -S_\mathrm{tot}+1, …, S_\mathrm{tot}}$$

  4. $${∆=-1}$$のとき:副格子になっていれば$${S_\mathrm{tot}=|\sum_i\tau_i'|S, \; M_z=-S_\mathrm{tot}, -S_\mathrm{tot}+1, …, S_\mathrm{tot}}$$. ただし$${\tau'}$$は副格子のうち片方に属する$${i}$$で符号を反転したもの

  5. $${∆<-1}$$のとき:副格子になっていれば$${M_z=\pm\sum_i\tau_i'S}$$

詳細

下ごしらえ

元のHamiltonianを変形して解きやすい問題に帰着する。具体的には、まず$${\tau_i=-1}$$のサイトだけで$${y}$$軸まわりに$${π}$$回転し、次いで$${x}$$周りに$${-π/2}$$回転する。これにより

$$
S_i^x\mapsto\tau_iS_i^x\mapsto\tau_iS_i^x, \; S_i^y\mapsto S_i^y\mapsto-S_i^z, \; S_i^z\mapsto\tau_i S_i^z\mapsto\tau_iS_i^y
$$

となるため、

$$
(2) \qquad H=\sum_{\braket{i,j}}(S_i^xS_j^x+\tau_i\tau_jS_i^zS_j^z+∆S_i^yS_j^y)=\frac{1}{4}\sum_{\braket{i,j}}[(1-∆)(S_i^+S_j^++S_i^-S_j^-)+(1+∆)(S_i^+S_j^-+S_i^-S_j^+)+4\tau_i\tau_jS_i^zS_j^z]
$$

と変換される。元のHamiltonianは$${S_i^z}$$と同時対角化が可能だったが、このHamiltonianでは

$$
M_z\mapsto\sum_i\tau_iS_i^y
$$

がいい量子数を与える。

Hilbert空間は

$$
\phi_\mathrm{even}=C\prod_i(S_i^+)^{p_i}\ket{0}\qquad(\sum_ip_i\in2\mathbb{Z})\\\phi_\mathrm{odd}=C\prod_i(S_i^+)^{p_i}\ket{0}\qquad(\sum_ip_i\notin2\mathbb{Z})
$$

に分類される。$${\ket{0}}$$は$${\sum_iS_i^z\ket{0}=-NS\ket{0}}$$を満たす。$${\phi_\mathrm{even}^\dag H\phi_\mathrm{odd}=0}$$のため二つのセクターは$${H}$$で移らない。

それぞれのセクターの基底ベクトルで和を取る形で基底状態を

$$
\Psi=\sum_\nu a_\nu\phi_\nu\qquad(\sum_\nu|a_\nu|^2=1)
$$

と展開する。$${a_\nu=|a_\nu|e^{i\theta_\nu}}$$とすれば、エネルギーは実数値を取るので基底エネルギーとして

$$
(5)\qquad E=\bra{\Psi}{H}\ket{\Psi}=-\sum_\nu\sum_{\mu_\nu}\frac{1-∆}{4}|a_{\mu_\nu}||a_\nu|\cos(\theta_{\mu_\nu}-\theta_\nu)-\sum_\nu\sum_{\lambda_\nu}\frac{1+∆}{4}|a_{\lambda_\nu}||a_\nu|\cos(\theta_{\lambda_\nu}-\theta_\nu)+\text{diag}.
$$

の形が期待できる。$${|a_\nu|}$$は最適化されているとして、$${E}$$を最小化する$${\theta_\nu}$$の条件を出す。対角項は虚数の位相依存性が消えるのでそもそも考慮しなくてよい。

  • explicitにcosを含むエネルギーの形を導出できないか

(i) -1<∆<1

全ての$${\nu}$$にて$${\theta\nu}$$が一致していればエネルギーが最小になる。$${\theta_\nu}$$の値は任意なので$${\theta_\nu=0}$$とする。すなわち$${a_\nu\geq0}$$が必要条件。

基底状態の必要条件をreference Hamiltonianから求める。

$$
H_\mathrm{ref}=-\frac{1}{N}\left((\sum S_i^x)^2+(\sum S_i^z)^2\right)
$$

で、エネルギー固有値は

$$
E_\mathrm{ref}=-\frac{1}{N}[I(I+1)-m^2]
$$

の形。ここに$${I}$$は合成スピンの大きさ、$${m}$$は$${\sum_i^y}$$の固有値。合成スピンが整数なら$${m=0}$$, 半整数なら$${m=\pm1/2}$$にて基底状態。

reference Hamiltonianで$${x}$$周りに$${\tau_i=-1}$$の項だけ$${π}$$回転させると、

$$
(7)\qquad H_\mathrm{ref}'=-\frac{1}{N}[(\sum S_i^x)^2+(\sum\tau_iS_i^z)^2]=-\frac{1}{4N}\sum(S_i^+S_j^++S_i^-S_j^-+S_i^+S_j^-+S_i^-S_j^+)+\text{diag}.
$$

これを$${\Psi}$$で評価すると、

$$
E=-\frac{1}{4N}\sum_{\mu\nu}a_\mu^\ast a_\nu\times\text{positive}
$$

を得る。ここからもやはり絶対値固定では$${\forall a_\nu\geq0}$$が好ましい。実際は$${a_\nu>0}$$までわかるらしい。(2)と(7)で非対角項の係数の符号が一致しているので、固有状態の係数の符号も一致するはず。従って基底状態にて$${a_\nu>0}$$。直行するベクトルでこの条件を満たすものは存在しないので、基底状態は一意に定まる。

  • 規格化していても$${a_\nu>0}$$が最適とわかるか。すなわち、エネルギーを下げる寄与が小さい$${a_\nu}$$を0にして寄与の大きいものをあげた方がエネルギーが下がるわけではないことを、いかにして一般に証明できるか。

  • 対角項からのエネルギーへの寄与を無視できるか。

  • Hamiltonianの各項の符号が同じだけで基底状態が直交しないと言えるか

  • 第一、$${S_z}$$と同時固有状態をとれて、$${\forall \tau_i=1}$$のときに$${π}$$回転の対称性から$${M=1/2}$$が基底状態なら$${M=-1/2}$$も基底状態になるはずだが、なぜ基底状態が一意と言えるか。

(ii) ∆>1

(5)を最小にする位相は

$$
\theta_\nu=\theta_{\mu_\nu}+π=\theta_{\lambda_\nu}
$$

$${\nu, \mu_\nu}$$は$${S_i^z}$$の固有値が$${\pm2}$$異なる。$${\nu, \lambda_\nu}$$は同じになる。すなわち基底状態の必要条件として、固有値を$${M}$$に制限したHilbert空間に属する基底ベクトル$${\phi_\nu}$$では、$${\theta_\nu}$$が共通していなければならない。

$$
(8)\qquad H_\mathrm{ref}=-\frac{1}{N}(\sum S_i^y)^2=\frac{1}{4N}\sum_{ij}(S_i^+S_j^++S_i^-S_j^--S_i^+S_j^--S_i^-S_j^+)
$$

は(2)の$${∆>1}$$の場合と同じ符号なので、それぞれの基底状態は直交しないと思える。(2)も(8)も$${\sum_i\tau_iS_i^y}$$と交換するので、基底状態は同じ固有値を吐き出すだろう。(8)での基底状態では、全ての$${i}$$にて$${S_i^y}$$の固有値が$${S}$$に揃うか$${-S}$$に揃う。従って$${\sum_i\tau_iS_i^y}$$の固有値は$${\pm\sum\tau_iS}$$になる。

基底状態が縮退しないのは(i)と同様の議論。

  • (2)と(8)で基底状態が直交しない理由

  • (2)と(8)の基底状態で$${\sum_i\tau_iS_i^y}$$の固有値が共通する理由

  • $${\forall\tau_i=1, \;∆\to\infty}$$で強磁性Isingになるが、基底状態は縮退しないのか

(iii) ∆=1

Lieb, Mattis (1962)でよく知られている。

(iv), (v) 

$${∆\leq-1}$$の副格子にて、片方のsublatticeで$${z}$$周りに$${π}$$回転し、片方のsublatticeで$${\tau_i=-1}$$の点で$${\tau_i\mapsto-\tau_i}$$すなわち$${\tau_i'}$$を用意することで、(1)のHamiltonianは

$$
H=-\sum\tau_i'\tau_j'(S_i^xS_j^x+S_i^yS_j^y+|∆|S_i^zS_j^z)
$$

すなわち$${∆<0}$$の問題は$${|∆|>0, \tau'}$$の問題に帰着される。

Discussion

競合を有するスピン系ではこのHamiltonianは使えないらしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?