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【行間を読む】猪木・川合「量子力学II」p. 495 (射影演算子と角運動量演算子の交換関係)

キーワード

  • Zeeman効果

  • 摂動論

  • 射影演算子

  • 角運動量

  • 交換関係

該当箇所

ここで、$${\hat{P}_j}$$は$${\hat{\bm{J}}}$$の大きさが$${\hbar j}$$であるような空間への射影演算子であるから、もちろん$${\hat{P}_j}$$と$${\hat{\bm{J}}}$$は可換である。

解説

まずは$${\ket{j, m}}$$が$${\hat{\bm{J}}}$$によってどのように変化するかを見る。$${\hat{j}^+=\hat{j}_1+i\hat{j}_2, \hat{j}^-=\hat{j}_1-i\hat{j}_2}$$であるから、

$$
\begin{array}{l}\hat{\bm{J}}\ket{j,m}=\left(\begin{matrix}\dfrac{\hat{j}^++i\hat{j}^-}{2}\\\dfrac{\hat{j}^+-i\hat{j}^-}{2i}\\\hat{j}_3\end{matrix}\right)\ket{j,m}\\=\left(\begin{matrix}\dfrac{\sqrt{j(j+1)-m(m+1)}\ket{j,m+1}+i\sqrt{j(j+1)-m(m-1)}\ket{j,m-1}}{2}\\\dfrac{\sqrt{j(j+1)-m(m+1)}\ket{j,m+1}-i\sqrt{j(j+1)-m(m-1)}\ket{j,m-1}}{2i}\\m\ket{j,m}\end{matrix}\right)\end{array}
$$

である。各演算子によって$${m}$$の値は変動しうるが、$${j}$$の値は変わらない。

これを念頭に、$${\hat{P}_j}$$と$${\hat{\bm{J}}}$$の交換関係を考察する。射影演算子は$${\hat{P}_j=\displaystyle\sum_{m=-j}^j\ket{j,m}\bra{j,m}}$$のようにして表されることに注意すると(補足参照)、

$$
\begin{array}{l}\hat{\bm{J}}\hat{P}_j\ket{j,m}=\hat{\bm{J}}\ket{j,m}\\=\left(\begin{matrix}\dfrac{\sqrt{j(j+1)-m(m+1)}\ket{j,m+1}+i\sqrt{j(j+1)-m(m-1)}\ket{j,m-1}}{2}\\\dfrac{\sqrt{j(j+1)-m(m+1)}\ket{j,m+1}-i\sqrt{j(j+1)-m(m-1)}\ket{j,m-1}}{2i}\\m\ket{j,m}\end{matrix}\right)\end{array}
$$

$$
\begin{array}{l}\hat{P}_j\hat{\bm{J}}\ket{j,m}\\=\hat{P}_j\left(\begin{matrix}\dfrac{\sqrt{j(j+1)-m(m+1)}\ket{j,m+1}+i\sqrt{j(j+1)-m(m-1)}\ket{j,m-1}}{2}\\\dfrac{\sqrt{j(j+1)-m(m+1)}\ket{j,m+1}-i\sqrt{j(j+1)-m(m-1)}\ket{j,m-1}}{2i}\\m\ket{j,m}\end{matrix}\right)\\=\left(\begin{matrix}\dfrac{\sqrt{j(j+1)-m(m+1)}\ket{j,m+1}+i\sqrt{j(j+1)-m(m-1)}\ket{j,m-1}}{2}\\\dfrac{\sqrt{j(j+1)-m(m+1)}\ket{j,m+1}-i\sqrt{j(j+1)-m(m-1)}\ket{j,m-1}}{2i}\\m\ket{j,m}\end{matrix}\right)\end{array}
$$

で、確かに交換可能である。

補足

射影演算子は角運動量の大きさが$${\hbar j}$$となる部分空間にケットベクトルを写すことしか求めていないが、その条件から形式は一意に定まる。まず角運動量の大きさが$${\hbar j'\neq\hbar j}$$となるケット$${\ket{j',m}}$$は$${0}$$に移らなければならない。また元々角運動量の大きさが$${\hbar j}$$であるようなケットは変化しないようにしなければならない。その際、$${\hat{j}_z}$$の固有値$${m}$$は$${-j, -j+1, \cdots, j}$$の$${2j+1}$$通りの値を取り、そのどれに対してもケットを保存する必要がある。以上全ての要件を満たす演算子は、

$$
\hat{P}_j=\sum_{m=-j}^j\ket{j,m}\bra{j,m}
$$

だけである。

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