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【行間を読む】猪木・川合「量子力学II」p. 450 (共鳴する部分波の位相のずれ)

キーワード

  • 準定常状態

  • 散乱

  • 共鳴

  • 位相のずれ

  • 部分波

  • 散乱断面積

該当箇所

一般に、入射エネルギーが共鳴状態のエネルギーを通過して増加すると、散乱の位相のずれは$${\pi/2}$$または$${3/2\:\pi}$$を通過して増加し、対応する部分波の断面積$${\sigma_l=\dfrac{4\pi(2l+1)}{k^2}\sin^2\delta_l(k)}$$は、取りうる最大値$${\dfrac{4\pi(2l+1)}{k^2}}$$となるはずである。

解説

論理の順序としては、

  1. 角運動量$${l}$$の部分波が共鳴する

  2. $${l}$$の散乱粒子数が多くなる

  3. 部分波の断面積$${\sigma_l=\dfrac{4\pi(2l+1)}{k^2}\sin^2\delta_l(k)}$$が大きくなる

  4. $${\delta_l(k)=\pi/2, 3\pi/2}$$となる

と考えると良い。

古典的類推

状況は図に示すような共鳴管に似ている。共鳴管の一端から入った音波は、波長によらず管の両端で反射を繰り返し、開放端での反射の際に一部が管の外へ出て観測者に届く。しかし開放端にて1往復、2往復、3往復、…した音波の腹が重なる特別な波長$${\lambda_0}$$においては、開放端で振幅が重なって音量が大きくなる。ゆえに$${\lambda_0}$$の波が他と比べ目立って聞こえる。

共鳴する部分波の族。実線は入射波(共鳴管外部から入ってきた波;0.5往復)、破線は第1の反射波(固定端で反射;1往復)を表す。描画の都合上省略しているが、本来はこれに第2の反射波(開放端で反射;1.5往復)、第3の反射波(固定端で反射;2往復)などが加わるほか、波長が1/3倍、1/5倍、…の波、さらには開放端で腹が揃わない部分波も存在する。反射のたびに音波の一部が共鳴管外部へ出ていくため、反射するほど振幅は減少する。開放端補正は無視している。

これと同様のことが準束縛条件でも生じていると考えられる。トンネル効果によってポテンシャル内部に入り込んだ粒子は、一定期間を障壁内部で過ごし、再びトンネルして障壁から出てくる。出てくる際に位相が揃っているものが振幅を強め、他の部分波に比べて断面積を大きくする。障壁内部で留まっている際に生じる位相差から$${\delta_l}$$を求めるのは難しい。そこで、角運動量$${l}$$の波が共鳴するという条件が与えられたときに、部分波の断面積が他と比べ大きくなることから、$${\delta_l}$$を求めている。

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