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【行間を読む】猪木・川合「量子力学I」pp. 172, 186 (ヒルベルト空間のベクトルψを用いたSchrödinger方程式の時間全微分)

キーワード

  • 全微分

  • 偏微分

  • Schrödinger方程式

該当箇所

p. 172

(3)' 時間発展は、時間について1階で線形なSchrödinger方程式で表される。

$$
i\hbar\dfrac{d}{dt}\psi=\hat{H}\psi\qquad(6.4)
$$

p. 186

各時刻$${t}$$における系の状態をケット・ベクトル$${\ket{\psi(t)}_\mathrm{S}}$$とすると、その時間発展は、Schrödinger方程式

$$
i\hbar\dfrac{d}{dt}\ket{\psi(t)}_\mathrm{S}=\hat{H}\ket{\psi(t)}_\mathrm{S}\qquad(6.38)
$$

で表される。

疑問点

これまでのSchrödinger方程式は時間偏微分によって

$$
i\hbar\dfrac{∂}{∂t}\psi(\bm{x},t)=\hat{H}\psi(\bm{x},t)
$$

と表してきたが、ここではなぜ左辺に時間全微分$${\dfrac{d}{dt}}$$を使うのか。

解説

まずここでの$${\psi}$$や$${\ket{\psi(t)}_\mathrm{S}}$$といった量は、これまでの波動関数のような具体形で表すことができない抽象的なもの (ヒルベルト空間上の状態ベクトル) であることに注意しなければならない。つまり$${\bm{x}}$$を引数とする関数とは仮定していない。換言すれば、座標系 ($${\mathbb{R}^3}$$など) を定義域とする写像ではない。同様にして$${t}$$以外の変数依存性を仮定していない。ゆえにこの場合、時間全微分と時間偏微分は同一である。

特にケットベクトル$${\ket{\psi(t)}_\mathrm{S}}$$の場合、座標表示$${\psi(\bm{x},t)=\bra{\hat{\bm{x}}}\ket{\psi(t)}_\mathrm{S}}$$にするまで位置依存性は生じない。

補足

$${x}$$を引数とする関数を使って$${\psi(t)}$$を展開できることから位置依存性が生じると思われるかもしれないが、実際に完全性条件を使うと

$$
\ket{\psi}=\int d^3x\ket{\bm{x}}\bra{\bm{x}}\ket{\psi}=\int d^3x\ket{\bm{x}}\psi(\bm{x})
$$

となる。この$${\bm{x}}$$は積分のダミー変数であるから、積分外に現れない。ゆえに$${\ket{\psi}}$$に位置依存性は現れない。

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