「ハハ」と「ムスコ」と父は言った 要介護1→3
父の要介護認定での出来事。調査員に
「この人は誰ですか?」
と聞かれた父は自分の妻を「ハハ」、娘を「ムスコ」と答えた。
「ハハ」と「ムスコ」!
父の要介護認定の調査で驚いたことがあった。
父はそのとき要介護1。散歩に出て道に迷ったり、行けつけの理髪店にたどり着けなくなったり、認知症の症状はあったが、食事、着替え、入浴、排せつなどは人の手を借りなくてもできていたので、今回も要介護1程度だろうと思っていた。
市から派遣された調査員が母を指して
「この人は誰ですか?」
と尋ねると父は、すかさず
「ハハ」
「え?」と私は一瞬あっけにとられ、母は
「91歳の人の母って一体何歳?」
とあきれていた。
次に調査員は父の長女である私を指して
「この人は誰ですか?」
と尋ねた。父はこう答えた。
「ムスコ」
マジか……。
普段「私は誰?」なんて聞くことはないので、父が正確に答えられなかったことに驚いた。でも、「ハハ」はいつもそばにいて自分の面倒を見てくれる人、「ムスコ」は自分の子ども。表現は多少変だが、母と私が自分にとってどういう存在なのか、父は理解していると思った。この回答のせいかどうかはわからないが、父は要介護3と認定された。あまりうれしくないツーランクアップだ。
グループホームへの入居計画
地域包括支援センターの方から施設への入所を勧められて、3か所ほどの施設を見学した。
その結果、家から車で10分ほどの場所にあるDという施設に入所を申し込むことにした。Dは地域密着型の施設で、特別養護老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、小規模多機能型居宅介護事業所の3つの施設がある。
まずは小規模多機能型のデイサービスを週4日利用し、父の様子を見ながらショートステイを利用して泊まることに慣れてもらい、グループホームの空きがでたら、グループホームに入居しようという計画である。さらに症状が進んで自分で動けなくなったら特別養護老人ホームに移行することもできる。
Dからは周辺の山の景色がよく見える。敷地は9000平米と広く、中庭には、花の鉢植えがあり、畑ではプチトマトなどの野菜が育てられていた。介護ヘルパーの話によると、職員や利用者とその家族の有志が、園芸部として花や野菜の世話をしているそうだ。
「ハハ」と「ムスコ」でもいいから忘れないで
私と夫がケアマネージャーから施設についての説明を聞いている間、父と母はデイサービスの部屋で過ごした。
母の話によると、父がそわそわしてしているのに介護職員が気づき、うまく庭へ誘導してくれたとのこと。今通っているデイサービスからこちらに変わることやグループホームへの入居のことを不安に思っていた母だが、目配りのできる介護職員がいることを知り安心したようだ。
外に出て行きたがる父も、ここでなら庭を散歩したり植物の世話をしたりして安全に過ごすことができそうだ。グループホームは順番待ちなので、いつ入居できるかわからない。
デイサービスは今まで通っていたデイサービスと同じ週4日の利用なので、行かない日はこれまでどおり、父が勝手に出て行かないように見守る必要がある。でも、受け入れ先が決まったことで少し安心できるようになった。
来年、また要介護認定の調査がある。そのとき父は、母と私のことを何というだろう。家族だとわかってくれるだろうか。家族であることを忘れないでいてほしい。「ハハ」と「ムスコ」でもよいから。
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