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家庭医のヒヨコ、臨床しな医として復職する

前回までのあらすじ

なんと1年以上更新していなかった。
2020年7月、医師5年目で総合診療専攻医3年目として毎日仕事をエンジョイしていた私は、ある日急に動けなくなってしまった。8月には内因性うつ病と診断され、長い長い休職を経験した。
詳しくはマガジン「家庭医のヒヨコ、療養する」をご覧頂きたい。

2021年7月、発病から約1年たち、ようやく復職に向けてのリハビリを始めることができた。その半年前に一度臨床業務で復職を試みたが「久しぶりの仕事が楽し過ぎて盛大に本気を出し、3日目にはまた動けなくなる」ムーブをかましてしまった。そういった経緯もあり、臨床は一度おやすみして、元々興味があった研究と教育に専従する役職を勤め先に設けてもらった。つくづくこの職場で良かったと思う。毎日思う。
リハビリは順調にいき、2022年4月から時短常勤として復職できた。

あと細々したこととしては、離婚した(私の療養と彼の生活が合わなくなってしまった)。そして私は職場から少し離れた場所に引っ越し、猫を飼い始めた。

臨床しな医の仕事

現在は自分が初期研修もした札幌市内の大きめ民間病院で働いている。家庭医療クリニックは同じ医療法人内なので、完全に離れてしまった感じはしない(この時点で300%特定可能なのだがやましいこともないので別にいい)。
私は長期の海外在住経験があることから日本語と英語のバイリンガルであり、後期研修中にちゃっかり公衆衛生大学院に入学し先月修士論文を提出して修了予定という、そもそも日本の医師としてはだいぶイレギュラーな存在なので、以下に述べる業務が可能となっている。
そんなイレギュラーさを買われて無理やりねじ込んでもらったポストなので、業務内容が決まっておらず良く言えばやりたい放題、悪く言えば宙ぶらりん状態なのだ。
というわけで臨床研究・治験推進室に所属しながら、初期研修にも関わるという形をとっている。あとは英文のネイティブチェックとかもしてる。

臨床研究とは、診療で得た患者さんに関するデータを用いて行う研究で、医療者が主体となって行う。製薬会社が主体となる治験には、私は関わっていない。
臨床研究と一口に言っても本当に幅広く、どこからどこまでが研究なのか、研究機関でもないのに研究の質が担保されるのか、研究のために患者さんの情報を使うのは倫理的に認められることなのかなど、結構考えないといけないことが多い。臨床や研究の経験がない事務スタッフだけでできるものでも、日常診療に忙殺されている医師が片手間にできるものでもない。
しかし学術研究機関ではない民間病院において臨床研究はお金になりにくく、知識のある専従スタッフを雇いづらい領域ではある。
そこに私がシュッと入った。シュッと。知識も経験も興味もあるし時短だから給料もフルじゃないし、なんなら多分来月には自主的に大学院を卒業して修士号が取れる。Win-win!

あとは初期研修教育をしている。自分が修了したプログラムの後輩たちにとって、私が「あの時いて欲しかったな」と思う、いつでも何でも遠慮なく聞ける先輩であろうとしている。
具体的には、ニーズがありそうな領域に関するレクチャーをしたり、学会発表や論文執筆の指導をしたり、進路相談に乗ったり、プレゼンの練習に付き合ったり、愚痴を聞いたりしている。これは地味に大事だと思うのだけど、なるべく1日に1-2時間は暇そうな雰囲気を出して話しかけやすく振る舞うように心がけている。
あとは、当院はアメリカの大学病院と契約し、英語の教育体制も整えているので、英語カリキュラムのコーディネーターもやっている。

こうして書き出してみると、復職半年で色々やっているなあと思う。

患者をみずとも医師と名乗れるのか

最後に直接患者さんを診察してから2年以上が経過した。研修医を指導したり、研究計画支援でも知識が必要だったりするので臨床の勉強や電子カルテの利用は続けている。
それでも病院に通勤しているのに患者をみないだなんて、医師としてのアイデンティティを失いかねない生活ではないかと思う方もいるだろう。

しかし、私が行っている業務は医師免許こそ不要であるものの、ほぼ100%医師としての知識や経験がないとできないものだという自負がある。公衆衛生大学院で学んだ内容や英語も活用しているが、4年4ヶ月という長からずも決して短くない臨床に従事した日々があってこそパフォーマンスを発揮できていると思う。

実際、日本にはまだ臨床をしない医師という概念が浸透していないが、例えば欧米諸国には公衆衛生専門医がいる国もあるし、iPS細胞に関する研究でノーベル医学・生理学賞を受賞された山中先生も研究専従だ。

当院も先進的かつ柔軟なキャリアを積む医師が多いとは言え、私が教育研究・治験センターに専従する初の医師になったのではないだろうか。知らんけど。
初期研修医にとっては同じ研修プログラムの先輩だからこそ相談できる内容もあるだろうし、研究に関する業務でも職員の多くが私を元から知っているためにスムーズに行くこともある。
私は間違いなく当院で「医師」としての仕事をし、相応の待遇を受けている。本当にありがたいことだと思う。

これからは、民間病院に勤めながら臨床に従事しない、さながら奈良県の鹿の群の中で暮らすポニーのような日々を、なるべく医師でも研究者でも教育者でもない方にも分かるように書き残していきたいと思う。

写真はアメリカンショートヘアのロミオです。1歳になりました。かわいいね。


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