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演劇『幕末疾風伝・壬生狼』の感想~やはり舞台は難しい~

皆さんは人生の中で演劇を観に足を運んだことはあるだろうか?
自分は初めての体験だった。

ということで、池袋のあうるすぽっとという場所で行われている舞台『幕末疾風伝・壬生狼』を観に行ったのだが、残念ながらあまり面白くなかった。
なので演劇の途中休憩で席を立ってしまった。(これは腰が痛かったのもあるけど)

今回もちょっとネガティブめの感想になるし、最後まで観劇していないという点を前提の上でこの感想をご覧いただきたい。

先にまず、この演劇のいろいろについてご紹介。
あうるすぽっとは池袋サンシャインからまさに目と鼻の先に存在しており、舞台の客席数は100くらいの小さなところ。
入場料は六千円。
あらすじは公式サイトから引用すると以下の通り。

◆あらすじ◆
明治期に絶滅したニホンオオカミを探すために入った山で遭難した兄と妹。
離れ離れになった二人が再会したのは、なぜか幕末の京都だった。
生きていくためにやむなく入隊した「新選組」で仲間に囲まれた日々を送るうちに
やがて二人は、現代にいた頃には見失っていた『自分の生きる意味』を見出していく。
だが無情にも、サムライの時代の終焉はすぐそこまで迫っていた……。
幕末の日本を颯爽と駆け抜けた
「人斬りオオカミたち」の
底抜けに明るく、狂おしいほど切ない
青春群像劇

https://www.tafpro-tate.com/miburo2024

ではここからまず悪かったポイントを箇条書きで記していく。

問題点① 主人公の出番が少ない

この壬生狼はおそらく遭難した兄妹の妹であるカオルが主人公なのだと思う。
しかし新撰組を扱っている以上、各キャラの魅力を引き出す必要性があって、それでカオルの出番が少なくなっているし、カオルの苦悩に共感しづらくなっている。
また本筋に関係なさそうなキャラのサイドストーリーとでもいうべきギャグ展開も多く、これをするならもっと主人公やその兄の心境を深く描いて欲しかった。

問題点② 主人公に魅力がなさ過ぎる

これは個人の感覚の問題も関わるだろうが、自分はこのカオルという主人公を全く好きにはなれなかった。
はっきり言って、この主人公はタダのバカ女にしか見えない。
問題解決に協力している場面も少ないし、前述の通り出番も多くないし、わめいたりがなったりするシーンが多数でとてもうるさい。
なので問題点①が逆に良い点になっているのも悲しいところ。

並み居る魅力的な新撰組のキャラを出すから対比して凡庸な主人公を置いているのだとは思うが、にしてもこの主人公はもう少し何とかなったのではないか? というのが自分の感想だ。

問題点③ 背景小道具の低クオリティ

これはこの『壬生狼』だけでなく演劇全てが内包している問題かもしれないが、背景・小道具がイマイチだった。
背景はほぼ固定で障子のようなものであり、どういう場所で会話が行われているかは観ている側が文脈から推測しなければならない場面が多かった。

特に気になったのが序盤のお葬式の小道具で、こんなもん明らかに江戸時代に存在するわけないだろうという花飾りを使っているし、横断幕の描き文字も言葉も時代に沿っていない印象だった。これだけでも本気で江戸時代の世界を見せようという気持ちがないのが伝わってしまう。

総じて背景をサボっている顔漫画のような印象になってしまった。

問題点④ 台詞とギャグのつまらなさ

劇中ところどころ、中途半端にパロディや現実要素を差し挟んでくるのが気になった。例えば鬼滅の刃や大谷翔平の話など、せっかく江戸時代の話をしているのに没入感が下がるし、個人的にはあまり聞きたくなかった。
他には、演じ方にミスがあった他の役者についての指摘をしたりするのもやめて欲しかった。本筋に全く関係ないし、演技の失敗に気づいていない観客に対してはマイナスを生む行為にしかなっていない。

またことあるごとに入ってくるギャグ展開があるのだが、これも自分には合わなかった。近藤勇が恐妻から追われるシーンだったり、男色的な展開だったり、完全に余談なので面白く感じられなった自分にとっては全く無駄な場面にしか取れなかった。

問題点⑤ 意表を突く展開の少なさ

物語の前半一時間以上を観劇していて、しかし意外な展開や驚きを感じる箇所は皆無だった。これだけの時間話を進めるなら一度はこうした意表を突く流れが欲しいところ。

例えば近藤勇が遊郭で遊女に襲われるシーンで近藤が逆に謝罪したり、カオルが女だとバレてしまったと思いきや実は単に好きなのがバレただけだったり、驚きを生もうとしている努力は感じる。
それでも物語を多少知っている人間なら、これらの展開で驚きを持って迎えることは不可能だろう。

問題点⑥ 殺陣の残念さ

これも演劇という性質上やむを得ない点なのだろうが、この演劇の戦闘をリアルな血なまぐさい幕末の時代のものとして観ることは出来なかった。
例えば殺陣も明らかに寸止めだし、血の演出もないし、大げさな効果音があるだけ。当然だがその殺陣も映画やドラマなどの迫真のカメラワークとはいかないし、勢いにもキレがない。

一応言っておくと、おそらく役者の人はかなり頑張って練習しているはずで、演技に不足があったというわけではない。
ただ単に、リアルさと誇張をプラスした映像作品と比較して、舞台にあがり目の前で生の演技を見せることでの付加価値が存在せず、結局映像作品の方がいいよねと思わせてしまうところに問題があると感じたわけだ。

お次は良かった点を記す。

良かった点① 役者さんの演技

役者さんの演技は素直によいと感じた。特に沖田・近藤・土方あたりは素晴らしく、メインどころは良い役者さんで固めてきたなという印象。
その三人の表現は今まであった型どおりのテンプレだが、しかしそれをきっちりと演じきっている。
有り体に言うと、原作通り。そんな感じで不足のない見事な演技だったんじゃないだろうか。

良かった点② 光の演出

光の扱い方は中々面白かった。
舞台が完全に真っ暗になって、その間に舞台の上が変化したり、スポットライトを上手く使って心理表現をしたり、これは舞台ならではの表現だなと感じた。

良かった点③ 生声

他の映像作品と比較して役者の声が直接聞けるというのは中々に嬉しいポイント。お前はマイクで取ったものと実際の生声を聞き分ける耳を持ってるのか?と言われるとそんなことはないのだが、それでもやはり直接の声を聞けるというのは少し楽しい。

~総評~

この舞台を見に行く前、ちょうど推しの子というアニメの最新話(第二期二話)を見ていた。(若干ネタバレになるかも)

そこでアクアが「舞台は可動式の背景セットはしょーもないし、大げさな演技も白けるし、同じ時間使うなら映像作品の方がいいよね」というような台詞を言って、それに対してあかねが「じゃあ劇の面白さを教えてあげる」というようなことを返して、二話が終わった。

自分もアクアと全く同じイメージを持っていて、この劇を見に行くことでその固定観念がどのように動かされるか少し楽しみにしていた……
のだが、結局そのイメージは全く変わらなかった。

壬生狼という作品固有の問題も存在するとは思うが、演劇というのは二重にフィクションを作ってしまっている。

第一層として単純に物語としてのフィクション。つまり物語としての面白さだ。
第二層としてそのフィクションをどう演じるか、演出するかというレイヤーが存在する。
舞台は映像作品のようにそのシチュエーションを完全に表現するのは不可能だ。映画のアクションシーンでは本当に敵も味方も本当に死んだように描写できるし演出できるが、演劇ではそれは不可能だろう。

つまり死んだことを違う方法でそれっぽく見せなければならない。ここに演劇ならではの嘘が重なってしまう。

ここをどのようなアプローチで埋めるかで、演劇独自の付加価値を生み出すかが肝要なのだろう。
だが残念ながら今回見た壬生狼の自分の感想としては映像作品の下位互換としか感じられなかった。

もうしばらく舞台を観にいくことは無いと思う。



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