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エルデンリング日記(8) 腐っている、腐っている、腐っている。

 ああ。ああ。ああ。腐っている、腐っている、腐っている。何もかもが、腐っているか、これから腐っていく最中であるかそのどちらかしかない。ならば。ここにいる私も、いずれかには。
 ああ。


しんどい

 つい先日まで、星のみえる美しい井戸の底を歩いていたのに。
 それでなくとも、半壊ながらも美しい造型の廃墟か、血みどろながらも濃い緑のなかかを、そのどちらかが世界であったのに。
 それが今は、赤く腐れて爛れ、その腐肉を食らいバカでかく肥えた犬かカラスかのバケモノが、なおも貪欲に何かにガツガツと群がり食らいついている様子が常に目の隅に入る、赤茶けた地獄を歩いている。
 集合恐怖症ならばギブアップするであろう汚らしい菌類の繁茂した岩場を踏みしめればねちょりとイヤな音が響き、その腐れを払うために村ごと焼かれたと思しき人々は今も呻き声をあげ、こちらをみて、助けを求めて手を差し伸べてきたと思えばなんか爆発する。
 なんで爆発すんの……。

『腐り』に抗するための特別な火なのだろうか(直後大爆発)

 赤く腐ったケイリッドの地は今回が初めて踏み入るのではない。
 探索の最中、あがった火の手を今も残して燃える「燻りの教会」を見付けそこから少し足を伸ばしたことがあるし、竜に焼かれた廃墟の地下の、転送罠にかかり、この地の坑道にまで飛ばされたこともあった。
 その、入り口の端でも十分「うええ……」という景色だったのでそうそうに逃げ帰ったのだけど。そんで逃げて正解だったなと思うとこだけども。

うーん閲覧注意。

 ダークソウル3でのDLCでは局所的に腐りに飲まれてる世界が描写されたことはあった。アリアンデルの絵画世界がそれで……ダークソウルの世界において、不死者達には戦い続けるか、その末に心折れて亡者になるかしか選択肢はなかった。その彼らに訪れた救済が「甘く腐っていく」という発見だった。絵画のなかという隔絶された世界ならばそれが可能で、不死故に朽ちることない不死者が無限に生む「腐り」は絵画世界に溢れかえり……元よりその世界にいた住人は「焼いてくれ。焼いてくれ。腐りに飲み込まれる前に、この世界を、どうか絵画ごと焼いてくれ」と泣き嘆いていた。
 それが。
 それを。
 オープンワールドの一地域全土でやるこたないじゃないですかフロムさん……。

 フロムソフトウェアは定期的にこういう、「これでもゲームを続ける?」という直接的な問い掛けめいたことをゲームでもってぶつけてくる。フロムは漫然と、ただ時間を費やすことだけでエンディングにまで辿り着くようなプレイングを阻んでくる。「それでもエンディングまで行きたい」という、プレイヤー自身の決定を確かめてくる。
 ダークソウルが妙に好きな毒沼はそういう問い掛けなのだと個人的には思ってたけど……ずぶずぶと体力を削られる毒沼はプレイフィール的にも好ましくないよねと判断したのかどうかは知らんが……それを、メンタル面へのダメージに還元した形がコレなんかなというか……。

 くるんじゃなかったバリにメンタルダメージを引きずりながら旅を続けるけども、そもそもここに来た理由はブライヴの面倒をみるためである。
「いえーい地道な探索でなく暴力で話を進めれるぜー」と喜んでいた(意訳)ブライヴが、ゲームを再開すべくロードしてたら即移動してて、せっかちっぷりにちょっと笑っちまったよ。

すぐ目の前にブライヴくんのいた場所

 何かとNPCには辛くあたるフロムゲーなんで急いで後を追ってきたはいいものの、つい道中見掛けた坑道を探索してもうた。
 坑道は鍛石がごろごろ手に入ったり、なんなら鍛石を無制限購入できるようになるナマリ玉が入手出来たり等攻略上美味しい探索先なのだ。とはいえ……こんだけゴロゴロ手に入ると(ラダーンというデミゴッドとの接触が予見されているのもあって)、ここで入手出来る鍛石(4)相当にまで武器を鍛えた前提でバランス取るからね? という宣言にも思えて素直に喜びきれないところはある。
 それでなくとも、知力中心のステ振りで、普段持つ武器を今後どう選ぶべきか悩んでいる最中なんだよな。

 と先まで進めばすごい武器を入手してしまった。

 坑道の最奥にいたのは「溶岩土竜」というドラゴン。土竜、モグラという名にふさわしく、目が退化しているものか闇雲に突進してくるそれを何とかいなして撃破すれば、竜らしく「竜の心臓」をドロップした後に「名刀月隠」という刀を残した。

筋力と技量が要求値ぴったり!

 名刀月隠。
 マジか。
 フロムゲーで月と名がつく武器がでた。
 そんならムーンライトやな。
 でも月が隠れてるんよな。
 ならムーンライトではないのか……?
 でも説明書きには「光波」が出ると書いてあってな。
 ほならムーンライトやないかい。

 暗やみにあって仄かに、しかし確かに降り注ぐ一条の明かり。
 フロムゲーのブランドを跨ぎ、プレイヤー達の捧げ持つトロフィーであり、相棒であり憧憬であり続ける月明かりの名を持つ剣。

 要するにフロムゲーファンなら誰もが使いたがる伝統の武器なのだけども、フロムゲーにちょいちょい登場しつつ、登場の度にムーンライトソードだとか月明かりの大剣だとかLC-99とか名前や設定を異にしている。そんだけに要求ステータスが作品毎に違ってるんで折角入手出来てもビルド的に装備できなかったり不似合いだったりするんで、使うのを諦めたりもしがちなのだけども……今作は、スゲエ。必要筋力も技量も要求ぴったりで、しかも知力による威力補正が最も高く設定されてある。
 なにこれ運命?
 そういや気付くべきだったかもしれない。
 今作の知力寄りビルドは「星見」の力であって、魔術師最高位のボスとして登場された女王レナラは「満月」と名を冠していた。
 ならばムーンライトも如かずだ。

 もちろんこの名刀月隠とは別に、月に隠れてない月明かりの剣が他にある可能性も高いけど。
 そんな理屈はさておいて、持ってる喪石で鍛えられる一番先まで鍛えた。理由はもちろん「月光だから」に他ならない。
 スゲエ。うれしい。

 ……その最初の試し切りが。
 腐肉を食らってバカでかくなった野良犬の乱ぐい歯に向かって振り下ろす一撃だったのだけども。

 うう、うう……私を導いてくれ、星明かりよ……。

 泣きそうになりながら、なんなら泣きながら先に進む。
 普段ならばニューカマーなザコ敵との会敵はちょっとわくわくできる出来事なのである。敵対しつつも世界観に触れられるからね。でも、今回の場合は腐れ犬に腐れカラスに……あとは、人とも虫ともつかない、たくさんある節足をわきわきわさわさとさせて這い回ったりのしかかったりしてくるドデカフナムシめいた戦士である。

カサカサと蠢く

 精神攻撃(メンタルブロウ)にいとまのないゲームだこと。

 カニだのエビだのをうきうきと繰り出してくる今作にあってフナムシが槍持て襲いかかってくることも今さらなんかもしれない。
 槍で手堅く攻撃をしてきて、大きな回避行動も取る彼らは魔術師系ビルドにとってなかなかの難敵ぽくはあるが、それらの生息域が廃墟とあらば、そこにある地下を求めて斬り結ばずにはいられない。なんかエルデンリング世界の廃墟には必ず地下があってそこに宝箱がある法則ぽいので。

 そうして見付けた、彼らの住処になっている廃墟の地下で。

 地下が。

 階段を降りて踏み入った先で、小さなフナムシ戦士の……。
 稚児だろうか?
 そうと思しきものに飛びかかられた瞬間からイヤな予感はした。

 大量に襲いかかってくる小サイズな節足戦士を切り払ってあらためて地下室を松明で照らせば。
 ああ。
 ああ。
 ああ。
 墓地。
 墓地だ。地下墓地だ。

 石棺は繁茂したカビとコケとに押されて開き……そこに大小様々な……卵殻と思しきものが、びっしりと、転がっている。
 私の知るフナムシ知識でいうと、彼らは臆病な性質をしており、みずから狩りのような行動はとらず、何で糧を得ているかというと。
 腐肉あさりである。

 とすれば、ここ、元いた住民の埋葬されたであろうここの、彼らの稚児が餌にしたものは。

 うう。
 そうと判断するのは早計だ。
 このケイリッドの地が腐りに飲まれてから長く経過している。とするなら、このせまい地下墓地の遺骸などでは食料源としては数がたりないのではないか。ここに卵殻があるのは、腐肉でなく、腐肉を苗床にして繁茂した菌糸類でもって育っていると解釈した方が理に適っているのではないか。
 ならば。
 だとするなら、この、赤く腐り、不愉快な菌類に包まれ、何処まで行こうとも死と毒と腐りとに覆われつつあるこの地でも、それに適応して育つ新たな生命が、文明があるのだと、そう解釈すべきではなかろうか。

 この地下墓地は、揺り籠なのだ。

 この腐れたケイリッドは、そうした彼らにとっては、孵化を待つ卵であり、柔らかく暖かな揺籃なのだ。
 私らには汚らわしくみえたとしても。

 ああ。
 吐き気がする。

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