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剣道の構え・動作解析① 剣道指導要綱では身につかない「自然体」の形成 99%やっていない構え

剣道の向上に取り組みたい場合、姿勢とは何なのかというものを追求しなければならない。それは剣道の基礎が原点ではなく、姿勢そのものの原点まで分割していく。このマガジンでは、剣道の基礎が「基礎」だと言いたいのだが、身体が一番動けるパワーポジションの追求を辿っていくと、宮本武蔵の「五輪の書」剣道の姿勢の基礎は明治政府以降の軍隊式の正しい姿勢の追求によって身体的合理性をかいたものが歪んで伝わっているのではないかという仮説が立てられてしまう。ここで、99%の剣道人は、身体的合理性の欠いた構えを行っているので、読んで少し修正するだけで相対的に飛躍的な向上が保証されてしまう。

この記事に対して自信があるというだけではなくて、事実を並べてみると、そうなっているのかなという結論に至っております。それでは、紹介していきます。

動きとは「崩れた姿勢を元の姿勢に戻ることの反復動作」です。なので元に戻る動作と元に戻った状態が、ここを100%の状態にすることで動作が飛躍的に向上することになります。人は、崩れた状態の動作で別の動作に移行することはできません。崩れたら元の姿勢に戻って次の動作を行うわけです。歩く動作も、崩れた姿勢を持ち直してまた崩すことの繰り返しであります。したがって、その元に戻った状態を作り上げること、すぐに次の動作へ移行するための「剣道の姿勢作り・構え作り」というのは、剣道の動作の50%を占めていることがわかりますので、最重要事項に至ります。

ここで間違えれば剣道の全てに影響を及ぼすので、慎重に「良い姿勢」を作り出してほしい。

人類は地球に存在する重力環境に応じて適応(進化)してきた生き物であり重力に逆らう行動をとると余分な力が入り、それが怪我を生じさせます。この「自然体」とは、「重力」に従った構えの形成であり、剣道においてだけでなく全てのスポーツ競技において重要な考え方になります。

スポーツというのは時に残酷で頑張れば頑張るほど疲労がたまり結果が出なくて怪我をする、治したらまた怪我をするといった負の連鎖に直面するケースがほとんでありますが、こういった負の連鎖に陥らないための基礎の基礎の段階で「自然体」が重要なのです。

「正しい姿勢」明確な解答がなされていないのが現状であるので、一から可能性を分析していく。

猪飼は「①安定であること②筋の負担が軽度であること③美しいこと」、石河「からだ全体の形」、大島「ある時間維持される身体の重力方向との関係と身体各部の相互の位置的関連性を示すもの」、ゴールドウェイト「よい姿勢とは、頭部を真っすぐに、胸を張り方を後ろに引いて、腹部を引っ込めた姿勢で、脊柱と重心線とが基本的に正しい位置関係を取らねばならない」長谷川「生理学に限れば、健康で、機能が優れ、エネルギー消費の少ない、披露しにくい、安定なこと」解剖学的、生理学的基準に加えて心理学的には「精神状態が安定で、かつ柔軟で活気あふれ前向きであること」、審美学的には「見た目に美しい」

このように正しい姿勢に対する専門家たちの解答はバラバラで不明確となっている

楽な姿勢の実験

レーマンは楽な姿勢を探る目的で水中で全く力を抜いた姿勢をとらせ、水中カメラで撮影し重ね合わせた結果、それは膝関節、股関節を135度に屈曲した姿勢であると言っている。大島もスカイラブにおける宇宙飛行士の遊泳姿勢が肘、膝、股関節など全部の関節をある程度曲げたものであることを示している。正木は、新宿駅のプラットホームで電車待ちのヒトの休息立位姿勢を調べ、片足を前に出した休め姿勢が37%で最も多く、次に両足を開いて立っているが、どちらかの足に体重を乗せた姿勢が21%、この2姿勢を中心にわずかに修正されたものを含めると90%以上で圧倒的に多く、楽な立位姿勢は片足に体重を乗せていることがわかる。

楽な姿勢は、膝と股関節は軽く曲げる。片足に体重が乗る

直立姿勢の解剖

直立姿勢を支えているのは脊柱であり、人間は直立二足歩行を始めてから脊柱は他の動物とは違った独自の湾曲を描くようになった。脊柱の湾曲状態をみたところ、脊柱湾曲線の頸椎部最凹点と腰椎部最凹点と脊柱最凸点とを結んでできる角度aをみると、平背a>165度、正常背165度>a>155度、猫背155度>a、脊柱の正常な角度として、真っすぐではなく、15度~25度、曲がっていることを認識しなければならない。剣道の姿勢基礎は、顎を引いて、胸を張るように指導されるために、頸椎部最凸点に凸がなくて真っすぐになってしまっていがが、実際のところ正しい姿勢ではないため脊柱に余計な負担がかかっている場合が多いのだ。例えば、審判をやって長時間立位姿勢を行った後、腰に対して集中して負担を感じる場合は、それはちょっと猫背になった方がいいわけですね。

脊柱湾曲線の頸椎部最凹点と腰椎部最凹点と脊柱最凸点とを結んでできる角度aをみると、平背a>165度、正常背165度>a>155度、猫背155度>a

また、良い姿勢だからといって重心が丁度足長の半分のところを通っているかというとそうでもなく、平均的には踵の方から43%前後のところを重心線が通っている。つまり、幾分うしろがかりの傾向がある。

重力

この画像の左の立位姿勢をみてほしいのだが、もし、つま先に重心を置いた場合、重心点とつま先の重心点を結んだ場合、線が左斜めの直線になることがわかる。つまり、つま先に重心をかけると、人の身体が後ろの方に傾くことがわかる。剣道においてつま先重心の構えをしているということは、身体をわざわざつま先に全体重を乗せて支えて身体の立位を維持して構えているということなのだ。つま先に全体重を乗せるということは、それだけ、つま先、足首に偏った負荷がかかるということである。この時点で、「正しい姿勢」だけでなく、剣道においての「構え」において、足全体に対して、左足が、足先側に重心を置くという選択肢がなくなる。モルトンによれば、スタティコ・メーターを使って足底における体重の配分を調べ、体重は踵部に3、拇趾をぬいた拇趾部に2、拇趾部に1の割合が最も理想的であり、前後の体重配分は3対3の割合になるのがよいという。

また頭頂同様図を記録してみると、視野が明るい場合よりも暗室の中や遮眼した場合に、非常に動揺が大きくなることが分かる。つまり、姿勢を保つうえで視覚の影響がかなり大きいということがわかる。

構えとは

「構え」とは、反応への準備状態のことであるが、パワーズの基本動的姿勢というものが存在する。パワーズは各種運動の構えを観察して共通の傾向として、やや前傾し、膝や肩の力を抜いて、肘、股、膝関節をわずかに曲げた基本動的姿勢を提唱している。更に、この基本動的姿勢が武道における自然体に非常に類似している。

柔道では、松本が「自然体とは、体重を両脚に等分にかけ、腹に自然に力が入り、腰は曲がらず、胸を挟めることなく、頭を直進に保ち、脚、腕、肩などが自然い力が入るままにし、口は軽く閉じ、目は前方と凝視せず通法の代僕を眺めるようにする等、唯唯自然いすらりと立った姿勢である」と述べているように敵の襲撃に備えて前後左右に自由自在に動けるように各関節をわずかにゆるえめて直立した構えである。したがって、気を付けの姿勢のような剛直したものではない。

このような背景から改めて、「いろんな姿勢」について比較考慮していきます。

1.剣道指導要綱の正しい姿勢

まずは、「剣道指導要綱」の「正しい姿勢」のポイントをみていきましょう。

1:首筋を立ててあごを引く

2:両肩を落として背筋を伸ばす

3:腰を入れて下腹部にやや力を入れる

4:かかとを軽く突ける

5:両ひざを軽く伸ばして重心を心持ち前にかけて立つ

6:目はさわやかに全体をみる

このように、皆様が日頃行っている基礎に忠実なのではないでしょうか。ところが、私はこの基礎に関しては採用しない立場です。これは、何故かと言いますと、剣道指導要綱、つまり、剣道の正しい姿勢というのは、明治時代の軍国教育から派生して作られた形が、現代日本人の「気を付け」の姿勢になっているのですが、実は、これ自体が、人間が効率よく動くための姿勢ではない、単に身体を固くしてしまっているのではないかという結論に私は至っております。特に「1:首筋を立ててあごを引く」「5:両ひざを軽く伸ばして重心を心持ち前にかけて立つ」ここら辺は、良くないですし、「3:腰を入れて下腹部にやや力を入れる」「6:目はさわやかに全体をみる」ここら辺も、誤解が生じやすい曖昧な感じですね。

しかも、日本陸軍の「歩兵操典」の「気を付け」をみていただきたいのですけど、あごも引いておらず、背筋も伸ばしきっていない、そして、ちょっと前傾なんですよね。「命令が出ればいつでも動かせますよという姿勢」がこれであります。この時点で、剣道指導要綱がどこから引っ張ってきているのかすらもよくわからなくなっている。現代というのは、何故かわからないですけど、「かっこよくて、堂々とした」姿勢ではあるんですけど、それ実は動きにくいんじゃない?って話になっていきます。

2整体師の「正しい姿勢」

次に、一般的にな正しい立ち方、整体師や腰痛を専門とする人が提唱する立ち方です。壁に背中を当てて、まっすぐに立つ練習です。後頭部、肩甲骨、お尻、(可能ならふくらはぎ)、かかと、を壁に密着させた状態で立ちます。

「良い姿勢」とは、力で無理やり作るものではなく、腕や上半身の重さ(重力)によって作られる。「悪い姿勢」は、重力に逆うため、腕や上半身の重さを下半身で支え切れていないので、立っているだけでも疲労がたまる姿勢となる。では、どういった姿勢が人間にとって最も重力に逆らわない「自然体」となるのだろうか。それは3つのポイントがある。

肩甲骨が背骨に向かって斜め下による。つまり、上半身と下半身をつなぐ背骨の境目といわれる胸腰椎移行部(みぞおちの下あたり)を境に腕の重さ、上半身の重さで肩甲骨が内側による。

胸腰椎移行部(みぞおちの下あたり)のところが前に突き出させれるので、お尻が後ろに引かれる

3腰の骨が前弯するので骨盤が前に倒れる。

この3つの動作が連動して行われるのがよい姿勢であり、この時に腰に力が入らないで、胸腰椎移行部で上半身を支えている感覚があれば正しい姿勢となります。胸腰椎移行部で支えることができれば「骨格」で自分の身体を支えることができる。要するに、力をいれないでも身体をささえることができ、上から「力」がかかったとしても自分が身体が崩れない。

3.トップアスリートの外旋立ち

更に、トップアスリートの観点からみていきます。【スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと】から引用

股関節は、本来少し外旋しているくらいがニュートラルな状態です。立位姿勢で、膝頭がまっすぐ前を向いた位置を0度とすると、解剖の本によれば、通常の人は最大外旋角度が60度くらい、最大内旋角度が30度くらいになります。したがって、その中間角度は、10~15度外を向いた角度、これがニュートラルな股関節の位置となる。とくに、外旋筋群を緊張させなくても、自然にわずかに股関節が外旋した状態になるようになった人は、上体がまっすぐ(0度)という感覚になります。ところが、日本のスポーツ選手は、股関節が内旋位で硬くなって固まってしまったいる場合が多い。そのような選手は母指球で蹴って移動する動き方を基本としているので、たえず、膝を内側に締めて、関節を内旋させたままにして置く人が多い。

ところが実際のところ、母指球ではなく小指球に体重を乗せることで足裏全体に体重を乗せることができ、身体が安定します。

4.なみあし流

剣道の木寺先生教士七段が提唱する「なみあし流」です。

・両足を閉じさせること、腰を前方に入れさせることで、股関節の自由を奪う(弓腰の状態)
・顎を引かせることによって、肩甲骨の動きと関係がある胸鎖関節周辺の緩みを奪う

なみあし流では剣道指導要綱の「顎を引くこと」や、また「内股」には否定的であり、

・足を肩幅(骨盤幅)に広げる
・足先はやや開く(足先と膝がしらは同方向)

剣道における左足を外側に向ける状態を推奨しています。股関節外旋位の状態による股関節が働き、骨盤が安定します。

更に、なみあし流では以下のような姿勢を推奨

膝を少し曲げる→骨盤を前傾させる
→骨盤の上に楽に上体を乗せた立つ

足底の踵の方に重心を落とす
→現代剣道は母指球で蹴ることによって動作を起動するが、「なみあし流」の二軸感覚での立ち方では、重心を踵の方に落としたまま。

「人はつま先で床を押すと身体が後ろに倒れ、踵を床を押すと人は身体が前に倒れる」という自然原理がある。いやいや、つま先で床を押した方が前に倒れると思っているかと思われるが、それは身体の重心をつま先に移動させただけであり、身体の重心はそのままにしてつま先を押すと後ろに行くようになる。すなわち、身体を前に倒す動作というのは本来「踵を床に押す」ことが合理的である

5.武井壮理論

武井壮は、「背骨は構造上真っすぐにおらず、S字のカーブになっている。人の身体は真っすぐになっていると思わない方がいい。したがって、上体は全体的に丸く、骨盤も立てようとせず、肩も若干猫背にして前に傾ける姿勢が有効。これは歩くときも、走るときも一緒。身体の体重(重力)を利用するために、上体は前傾にしてポジションをとるべし。上体を真っすぐにしようとすればするほど腰に負担がかかり腰痛を起こす

上体はやや猫背・背筋を伸ばさず身体を丸めるようにする

6.宮本武蔵

宮本武蔵

こちらの「宮本武蔵」の絵は実際の宮本武蔵を元に描かれたものであります。現代もこの画像が「宮本武蔵」と認識されているのは、宮本武蔵を忠実に再現されているからだと思われます。剣道の「伝統精神性」、勿論、真剣時代の武士たちの「剣」を学ぶためのものでもありますけれども、専門家の間では、日本の武士の身体能力は、イチローレベルだったのではないかと言われています。これは、江戸時代の庶民が1万キロ歩いても平気だったり、明治時代の米俵60キロを女性が担ぐ写真などといったことからもある通りです。宮本武蔵は、『五輪の書』の水の巻では身体の使い方を書籍として発行していますが、当時の日本人の武士たちは剣操作もさることながら、身体操作の達人だったのではないかと言われています。そんな宮本武蔵なのですが、この画像をみると、背筋をそこまでピンと伸ばしていないことがわかりますし、顎も若干前に突き出していることが分かります。身体の上体も丸く前に出ていて、武井壮と同じ理屈だと思います。また、両脚とも足を外旋させていることも確認されます。

このように剣道の伝統的な構えの一番の先祖様である宮本武蔵はこのような構えをしているわけです、

まとめ:「構え」を作っていく

これらの情報と、別の知識を統合させて、この記事でいう「正しい姿勢」の形成をまとめていきたいのだが、このマガジンでの「正しい姿勢」、この時点で剣道の常識的な姿勢とは、相反することになる。

①胸腰椎移行部(みぞおちの下あたり)のところから身体をやや丸めて前に出す:猫背。厳密には上半身と下半身のつながっている胸腰椎移行部を人は動かすことができるのだが、背骨のS字カーブを補助する。更に上体にかかる体重を前に倒すことで重力によるパワーを前に与えることができ、筋力の負荷をかけずに構えることができる。

②丹田(下のお腹)に力を込める:丹田に力をこめるということは身体の前傾にする力に引っ張ることである。腹筋は背筋違い、内臓を動かさなければならないので常に筋肉が活動している。したがって、腹筋は凝らないようにできているため、常に丹田に力を込めるポジションを取る

③小指球、踵重心:剣道ではかかとを少し浮かせろという指導が基本であるが、踵は床につけて、踵重心でも構わない。それは簡単にできないと思うのでせめて、「母指球」ではなく「小指球」に重心をかけた構えを形成することにより足裏全体で身体を支える感覚を身につけて欲しい

④膝を軽く曲げる:楽な姿勢、つまり、身体に負荷のかからない姿勢は膝関節・股関節を130度ほど屈曲した状態であることがわかりました。これを応用するなら、一番力みのない状態で構えるなら、膝を若干曲げて構えた方がよいことになる。

⑤足先、膝頭15度外旋:解剖の本によれば、通常の人は最大外旋角度が60度くらい、最大内旋角度が30度くらいになります。したがって、その中間角度は、10~15度外を向いた角度、これがニュートラルな股関節の位置となる。ここが本来の正しいポジションとなる。足先を真っ直ぐに構えて打突すると余計に内もも、太ももが疲労することとなる

⑥鼻と耳が床と並行で並ぶように顔を固定する:カンベル平面であるが、別記事で詳しく解説する。ここでは顎を引かず、顎を突き出しすぎず。基準としては構えた時、目と耳が床と並行ではなく、鼻と耳が並行になるように顔を固定する。顎を引くと余計な筋肉が収縮した状態となり身体が固まる。

このように一部は完全に剣道指導要綱や剣道の基礎動作に反する動作でもある。専門家を交えても、剣道指導要綱をみても、意見がバラバラであるため、「姿勢」を単なる「コツ」として覚えることはできないのだ。しかし、この記事では語っていないが「股関節の外旋」が身体を前に推進する力であるのならば、その状態を発揮するニュートラルな構えを理想とするとこのようにいきつく。その上で、この上記の6つのポイントでいいのか自分の感覚で実際に稽古してみて、それから、ポイントとは反する動作を比較考慮しながら稽古してみながらも、このように結論付けた。