剣道の構え⑥左重心「左腰で打て!」の「左」を解析する「左股関節の外旋力」
剣道の左腰→左重心を語るには、その原動力動作となる「左股関節の外旋」となるので、前編で「股関節」の構造について語りました。今回の後編ではいよいよ「何故、剣道では左が重要視されるのか」というのを語っていきます。これを読むと、剣道が非常に安定するどころか、日常生活や他のスポーツの身体能力も向上します。剣道の極意は身体操作の極意でもあったわけですね。この記事が剣道で一番重要なことだと思います。この内容を理解してしまうと本当に皆さんレベルアップしちゃうので、一応は投稿しますけど、ひっそりと上達してください。
「左加重」ではなく「左重心」
まず、注意したいのは「左加重」ではない。左加重だと、上体も左に傾けることになる。上体の水平ラインを傾けることは、局所に負担をかける形となり腰痛などの故障を引き起こす原因となる。「左重心」は、上体を傾けず、目線も水平を維持したうえで上半身だけを左に平行移動した姿勢が「左重心」である。重心の移動によってあえて身体に不安定な状態を作ることで、スムーズな動きが可能となる。高段者ならこの説明だけで腑に落ちるだろうが、じゃあ、それはなんでだろうか?
左方向に進む人体構造
人体は、外面を見る限り「左右対称」に出来ているが、実際のところ人体は元々「右重心の左右非対称」でできている。
・特殊な事情がない限り左足の方が1センチ短い
そもそも、人類が左右足の長さが同じだったことはありません
・右利き・左利き=9:1、左利きの中でも右脳優位:左脳優位=4:6
・肺は右肺は上葉、中葉、下葉、左肺は上葉、下葉という構造で右肺の方が大きい。心臓は左肺の胸壁に押し付けられる形にある。心臓は実際真ん中らへんに位置するが、先が左の方を向いている。
・最も重たい内臓臓器である肝臓1300グラムは、3分の2は右半身側に位置する。右の腎臓は、大きな肝臓に押し下げられて、左の腎臓より背骨一つ分ほど下にある。
陸上競技、オートバイ、競輪も全て左回りです。それだけではなく、人は歩いている時、立っている時でも自然と左に重心軸に置きたがる傾向にあります。重心を左に置き、右足を浮かせる状態にすることによって、利き足の自由度を高める状態にしているようにできているそうです。この時、左足は内旋し、右股関節が外旋する状態で立脚姿勢を保ちます。
そもそも論、人間は左右非対称
左股関節は前方へ動く力を生む
この人体内部の左右非対称が生む歩行動作特徴から左右それぞれの股関節の役割を生み出している。つまり、左右股関節働きは違う。「左股関節は前方への動きを生み出し、右股関節は後方への動きを生み出す」という人体の原則が存在するのだ。剣道は勿論「左腰だ!」と唱えるが、これは日常生活、他のスポーツでも全て当てはまる原則となっている。試しに、身体を傾けずに上体をまっすぐにしたまま左の股関節に体重を乗せて、水平を保ちながら歩いてみてほしい。今度は逆に右の股関節に体重を乗せて歩いてみる。明らかに左の方がスムーズに歩けるはずだ。次に、右足を軽く浮かせて立っているところを正面から引っ張ってもらう。簡単に前方へ行くでしょう。逆に左足を軽く浮かせて立っているところを正面から引っ張ってもらうと、身体が微動だにしないのを体感できるはずである。※この時上体を折り曲げて圧力に抵抗しないこと、重心軸ではなく「加重」姿勢になってしまう。
外旋力がかかる方に重心が寄る
前提:股関節の外旋には二通りの形態がある。一つは股関節が単に形だけ外を向いている状態。もう一つは、股関節に外向きに回旋させる力が働いている状態。本来、対戦とは外方向へ外旋させる運動を意味するが、便宜上、前者を「外旋位」、後者を「外旋力」と呼ぶ
個人差があるものの、人間の股関節は通常15~30℃ほど外を向いて開いている。この時、股関節には内旋、外旋の力のいずれの力もかかっていない。形だけみれば、これは両股関節「外旋位」となる。
次に、両股関節を内方向に締めてみる。形だけみれば、股関節が内方向に回旋した「内旋位」の状態にある。しかし、その反作用として股関節の内部では「外旋力(外旋トルク)」が働いている。何故なら、人間の身体というのは、内側に脂肪浪とする力に対して、それを元に(逆向きに)戻そうとする強い反作用が働くからだ。逆もまたしかりで、外側に目いっぱい開いた力に対しては、内側に戻ろうとする作用が生まれる。股関節にかかるこの「外旋力」が、実は身体の右と左に重心軸を形成し、それぞれの動きの特徴を生み出す。つまり、左股関節に外旋力が働くと、前方への強い推進力が生まれ、右股関節に外旋力が働くと、後方への推進力が生み出される。(両股関節を内側に締めて、外旋トルクを働かせると、重心は骨盤の真ん中に収まる)
外旋力のかかる方に重心が寄り、内旋力がかかる方には重心は寄らない
次の実験を試して欲しい。星座の姿勢から身体を前に倒す。そこから股関節を左と右、それぞれに回してみる。次に身体を後ろに倒して、同じことをやってみる。今度はどちらの股関節がより大きく外旋したか。最初に左股関節を外側に絞り「外旋力」を働かせた状態で、体重を左側に預ける。目線は水平だ。この状態で左股関節だけを体の内部で、さらに外旋させてみる。その際、骨盤と上体は動かさず、左股関節だけを外に開くように心がけると、右足に前に出ようとする力が働くはずである。右股関節を同様におこなうと今度は左足に後ろに下がろうとする力が働くはずだ。
左股関節の外旋力は右半身に前向きの力、右股関節の外旋力は左半身に後ろ向きの力を与える。このけっかから、「いかに左重心で動くか」が剣道だけでなく、ほぼすべてのスポーツにおいてもパフォーマンスアップのための大きなカギとなる。
以上のことから、剣道でこれをどのように応用してみよう。「左股関節を外旋させ、体重を左側に預ける。」
構えの時、左足は相手の膝を向けた方がいいのかと考えるかもしれないがそれだとニュートラルポジションに戻ろうする反作用外旋力の力をもらえないので、足向きはニュートラルのポジション(15~30℃左足の向きを外旋した状態)で、そこから、左股関節を外側に絞る(肛門を締める)、そして、上体を傾けるわけではなく、目線も水平を保ちながらも左骨盤に体重を乗せていき、あえて身体に不安定な状態を作り出す。外旋力がかかっていれば自然と左側に重心がいくはずだ。
左足(左足先と膝頭)はニュートラルの15~30℃外旋した状態から、左側に重心を預け(上体を傾けず目線は水平を保つ)、さらに股関節を外旋させるために肛門を締める。右足は外旋力をかけたくないので相手にむかってまっすぐ推奨
というわけで、最強の左足の構えが完成した。
小林三留先生の「剣道の極意の左足」の書籍をより身体的に解剖して説明した。
次に打突する際の足さばきで左の「外旋力」が働くように足をさばくポイントが浮上します。
メン・ドウを打突する時は真っすぐ!右斜めに踏み込まない
メンを斜め右に打突すれば、それだけ、右股関節の外旋力が働きブレーキ作用が働きますので、右股関節はできるだけニュートラルな自然な状態をいじするために、なるべく、まっすぐ踏み込んでいきたいところです
注意しておくと、5段以下ならば、打突する方は遠慮して相手から右の方にズレて飛び込みメンを打つ方がいらっしゃるかと思います、おそらく優しい方なんだな思いますけど、ぶつかっていってください。
よく、コテを打つ時なんかはよく言われると思いますが、右の踏み込み足を相手の右足を踏み込むように打突することで、右の股関節が内旋し、戻ろうとする力で外旋力が働きます。したがって、このように打突した場合、コテ打ちの残身は足が止まるようになっています。先述した通り、右の股関節が外旋すると、身体を後方に裁く働きがあるので、身体にブレーキがかかります。よく「右足」に体重がかかると前へ進めない感覚があるかと思いますが、あれは、厳密に「右の股関節が外旋する」ということです。コテを打った後、相手に接近する場合は、右足を踏むように打突した後、身体を左に外旋し、半身状態で相手の懐に入っていく形で言った方がいいでしょう。また、まっすぐ打突したい場合は左の方にすり足を入れてからまっすぐコテを打突するのがいいでしょう。手段は1つではありません。
剣道の構えの「足」の作り方でも一応説明はしてあるが、剣道はこの状態を維持しながら、打突していくことになる。足自体はニュートラルのやや外旋位置に置きながらも股関節だけを内側に絞ることによる反作用と左重心によって股関節に外旋力をかけるのだ。これは、剣道だけでなく身体操作の基礎として身体を前に送り出す力を使いたければ「左重心」がベースにあるということである。これは、左上段でも二刀流でも同じです。特に、左上段というのは打突後の残心の移動が左に流れるはずです。
↓股関節トレーニングはこちら↓
追記:他の競技の一流選手の左重心をみてみよう
こちらは、人体の左重心の重要性に説得力をもたせるためのコーナー。まずは、相撲をみてみる。2010年の11月、NHKで63連勝を記録した横綱・白鵬の強さの秘密を最新の科学で分析したものである。番組では、筋肉活動調べるマーカーを白鵬の全身20か所に取りつけ、立ち合いの実験に挑んだ。この実験で最も注目したのが白鵬の腹筋の使い方。相手の圧力を受け止め、跳ね返すための腹筋力が、いかに働いているかの計測だった。しかし、研究者の予想は大きく裏切られる。腹筋はごくわずかにしか反応していなかったし、それどころか、上半身の筋肉そのものがほとんど活動していなかった。そして、最も活動していたのが下半身、特に、左臀部と左太股の裏の筋肉だった。右4つを得意とする白鵬は、右足から踏み出し、右半身で相手の当たりを受け止めるのが基本形である。これは、白鵬が左股関節で相手の圧力を受け止めていることを物語っていた。さらに白鵬のMRI画像の撮影も行った。すると、他の力士とは歴然と違う、白鵬の異常に発達した太股の筋肉群。特にその裏側の筋肉は、脂肪が極端に少なく、しかも均等によく発達していた。
イチロー:イチローはあたかも軸を左足から右足に移しながらスイングに入っているかのように見える。これによって多くの左打者がイチローを真似ることで右足への軸移動を行い、結果的にその大半は失敗してきた。インパクトの際、ボールの勢いに身体が負けてしまうからだ。右重心軸では前向きの力が生まれないのが、その理由である、じゃあ、当のイチローはというと、踏み込んだ右足は、身体の「支え」のような役割しか果たしていない。体重を右足に移しているわけではないのだ。基本はあくまでも左重心となっている。左股関節に重心を残したまま、左股関節がグッと前に寄っていく。これがイチローのスイング時にみられる骨盤の動きで、その「股関節の回転半径が小さいこと」が特徴なっている。ただし、左方向に打ち返したり、大きな打球を放つ時は、その左股関節の回転半径は大きくなっている。つまり、イチローの場合、打球の飛距離や方向によって左股関節の回転半径を縮めたり、大きくしたりしている。
和田一浩:右打者はどうなのか?2010年セリーグ首位打者。一見右足に体重を預けているように見えるが、和田の場合は、左腰をやや鎮める様にして構えの時から重心を左にずらしているのが特徴だ。上半身は傾いておらず目線も水平を保っている。そこから投球に合わせて脚を上げる。従来のコーチングはこの時点で、右足に体重を乗せることを推奨しているが、和田の体制やバランスを注意深く観察してほしい。彼の左重心はここでも崩れていない。脚を上げた状態でも、重心は左に残したままだ。踏み込みと同時に左股関節に鋭い外旋力がかかり、このとき、左股関節に重心がしっかりと夜。つまり、和田の場合、構えからスイングに至るまで一貫して左重心を維持し、泰淳の移動がほとんど行われていない。また、左足をアウトステップしながら踏み出していた。これによって、左股関節に強い外旋のトルクがかかり前方へ引っ張る強い力が生まれる。しかし、右打者が左足を員ステップしてしまうと、左股関節に内旋力がかかる。そうなると、右股関節に外旋トルクがかかってしまうので、後ろ向きの力が働くという弊害が生まれてしまう。
これは和田一浩だけでなく、落合、長嶋、といった一流の右打者の共通した動きで、こちらも左重心のバッティングを行っていた
ピッチングの際でも、多くの右投手は投げ終わりに身体が一塁方向へと流れている。この身体の動きは、左投手にはほとんど見られない。右投手が左足を踏み出した時も、この外旋力が働く。踏み込んだ後も左股関節はなおも前に向かおうとするためその動きに身体がひっぱられる。左投手は逆に踏み込んだとき右股関節の力が働くのでブレーキの作用が働き身体が流れない。
右投手の場合は、投球の初期動作から左重心を心がける。もちろん左足を上げた時も、重心は左股関節に寄せたままにしなければならない。そこから、左足を踏み出す。ようするに、左半身主働と言うべき身体操作でこれによって左重心での投球をスムーズに行うことができる。メジャーでは「歩くように」左足を小さく踏み出す一流右投手が多い。さらに、左腰を折りたたむような投球フィニッシュをみせる右腕も目立つが、それもこれも左重心を維持するための意識的・無意識的所作に他ならない。
左股関節の「押し」や右股関節のブレーキエネルギーをダイナミックに使う左投手に対して、右投手の投球動作が一般的に大人しく見えるのも、その辺い理由がある。